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第2回:お題「地獄」「目薬」「嫌なツンデレ」2020/11/14~23  作者: 読メ版創作深夜の文字書き60分一本勝負
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別離 yo

使用お題:「目薬」

 それから少年は、日課として目薬を差すようになりました。ほくろの大人は光原で働く人なので、少年のために光を持ち帰り、そのエキスを抽出して目薬を作ってくれたのです。これで少年は、もう光が足りなくて悩むことはなくなりました。

 彼らがいるのは、光の国と呼ばれる場所です。他には闇の国、火の国、水の国、地の国、草の国、そしてこれら6つの国の中間に位置する中庸の国です。それぞれ、名前に冠したものがとりわけ特徴的な国で、火の国には火が多く、水の国は水に溢れています。中庸の国がそれらを仲介し、草や土、火や水を仲介して売買しています。そして光の国は昼間を、闇の国は夜を売って暮らしていました。こうして世界は昼夜を共に獲得し、水等の資源をふんだんに利用して暮らすことができているわけです。

「その目薬は、他の人にやるんじゃないぞ、小僧。どうなるかわかったもんじゃないからな」

 ほくろの大人は少年に目薬を渡すたびに、そんなことを言って笑っていました。



 少年には、仲の良い少女がいました。街ではあまり好かれていない少年ですが、この少女だけは少年のことを気に入り、よく2人でお話しをしたりしていたのです。

「ねぇねぇ、どうしてあなたはいつも目薬をしているの?」

 ある日、少女は純粋な疑問として少年に訊ねました。少女は、その昔の少年の悩みを知りません。

「ああ、これを差すと、少しだけ目が気持ちいいんだ」

「じゃあ私も試しに差してみたい!」

「ダメだよ、この目薬をくれるおじさんが言うんだ。これはお前以外には渡すなって。どうしてかはわからないけど」

 そう、と少女は少し口を尖らせましたが、ダメだと言われては仕方がありません。

 そんな会話をして穏やかに過ごしていたところ、少年たちに声をかける一団がありました。

「おい、おまえ」

 随分と高圧的な物言いです。

「なぁ、サッカー、しようぜ」

 一団のリーダー格の少年が、口角を片方だけ上げて言いました。少年はなぜ誘われたのかがわかりませんでしたが、無理に断るのも角が立ちかねません。仕方なく誘いを受けることにしました。

「それなら、私も見てていい?」

 少女は楽しそうに訊ねます。リーダー格の少年は、少し頬を赤らめて「好きにしろ」と言いました。

 街の中央の広場にて、少年たちは2チームに分かれてサッカーを始めました。ところがどうしたことでしょう。少年の味方になったメンバーは、ボールを少年に渡すのみで走りもしません。少年が仕方なく自分で攻撃を仕掛けようとしたとき、相手チームのメンバーが一斉にタックルを仕掛けてきました。1人は少年の足を削り、1人は少年の左肩に激しく体当たりをし、そして1人はその反対側から右肩へ体当たりをしました。

 これには少年も耐えられず体勢を崩して倒れ込みます。すると少年のポケットから、あの目薬が転がり出て来ました。

「なんだぁ? これ」

 リーダー格の少年が目薬を拾い上げます。少年は体が痛むのか、よろよろと立ち上がりました。

「ごめん、返してくれないか」

 リーダー格の少年は嬉しそうに笑いました。

「こんなもの、必要なのか? 誰も目薬なんて持ってないぜ」

 なぁ、と周囲へ声をかければ、一団の他のメンバーもそうだそうだと頷きます。少年は返して、返してというのみで、リーダー格の少年の方すら向いていませんでした。先ほどタックルを受けたときの衝撃で、また目が見えなくなっているのかもしれません。

「へへ、返してほしけりゃこっちまで来いよ。今度はサッカーじゃなくて鬼ごっこしようぜ」

 リーダー格の少年が挑発をすると、広場の端っこから大きな声が聞こえてきました。

「やめて!」

 少女が激しい怒りを表しています。少女が一団に向かって怒鳴り、少年に目薬を返すよう迫ります。これまであれほど強気だった一団が、一瞬にして怯んでしまいました。

「い、いや、ちょっとからかっただけじゃないか」

 そんな言い訳をしながら、一団は去っていきました。

 少年は少女から目薬を受け取ると、礼を言ってすぐに両目に目薬を差しました。

「ごめんね、ちょっと横になりたい」

 少年がそういうと、少女は広場のベンチに案内しました。

「じゃあここで横になろう。少し休憩だね」

 少女は少年の頭を膝に乗せました。最初は恥ずかしそうにした少年も、疲れていたのかすぐに寝てしまいました。

 少年が眠ってからしばらく、少女はやることがなくて困っていました。もう少し少年が起きていて、お話しができると踏んでいたものですから、こんなにも早く寝られてしまったのは計算外です。

