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前編

見上げた先は視界いっぱいの青空。

白い雲が形を変えて流れていく。

この雲がそのまま君のところには届かない。


何が『空は繋がってる』だ。


そんな文句を心で零して、ひとつため息を吐いた。




《遠くの君に想うこと》

〜前編〜




世間はそろそろクリスマスだ。

どいつもこいつも浮かれてて、街中イルミネーションなんて輝いて

そこに馴染めない現実の俺は、教室の窓に腕ごともたれて

冷たい空をただ見つめる。


「そろそろ戻ってきなって」

「そうそう! きっと千聖(ちさと)ちゃんだって忙しいだけだよ」


金髪の友人『緒形(おがた)響也(きょうや)』と赤髪の友人『藤間(とうま)彩輝(さいき)』が後ろから声をかけてくる。

そりゃあ二人は気にしないだろう。

想い人は近くにいてクリスマスだって予定が入ってるとか何だとか言って。

順風満帆に進んでるようで何よりだ。


こちとら行くのに新幹線か高速バスだぞ。

3時間以上かかるんだぞ。

片道万超えるんだぞ。


ふざけんな。


「そんな睨むなって」

「俺たちに怒ったって仕方ないだろー?」

「うっせえ。騒がしいのは髪だけにしろ」


絡んでくる二人にケッと悪態をつく。


去年の夏、みんなで染めた髪の色。

おかげで視界が鬱陶しい。

いつもは気になどしないのに。


「いやいや、拓馬(たくま)だって髪の毛青色だよ!?」

「まあ、色合い的には一番クールじゃん?」


響也の感想に「俺が一番煩いってこと!?」と喚く彩輝。

マジでうるせえ。


「とにかくお前らどっか行けよ」

「もー!じめじめすんなって!! この陰湿きのこ!」

「マッシュだっつってんだろ!」

「マッシュルームはキノコじゃん」


二人はケラケラ笑う。

ちくしょう。放っておいてくれ。

俺はセンチになりたいんだ。



藍沢(あいざわ)千聖』は、今年の春に転校してしまった俺の想い人だ。

清楚で、優しくて、こんな俺の話を静かに微笑みながら聞いてくれるような

そんな女だった。


一度も同じクラスにはならなかったけど

あいつはいつも視聴覚室でピアノを弾いていて

俺が行くと笑ってくれて

そんな日が毎日のように続いてた。

転校すると聞いて、初めて連絡先を交換した。


それから毎日のように連絡を取り合っていた。


のに。


ここ最近返事が全くこない。

最初はちゃんと見ていたはずなのに

とうとう既読すらつかなくなった。

マジで凹む。


あいつは今何をしてるんだろうか。

ピアノだろうか、勉強だろうか、それとも新しい友達と遊んでるんだろうか。

幸せだろうか。

困ってることはないだろうか。


俺には全く知る術がない。


「空が繋がってるからなんだっつーの」


ぽつりと呟いた。


この雲だって、お前の家に着く頃にはきっと違う形をしてる。

雨だって、俺のほうが先に降る。

夕焼けが綺麗だって、お前と一緒に見ることもできない。


こんなに変わる空が繋がってるなんて言われても

俺には納得ができない。


せめて何か繋がっていなければ。

結局俺なんてあいつにとって何でもない。

景色にすらなれない。


「電波も繋がらない。空も繋がらない。負け確」

「何をぶつぶつ言ってるんだよ」

「そんなに会いたきゃ会いに行けば良いじゃんかー」

「金がねえよ」


こんなとはいえ、俺たちは何だかんだ受験生だ。

バイトもできない。

小遣いだってそんなにない。

というか勉強しないと中々やべえ。

こんな、凹んでる場合じゃないってことくらいわかってる。


「俺だったら何が何でも行っちゃうけどなー」

「俺もそうするかも」


彩輝が口を尖らせ、響也が彩輝に乗る。


「簡単に言うな」


そもそもお前らと違って両想いかすら怪しいんだ。

しかも連絡ガン無視だ。

そんな奴がいきなり来てみろ。


引くだろ。


「あんまり気にしすぎるなよ」

「そうそう。何か理由があるかもしれないしさー」


そうは言うけど

返せないなんてどんな理由だよ。

俺の優先順位がクソ低いだけだろ。

そんなことを考えて、何だか悲しくなってくる。


「そもそも何の話してて返事なくなったのさ?」


彩輝の質問に、記憶を探る。

確か、いつものように、どうでもいいような話をしていた。

最近は受験も近くて、そんな話もしてたっけか。

あと、クリスマスと、正月の話と。


「ああ、そういや、あっちでは雪が降ったらしくて」

「雪!?」


そう。

それで、こっちでは降らねえなと思って

俺も見たかったなと思って

そんなことを言った。


「あー、思い出した。それで、雪の写真が送られてきて」


隣にいられないことが悔しかった。


「だから、あったかい写真送ってやろうと思って、メリー撮って」

「メリーって、拓馬の愛犬の?」

「そう。メリー可愛いだろ?」

「確かにかわいいけどね」


響也が呆れたように頷く。


メリーは俺の飼ってるラフコリーの名前だ。

メスの中でも大きいほうで、毛がふわふわで暖かい。


藍沢にも、何度か写真を見せたことがある。

ピアノの曲の合間に。

あと、一度だけ休日の散歩の時に遭遇して

かわいがってくれたのを覚えている。

だから、嫌いとかではないはずなんだが。


「で、返事が止まった」

「それは謎だ」

「マジで謎じゃん」


彩輝と響也も頭を抱え始める。

嫌われるようなことをしたつもりがない。

だから

単に俺に返すのが面倒くさくなったとか

そういうことなんだろうと思っている。


つまり脈がない。

いっそ俺の脈も止まれ。


「あーあ」


あっちの冬休みはこっちより一日早いと聞いた。

会えねーかなとか少し考えてた。

無理だわ、こんなん。

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