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第5話 同一戸籍内で嫡母庶子関係があれば、親権者の問題が起きるのです

 義父は、いきなりそう言った。

「子どもができたばかりなのに、離婚話ができるか。しかも、そんなことをしたら、娘が略奪婚をした、と暗に世間に認めることにもなりかねん。それに娘とお前が離婚したら、お前はジャンヌの下に奔るつもりだろうが。それは許さんぞ」

 いや、そんなつもりは、と僕は返したかったが、黙らざるを得ない。

 4人の中から選ぶとして、誰とこの後はずっと暮らしたいか、と言えば、僕はジャンヌだからだ。

 とはいえ、子どものことを考えると、そう言う訳には行かず、僕は考え込んでしまう。


「取りあえず、話は聞いた。さっき聞いた内容は、手紙にまとめて、お前にも目を通してもらった後、妻と忠子に宛てて送っておく。ところで、さっきの内容に、本当に嘘はないな」

「ええ、ありません。それから、戦死した場合に備えて忠子に託した遺言書には、りつと関係を持った件については包み隠さず書き、りつが子どもができたと言って来たら認知するように、とも書いておきました」

「ふむ。遺言書に書いてあれば、嘘ではない、という証にはなるな」

 僕と義父は、更なるやり取りをして、一旦、話を打ち切ったが。

 僕は一つ、確認するというか、義父に頼むことがあった。


「ところで、ジャンヌのお腹の子は、ちゃんと産ませてください」

 僕は(実際には下げられないけど)頭を下げて頼んだ。

 義父は渋い顔をして吐き捨てるように言った。

「この国、フランスでは堕胎は重罪だ。それに、こういったことは、どうしても漏れるものだ。だから、ジャンヌのお腹の子を産むのは認める。だが、お前が認知して、自分の家に引き取ると言うのはダメだ」

「それでいいです」

 僕はそう答えた。


 というか、現状でジャンヌのお腹の子を認知すると、極めて厄介なことになるのだ。

 もし、ジャンヌが妊娠中でも、無事に出産した後でも、僕がジャンヌの子を認知すると、産まれてきた子、アランは必然的に日本国籍を取得することになる。

 そうなると、僕が親権者に、この頃の民法上は当然になり、また、僕の戸籍にアランは入ってくる。

 そして、厄介なことに、アランが成人する前に僕が亡くなったら、忠子が親権者になり、ジャンヌは親権者にも、後見人にも決してなれない。

 何故か。


 この頃の民法では、親権者になれるのは、同一戸籍内の親(父親優先)となっている。

 そして、僕がアランを認知したら、忠子とアランは同一戸籍に入り、嫡母庶子関係になるので、僕が死んだら、忠子が母として親権者という事態になるのだ。

 だからこそ、僕が戦死した史実世界では、忠子は千恵子を、同一戸籍に入れるのを断固として拒んだ。

 千恵子の母親に、断じて忠子はなりたくなかったのだ。


(更に言えば、千恵子の実母のりつに、私が妊娠していたのを知っていて、忠子さんは私の婚約者を略奪して結婚した、と主に会津で吹聴されまくっていては、史実世界の忠子が、断じてりつや千恵子を許さない、千恵子の母親には決してならない、と激怒して、千恵子を戸籍に入れるのを拒んだのも無理はない)


 ともかく、そういった事情がある以上、ジャンヌが親権者としてアランの面倒を見ようと考えると、皮肉極まりないことに、僕がアランを認知する訳には行かない、という事態が生じてしまうのだ。

 厄介だな、僕はアランのことを考える程、溜息しか出なかった。


 そして、翌日、義父は僕の下に、自分の書いた手紙を持ってきて、間違いないか、を僕に確認させた。

 本来なら、僕も忠子(及びりつ)に手紙を書くべきだったが、僕の戦傷が治っておらず、手紙をとても書ける状況では無かったのだ。

 その手紙を送ってしばらく経ち、ようやく僕の戦傷がほぼ治った頃、本土から手紙が届いた。

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