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無口な西洋人形  作者: 鎌勇
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1.誕生日プレゼント

 これは、私がまだ小学校に入学したての頃に起きた不思議な出来事について記述したものである。

 ことの発端は、小学校の入学式を終えてから二週間後の私の誕生日。父が仕事帰りに買ってきてくれた一つのプレゼントからでした。

 もともと私の父は、昔から現在までその形を保ち続けてきた()、俗にいうアンティーク品が好きな人でした。そんなこともあってか、私の七歳の誕生日には父の会社近くにあるという骨董品店で一目惚れしたというイタリア製の人形を買ってくるのでした。そして、それを私に誕生日の贈り物としてくれたのですが、その頃の私は全くと言っていいほどにイタリアだのフランスで作られただのと説明されたにしろ何の興味もありません。しかし、父は一生懸命に西洋人形の魅力について語っているのでした。

「人形の頭部が陶磁器でな、()()のつぶらな瞳に似ていてそれでなお幼女のフォルムと・・・」  

 そのような現在の私からしてみても、あまり気を好くしないような事ばかりを言っていました。

 一方で、私の母は、父が娘の誕生日に大枚をはたいて購入してきた物が西洋人形であったため呆れているようでした。

 それから、父は母から少しの時間、注意をされていました。その後、母が(あらかじ)め用意しておいてくれた誕生日ケーキを家族三人で食べるといったことをして私の記念すべき七歳のお祝いの日が終わっていきました。

 その後、父の買ってきた西洋人形はどうなったのかというと、母が私に対して溜め息交じりに、

「一応、父がせっかく買ってきてくれたものだから部屋にでも飾っておきなさい」

 そのように母が私に言ってきたため、当分の間は私の部屋の机に置いておくこととなりました。そして、不思議なことが少しずつ起こり始めていくようになったのです。


 人形をもらった翌日のこと。私は小学校から帰宅してランドセルを自分の部屋に置きに行くと、昨晩、机の上に座らせておいた西洋人形が床に突っ伏していました。

 私が、部屋のドアを開けたときの衝撃で机から落下したのか、私が学校に行っていた間に何かの拍子で落ちてしまったのかは判りませんでしたが、とりあえず床の上にある西洋人形を左手で拾い上げて落下する前にあったところに戻したのです。

 それからというもの、私が学校から帰宅すると毎回と言っていいくらいに机の上に置いておいたはずの西洋人形が床に転がっていたのです。それに加え、二日に一度くらいの頻度で部屋のドアを開けてすぐのところに西洋人形が横たわっているのです。これらの不思議な現象がどんな意味を示すのかなんてこと、当時の私は一切、考えもつきません。そのため、ただただ西洋人形に対して気味が悪いとしか思えなかったのです。

 そうして次第に西洋人形との距離をとるようになっていき、(しま)いには中身が空っぽのダンボール箱にしまいクローゼットの奥の方へと消えることとなりました。


 数日後。私は何事も無かったかのように学校から帰宅して自分の部屋へと向かいました。そこには、目を疑うような光景があったのです。クローゼットの奥の方にあるはずの西洋人形が私の机の上でちょこんと座っていたのです。

 その現実に怖くなってしまった私は、これまであった出来事を母に相談してみることにしました。それに対し母は、私の作り話とでも思ったのか一向に信じてくれません。

 そんな母に嫌気がさしてしまった私、精神的にも幼い私は目頭に涙を浮かべて家を飛び出していき、信号が赤であるということにすら気づかずに家からすぐのところにある横断歩道を渡ろうとしていたのです。その後方から何かを話す母親らしき声が微かに私の両耳に届きながら。しかし、何を言っているのかまでは判っていませんでしたので、そのまま足を止めることなく横断歩道を渡っていきました。


 次の瞬間、右の方から走行してきた軽自動車のクラクションの音が大気を振動させるように響き、私は、やっと今の自分の状況に気づかされたのです。その状況に気がついたときには、時すでに遅しといった感じで言葉を発するどころか、ただ茫然(ぼうぜん)とその場で立っていることしかできませんでした。

――それから、どれくらいの時間が経過したのかさえ曖昧で、意識がはっきりとした頃には私の部屋、つまり自分の部屋のベッドで横になっていたのです。

 あの時、私の身に何があって何故、自室のベッドの上にいるのかを母に聞いてみたところ、横断歩道の真ん中で立ちすくんだ私の右側から猛スピードで走行してきた軽自動車が私の存在に気づき急ブレーキをかけたときには、すでに私は軽自動車にはねられていたようで、母が慌てた表情で私の所に駆けてきたそうです。

 その後、私のことを()いた軽自動車は、そのままどこかへと走り去ってしまったのだそうで事故現場の周囲には母以外の人がおらず、誰にも頼れなかった母は私を両手で抱いて脂汗をかきながら家に向かい、私の部屋のベッドに横にした後、母は消防と警察に連絡をし、それが終わった頃に私が目を覚まし一階の母がいるところに降りてきたということでした。

 母が連絡をしてから間もなくして二つのサイレンが鳴っている音が近づいてきました。その後、私は救急車で病院まで運ばれて全身の精密検査を受けることになったものの、内外問わず損傷している個所はなく、すぐにでも帰宅できるとのことでした。

 そうして精密検査を終えた私は母と共に帰宅し、家に到着するとそこには私のことを心配して仕事を切り上げて帰ってきた父の姿もありました。

 今回のことで私は父と母から怒られることもありましたが、二人とも泣きながら娘である私の無事を心から喜んでいるように見えたのです。

 そして、家を飛び出す前には部屋の机の上にあったはずの西洋人形はというと、私が母に抱かれてベッドの上で横たわらせられていた時には、何故だか粉々になっていたそうです。


 私が小学生だった頃、突然の事故から私を西洋人形が守ってくれたのかどうかは分かりません。

 ただ、そういうことにしておいた方が神秘的なような気もすると感じている中学二年次の夏なのでした。


作者の鎌勇書房です。最後までお読みいただき有り難うございました。この作品は以前に書き溜めていた作品の一つでところどころ読みづらくなっている箇所があるかもしれません。申し訳ありません。

そして、この作品は全5話ほどで終わるので、お暇なときにでも目を通してもらえればと思います。

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