水
暑い暑い日であった。
信長は戦さ支度をして出陣したが、あまりの暑さに耐えきれず、全軍に休息を命じた。
「猿、水を持て!」
「お屋形様、こちらに。」
水を差し出したのは、最近拾った、藤吉という小者であった。
暑さに甲冑をすぐに脱いだ信長。
すぐに水を飲みたかったが、冷静であった。
「猿、この水どこから持ってきた。」
「はい!この近くの民がお屋形様に是非にと持って参りました。」
「その者、まだおるか?」
「はい、控えさせておりますが…」
「すぐに呼んで参れ。」
藤吉は、一人の百姓を連れて来た。
「御主か、名と在を申せ。」
「はあ。五平と申します。この近くの村に住んでおります。」
「五平!」
言うや否や信長は、五平に水を無理矢理飲ませた。
五平は抵抗する間もなかった。
「お屋形様…」
藤吉は驚いたが、次の瞬間、五平が血を吐いて倒れるのを見てもっと驚いた。
「これは…」
「この男、敵の間者であったわ。」
そういうと、信長は近習を呼んで、水を持って来させ、飲み干した…