第7話 子ども全員が大人になるまで養育費を払うのは、父としての義務です
こんな大騒動の後始末をしつつ、僕にはもう一つ、やることがあった。
僕の海軍兵学校の一期下の親友、高木惣吉少尉に、僕は密かに頼みごとをした。
「済まないが、ジャンヌ・ダヴーという第4海兵師団の野戦師団病院にいる筈の雑役婦を、こっそり探してくれないか」
「その女性と先輩とは、どういう関係ですか」
「実は」
僕は高木少尉にこっそり打ち明け話、これまでの経緯を大雑把に話した。
高木少尉は僕の所業に呆れ返った。
「はあ?妻以外の3人の女性と子どもを作ったかもしれない?」
「いや、意図的にそうなった訳ではないし、その内2人は結婚前の独身時代なのだが」
「そんな言い訳を誰が信じますか」
「それなら、売春宿に行く奴は、売春婦が妊娠して、自分の子どもを産む、とそう覚悟していくか?」
「いや、そんなことは言いませんが」
「ともかく、自分のしたこと、所業が悪かったのは認める。だから、少しでも子どもの養育のためになるようなことをしておきたいのだ」
「そういう先輩の所業が、一番、子どもの養育に悪影響を与えている気がしますが」
高木少尉の説教に、僕は返す言葉が無かった。
そうは言っても、気のいい高木少尉は、ヴェルダン要塞攻防戦が一段落して余裕があったこともあり、ジャンヌ・ダヴーを探し出してくれた。
「先輩、いました。見つけ出しました。彼女の顔も覚えました。それから彼女は妊娠しています」
「済まないが、出産等で彼女は色々と物入りだろう。お金を包むから、岸提督に見つからないように、君から僕のお金を彼女に渡してくれ」
「分かりました。何とか彼女に渡します。それにしても、何時までお金を渡すつもりですか」
「彼女の子が大人になるまでだ」
高木少尉と僕は、そんなやり取りをした。
「先輩がそうしたいのなら、止めませんが」
高木少尉は、何か一言いいたいようだ。
僕は身振りで、その一言を言うように促した。
「彼女は街娼だったのでしょう。お腹の子が、先輩の子とは限らないのでは」
高木少尉は、至極真っ当なことを言った。
実際、普通に考えれば、高木少尉の言葉は正しい。
だが、僕は生まれ変わりの記憶から、彼女の産んだ子が僕の子なのを知っている。
だから、僕は彼女の産んだ子の養育費を払う義務がある。
とは言え、そんなことを高木少尉に言う訳には行かない。
僕は、取りあえず、ジャンヌの子は自分の子だと思うのだ、と言い張るしかなかった。
その一方で、僕は村山キクのことを考えざるを得なかった。
今の僕では、どうにもキクの消息を探る手段がない。
本来なら、キクにも僕の娘の幸恵の養育費を払う義務が僕にはある。
でも、僕は欧州にいて、キクがいるのは日本だ。
そして、僕は軍人として欧州に派兵されていて、日本に帰国してキクを探す訳には行かない。
更に史実同様の態度を、キクが取るならば、キクは一人で子どもを育てようと奮闘している筈で、僕に連絡を取ろうとする筈もない。
せめてもの償いとして、帰国したら彼女に遅れた分の養育費を払えるように、幸恵の分の養育費を僕は今後は貯金しておくことにした。
ともかく、そんなこんなをしたために。
僕の給料の9割は、子どもへの養育費と妻の忠子の生活費で、右から左へと、すぐに消える惨状となってしまった。
僕の自業自得とは言え、これでは流石に金銭面で全く余裕がなく、本当に辛い。
それに結局は子どものことを金で片を付けるのか、と他の人達に言われても仕方ない。
だが、僕が結婚できるのは1人だけだし、他にどうすればいいのか。
取りあえず、僕のできるのは、これが精一杯のことだ、と半分、自分で自分を誤魔化している気がしないでもないが。
そう考えて、僕は給料のやり繰りをしていくことにした。
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