 ふと、少年の手が光りました。手に持っていた目薬に太陽の光が反射したのです。

 再び、大きな声が聞こえ、少年は驚いて起き上がりました。声の主は、またしても少女です。少女は、両目を覆って悶えています。

「どうしたの」

 少年が問うまでもありませんでした。少女の手には、少年の目薬が握られていました。少年の目薬を自分の目に差してしまったのです。

 少年は驚き、悶える少女の目に手をやり、可能な限り目薬を拭き取ろうとしましたが、目を空けようとすると何か苦しそうに少女は悶えます。少年の目薬は、少女の目にも光を増幅する効果を与えてしまったのです。



 この日以来、少女は家から出てこなくなりました。聞くところによれば、昼は眩しすぎて目が開けられず、夜にも軽微な光を大きく増幅してしまうため、真昼のような明るさで見えてしまうため、なかなか眠れないのだと言います。

 少年の目薬が原因であることは明らかだったため、大人たちは少年を忌み嫌いました。少女の親は、少年を絶対に家に引き入れようとはしませんでした。少年は、唯一の理解者であるほくろの大人の下で静かに暮らすことを余儀なくされました。

 この状況に憤ったのは、少年の方ではなく少女の方でした。

「勝手に目薬をした私が悪いの。彼に会わせて」

 少女はそう親に懇願しますが、少女は何分1人で出歩くのが大変危険な状態にあります。昼間は目を空けられませんし、夜はどうにかして寝なければ体に障ります。親は「この子はあの少年に騙されてしまっている」と思い込み、絶対に少女の外出を許可しませんでした。

 少女が少年を庇えば庇うほど、周囲の大人たちの反応は悪くなっていきました。

「あの少年はどんな術を使ってこの少女を騙したのだ」

「何か悪い魔法か詐術が使えるのではないか」

「悪魔の子だ」

 もう言いたい放題です。少女は失意に暮れ、誰に対しても心を閉ざすようになってしまいました。元来元気で明るい少女でしたが、笑うこともなく、食事も少ししか摂らないためにどんどんとやせ細っていきます。

 そうなってしばらく、少女は少年の噂話を聞かなくなってきたことに疑問を抱きました。親に少年のことを訊いても、大した収穫は得られません。

「知らないね、あんな子のことなんて。あんたもさっさと忘れな」

 何かがあればすぐに悪評が立ってしまう少年のことです。逆にこの関心の低さに少女は不安を覚えずにはいられませんでした。

 ある夜、少女は(少女にとっては)真昼のように明るい夜の街へと繰り出しました。自分だけが見えて、周りにとっては暗い街を、明るいのに忍び足で進むことに、違和感を覚えつつ、少女は少年と話をしていた時に時々登場していた、ほくろの大人の元へ向かいました。

「こんばんは」

 ほくろの大人は、深夜にあの少女が訪ねてきたことに驚きましたが、ひとまず中に通しました。

「あの、少年は今どうしていますか」

 少女は単刀直入に訊ねます。するとほくろの大人は、バツが悪そうに頭を書きながら言いました。

「あいつなら、もうこの街にはいねえよ」

 脳髄をたたき割られるかのような衝撃が少女を襲いました。ついに、少年はこの街で居場所をなくしてしまったのです。しかし、少年はこのほくろの大人の場所以外に居場所を見つけているとも思えません。どこにも行く宛てのない人が行き着く先とは――。少女の脳裏に嫌な予感が過ります。

「その、少年はどこへ……」

「ついこの前だがな、新しい目薬を渡したときに、ちょっと出てくる、と言ってっきり帰って来ねえんだ。あいつのことだ、何か考えがあってのことだとは思う。心配しなくても、あいつは帰ってくるよ」

 少女はほくろの大人に礼をいい、家に帰りました。その晩は全く眠れませんでした。もちろん、明るいからなどではありません。少女の心はどんよりと暗く沈みきっていました。

 それから数日が経ち、季節が変わり、そしてまた同じ季節がやってきても、少年は帰って来ませんでした。少女は少年を探しに行きたくて仕方がありませんでしたが、少女自身は昼間に外には出られませんし、ほくろの大人も自分の仕事で精一杯のようでした。

