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第9話 落ち着いた同級生と話をしました

「それで、篠田家は横須賀に引っ越すことになった。そうなると、篠田家の人間がいないのに騒ぐのもどうか、という空気が広まってな。お前の実家の村八分は、徐々に解けた。今では完全に解けている筈だ」

 簗瀬真琴中尉は、そう言ってくれた。

 僕は、取りあえずはほっとした。

 何とか僕の実家は史実と違い、離散することは無かったらしい。


「それで、この後はどうする気だ。取りあえずは、お前が篠田りつに対して、娘の千恵子の養育費を支払い、岸家が篠田家の就職あっせん等の支援をする、ということになっているが」

「それが」

 僕は、かいつまんで説明した。


 僕の義父になる岸三郎提督としては、娘の判断に任せるが、岸提督としては娘を離婚させたくない。

 何故かと言えば、ここで娘が離婚したら、僕がりつの下に奔って、娘が略奪婚をした、というのを世間に対して暗に認めることになりかねない。

 そう岸提督は考えていて、娘を離婚させたくない、と考えているというのだ。

(本当は、りつではなく、ジャンヌ・ダヴーの下に、僕が奔るのを岸提督は懸念しているのだが、今、そんなことを言ったら、話がややこしくなるし、簗瀬中尉の怒りが再燃するのは必至だ)


 簗瀬中尉は、溜息を吐いた。

「俺としては、お前が、あの女(今の僕の妻、岸忠子のこと)と離婚して、りつと再婚するのがいい、と考えているのだがな。あの女が離婚しない、と父の後押しを受けて言ったら、どうしようもないな」

「ええ」

 ジャンヌと再婚したいな、という想いを頭の片隅に押し込んで、僕は簗瀬中尉に調子を合わせた。


 現在の民法(いわゆる旧民法)では、協議離婚をせずに裁判離婚するとなると、それなりの離婚事由が必要になるが、忠子には離婚事由が全く無い。

 忠子が僕と離婚したい、というのなら、僕はすぐに協議離婚に応じてよいのだが、忠子が僕とは絶対に離婚しない、と頑張っては、僕から裁判離婚に訴えても、どうにも離婚は出来ないのだ。

 現在の民法が、今の民法のように破綻主義を認めていれば、数年間にわたる別居でもすれば、忠子と僕は離婚できるのだが。


 実際問題として、この世界の忠子の性格が、そう悪いわけではない。

 ただ、この大正時代では普通程度に潔癖で、夫が浮気する程度なら大目に見るが、その浮気相手に子どもまでできては、更にその子どもの面倒まで自分が見ないといけなくなっては、流石に自分は我慢がならない、というだけだ。

(というか、それがこの大正時代では普通の考えだろう)

 

 だが、忠子と一緒にずっと暮らしていくとなると。

 それよりは、りつと暮らした方が、いや、ジャンヌと暮らした方が、という想いが僕には先立つ。

 実際、彼女達の自分の願いが叶った過去の異世界生活の話を彼女達から聞いたり、更に彼女達との短期間の生活を振り返ってみたりする程、僕にはそう思えてくる。


 忠子だと、基本的に僕が彼女の考えや主張に合わせることになるだろう。

 忠子は自分の考えを基本的に曲げないので、僕の方が合わせるのだ。

 りつだと、基本的に僕と彼女は話し合った末に、考えや主張をすり合わせるだろう。

 ジャンヌだと、基本的に無言の内にお互いの考えや主張を察し合い、すり合わせてしまえるだろう。


 別に忠子が非常識とか、そんな話ではない。

 複数の選択肢があり、どれも正解と言える時、どうやってその選択肢を決めるか、の話だ。

 家で味噌汁を飲もうというとき、忠子なら豆味噌しかダメといい、豆味噌の味噌汁しか出さない。

 りつなら米味噌にしよう、と僕と話し合って決めてそれを出してくれる。

 ジャンヌなら、何も言わなくても米味噌を買ってくるということだ。

 

 そして、長年に亘って夫婦生活を営むとなると、僕はそう考えた。

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