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02

 翌日からあたしは両親の手伝いをしながら忙しく働いた。なんといってもあたしは看板娘だからね!

 あのあと無事に宿へ案内してもらったあたしは、その日の上がりに上がったテンションの赴くままダギルハーズのきれいさを両親にしゃべりまくり、生あたたか~い目で見られた。

 仕事中にダギルハーズを見かけるとついついダギルハーズに集中してしまうあたしを見かねた両親は苦笑しながら遊びに行っていいと言ってくれて、あたしは感謝するしかなかった。いつもはもっとちゃんと看板娘をやれてるのよ?

 会えば会うほど、言葉を交わせば交わすほど、ダギルハーズはその態度を軟化させていき、頻繁に笑顔を見せてくれるようになった。まぶしい! 嬉しい! 大好き!

 あたしは早々にダギルハーズに恋をしていると気づいて、少しでもダギルハーズに好印象を持ってもらおうと必死だった。あとから思い出すと赤面もののアピールばかりだったけれど、その時は必死だったのだ。恋は盲目と言うが、正にその通り。

 けれど悲しいかな別れの日はやってくる。だって両親が行商人なんだもの。この町での商売が終わってしまえば、次の町へ行く両親についていくしかない。だってあたしはまだ子どもだったんだもの。

 お父さんたちはだいたい五年周期で街を巡っている。五年後にまたダギルハーズのいるこの町を訪れて、会えるかもしれないけれど、その時ダギルハーズがあたしを選んでくれるかは分からない。

 ダギルハーズみたいなきれいな子が成長したら恋人の一人や二人や三人いたっておかしくないもの。不穏な未来を想像してしまったあたしはいよいよ明日の朝に町を出て行くという日にダギルハーズに告白した。

 告白内容は正直、思い出したくない。

 あたしと恋人になって、旅先で手紙を書くから忘れないで、と言うつもりだったはずのあたしの口はなぜか結婚してくれと求婚していた。いやなんで。本当になんで。

 慌てて弁解するも、時すでに遅しアアアアアアアアアアダギルハーズがポカーンとした顔で私を見てるう!

 頭を抱えてうずくまりたいけど、ダギルハーズの目の前でそんな無様は晒せない! 恥ずかしいけれど、ぐっと耐えて立っていた。

 ええい、女は度胸よ!


「け、結婚を前提にお付き合いしてください!」


 右手を差し出して勢いよく頭を下げる。しんぞうくちからとびでそう。

 ち、沈黙が重い……! 待って、あたしめちゃくちゃ重くない? 会って一週間で結婚て、重いわ!


「あ、あの友達からでもぜんぜんかまわないんだけど……」


 絶縁されるのはイヤアアア!

 ダギルハーズの顔が見られないあたしが顔を下げたまま言い募ると、ふいに笑い声が聞こえてきた。笑い声?

 おそるおそる顔を上げるとダギルハーズが肩を震わせ、お腹を押さえながら笑うのをこらえていた。なんで?


「ダギルハーズ、ガマンはよくないから声を出して笑っちゃったほうがいいよ?」

「あはははははは!」


 いつも天使みたいにきれいだけど、涙までこぼさんばかりに笑うダギルハーズはただの子どもみたいだった。実際ただの子どもだけど。

 笑いすぎてお腹が痛くなっちゃったダギルハーズの背中をなでなでさすり、笑いが収まるのを待った。


「こんなに大笑いしたの、初めてかも……ふふ……」


 まだ小刻みに体を震わせて笑いながらダギルハーズが目元の涙をぬぐう。

 ダギルハーズの初めてを見られるなんて超ラッキーだわ。でもなにがそんなにおかしかったのかしら。


「あのね、ファウバスィーヤ」

「なに?」


 ようやく落ち着いたダギルハーズがやわらかく目元を細めて笑う。ああ好きだなあ。


「僕もファウバスィーヤが好きだよ。ファウバスィーヤが手紙を書いてくれるなら、僕は商売のことをたくさん勉強するよ。おじさんに行商人見習いとして雇ってもらえるようにがんばる。君がよそ見できなくなるくらいいい男になるよ」


 んえ。


「だから僕と結婚してください」


 あたしの記憶はそこでいったん途切れている。

 ダギルハーズがあたしの両手を握ってプロポーズしたところでいきなりぶっ倒れたらしい。なんてもったいないことを。でもしかたないわよね。あんなにきれいなダギルハーズを間近に見たんだから。気絶するのも頷けるわ。

 倒れたあたしを負ぶって、慌てふためいて半泣きになりながらもダギルハーズは両親のいる宿屋へ来てくれたのだと、その晩お父さんから聞いた。

 ダギルハーズはそこで将来行商人見習いにしてほしい! と直談判までしたそうだ。

 あたしはそれを聞いてまたぶっ倒れた。

 あたしの未来の旦那様が素敵すぎて死ぬ。生きるけど!

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