第6話 子どもができたら扶養する、養育費を払うのは父として当然です
「日本から手紙が届いたぞ。お前の心配は当たっていた。篠田りつは、お前の娘の千恵子を産んでいて、お前の実家や岸家に怒鳴り込んできたそうだ。この責任を取れ、千恵子の面倒を見てほしい、とな」
「やっぱりですか」
義父の岸三郎提督が、頭を抱え込むような表情で、僕の下を訪ねて来てそう言い、(自業自得だろうが、と言われれば、全くその通りで反論できないのだが)僕はうんざりするような声を思わず出してしまった。
「ところで、忠子は無事に出産したのですか」
「ああ、男の子が無事に産まれて、総司と名付けたそうだ」
「それは良かったです」
「まあ、それはそれで良かったがな」
義父と僕はそう会話した。
「それで、この後はどうするつもりだ」
「僕としては、千恵子を認知します。そして、養育費も出します。だって、事実なのですから」
「うむ」
義父の問いかけに、僕は即答し、義父も肯かざるを得なかったが、言葉を継いだ。
「しかし、それで済むかな」
「済まないでしょうね」
僕は溜息を吐きながら言わざるを得なかった。
りつの性格は熟知している。
ともかく、りつとしては僕と結婚したいのだ。
恋敵の忠子を、りつは容赦なく追い込むつもりだろう。
しかし、りつとしては誤算が起きている。
忠子が、僕の息子を産んでいるのだ。
だから、忠子が息子のために、僕とは別れない、と頑張り出していては、それこそ膠着状態になる。
自分が産んだのは娘で、忠子が産んだのは息子、微妙に自分の方が形勢が悪い。
それ故に、ますますりつは苛立ち、攻撃を強めるだろう。
そして、このままでは、史実通りに僕の実家が離散する事態になるだろう。
僕の父はともかく、僕の兄妹にまで累が及ぶのは、流石に僕は避けたい。
僕は暫く考えた末、腹を括ることにした。
「仕方ありません。篠田家を横須賀に呼びましょう。それで、りつの父の就職先等も世話しましょう」
「どういうことだ」
「責任を取って、僕が千恵子を認知する以上、今は忠子が千恵子の親権を事実上行使するしかありません。そして、忠子が千恵子の面倒を見ない以上、りつが千恵子の面倒を見るしかありません。そして、帰国後に僕が千恵子の親権者になって、面倒を見る必要もあります。横須賀に千恵子を連れて、篠田家に来て貰い、僕が帰国後には面倒を見れるようにするしかないでしょう」
僕は、義父の説得に掛った。
「しかしだな」
義父は渋い顔をした。
今のところ、千恵子の件は会津で事実上は止まっている。
しかし、篠田家が横須賀に来たら、横須賀にまで千恵子の件は広まってしまい、忠子がいたたまれない状況になりかねない。
義父は、それを懸念しているのだ。
それを察した僕は、切りたくなかった切り札を切ることにした。
「りつに大人しくしろ。真実を全部、周囲にばらすぞ、と手紙を僕から書きます。りつにとって、真実を知る片方の僕がいないから、言いたい放題言える、というのがあるのです。そうしたら、りつは少し大人しくなるでしょう。それに故郷から切り離し、岸家が住まいや仕事を斡旋すれば、りつや篠田家にしても、岸家を頼らねば、という心境に傾かざるを得ないでしょう」
僕はそう言った。
篠田家の貧窮を悪用することになるが、この際、止むを得ない。
義父は溜息を吐きながら言った。
「完全に盗人に追い銭の気がしてならないが。そうするのが一番、穏便に済ませる方法かもな」
「ええ、他に方法は無いでしょう」
僕も溜息を吐かざるを得ない。
「取りあえず、これからは千恵子の養育費もいるでしょうから、忠子が7割は給料を受け取れるようにして下さい。給料全体の2割を篠田家に渡しましょう。それが養育費ということで」
僕はそう決め、義父は肯いてくれた。
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