 すっかり手詰まり、少女が少年を待ち続けて数年が経ちました。もう少女には、毎晩少年の帰りを祈る気力すら残っていませんでした。

 そんなある日、少女の元へ、ほくろの大人から手紙が届きました。内容はいたってシンプルなものでした。

「明日の夜、光原のそばにある森で待っています」

 ほくろの大人も、その差出人はわかっていないようでしたが、少女にはわかります。あの少年です。彼がついに帰ってきたのだと、少女は小躍りして喜びました。その日は親に勘付かれないよう極力平静を装い、いつも通りのローテンションで乗り切った後、夜が更けるのを待って森へと向かいました。森へ着くと、少女は急に恐ろしくなってきました。信じて飛び出したものの、少年じゃなかったらどうしましょう。身に危険が及ぶかもしれません。そう思いながら森の中を進んでいくと、大きな木の傍に少しだけ開けた場所がありました。そこに、何やら大きな人が立っています。

 間違えた、来てはいけない場所に来てしまった、と思ったその時、その大きな人がこちらへ向かってきます。少女は必死に逃げましたが、いくら夜目が効くところで、走力に差がありすぎました。あっさりと捕まってしまいました。

少女は後ろから大きな人に抱きしめられるような体勢となりましたが、「離して」ともがきました。すると耳元でこうささやかれました。

「驚かせてごめん。僕だよ」

 体が大きくなっても、声変わりをして声が低くなっても、少女にはわかりました。この声の主があの少年であることを。

 少女と少年は、改めて大きな木の傍へとやってきました。

「今までどこへ行っていたのよ」

 少女が少年をなじりますが、その声はどこか弾んでいます。少年も深刻な顔でごめんと謝りつつ、その口角が少しだけ上がっているのが見て取れます。2人はしばらく積もり積もった話をしていました。驚いたことに、少年は街を出た後、今いる光の国からも飛び出し、水の国を超えて闇の国まで行っていたのだと言います。

 どうしてそんなことを、と少女が訊ねると、少年はそうそう、といって、足元に置いてあった袋から、たくさんの闇を取り出しました。

「これ、1つずつ目に宿してみて。ちょっと痛いと思うけど、我慢して」

 少女は言われるがままに闇を目に宿していきました。

「痛い、けっこう痛いよ」

 少女はそういいつつも、闇を目に宿していきます。

 全ての闇を宿し終わった後、少女はどうにも目が痛くて、目を開けられなくなりました。

「一気に全部入れたから、しばらく辛いかもしれない。けど、大丈夫。今日は僕も付き添ってあげるから、家でゆっくり休んで。明日の朝には、元気になってるから」

 少女はわけもわからず、といった顔をしていますが、2人はとりあえず少女の家へと向かいました。その別れ際、少年は少女に言いました。

「これで大丈夫だと思うけど、もし起きたときに、世界が暗すぎたり、明るすぎたりしたら、また森に来て。明後日の朝までは待ってるから」

 そういってその場は別れました。

 翌朝、少女が目を覚ますと、どうしてでしょう、朝だというのに目を開けても眩しくありません。闇を目に宿したことによって、少女はまた適正な光の加減を手に入れたのです。少女は急いで森へ駆け出しました。親の制止も、もはや少女の耳には届いていませんでした。

 森へ着くと、少年はまだ寝ていました。仕方ないので少年の隣に座り、少年が起きるのを待ちます。しばらくすると少年が目を覚まし、隣に少女がいることに驚いたような表情を浮かべました。

「ありがとう。あなたのおかげで、目が治ったよ」

 少女は少年に抱き着きました。少女の目からは涙がこぼれています。

「このためにいなくなってたんだね。本当にありがとう。これであなたの疑いも晴れるし、また一緒に遊べるね」

 少女はその喜びをまくしたてるように少年に伝えました。少年はうん、うんと聞いていましたが、少女が話し終えると、ゆっくり少女の肩を押しやります。

「目が治って良かった。でも、僕はもう帰らなきゃ」

「どうして」

 少女は信じられないといった表情です。

「旅をしていて、僕にも居場所があることが分かったんだ。そして、それはここじゃない」

「じゃあ、もう会えないの」

「そんなことはないさ。またきっと会える。でもいつになるかはわからないね」

 少女は少年の胸に飛びつき、嫌、嫌、と駄々をこねました。

「それなら、私がついていったらダメ? 私もあなたと一緒に旅に行きたい」

 これには少年も少々面食らったようでしたが、静かに首を横に振りました。

「うれしい。けど、今はダメだね。どうしても難しいんだ。ごめん。準備ができたら、必ず迎えに来るから、それまで待っていてくれないか」

 少女はもう頷く以外に選択肢がありませんでした。少年が、じゃあ、といって立ち去るのを、どんな顔で見送れば良いかもわからず、ただただ手を振り続けました。少年の姿が全く見えなくなるまで。

 その日以来、少女は外に出て遊ぶようになり、長時間歩いても良いような体力をつけ、旅路での食事を楽しめるよう、野草や山菜を使った料理の腕を鍛えるようになりました。今度は少年と一緒に旅に出られるように。


関連作品→「盲点」https://ncode.syosetu.com/n8706gn/2/

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