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第3話 義父に真実を告白、告解します

 僕の見舞いに来た岸三郎提督は、開口一番に言った。

「少しは軍医の云うことを聞いたらどうだ。患者を麻薬中毒にするようなことは、軍医の私の名誉にかけて絶対にしません、とまで言っておるのだろう。痛み止めの麻薬を、もう少し注射してもらえ」

「確かにその通りですが。麻薬中毒が怖くて」

 僕は口を濁したが、内心では拒絶したかった。


 その様子を見た岸提督は、更に言葉を継いだ。

「確かに麻薬中毒は怖い。だが、なったら耐えて麻薬を抜けばいいだろう。わしもお前のためなら、懸命に協力してやる。それにそろそろ、忠子がお前の子が産んでおる筈だ。子どものためにも耐えられるだろう」

「はっ」

 そう僕は答えながら、この際、この義父に正直に、子ども達のことを話すことに決めた。

 何れはバレるのだ。

 それなら、早めに話しておいた方がいい。


 それにしても、前世(?)で戦死した時は、忠子の妊娠しか知らず、ジャンヌが自分の子を産んで欲しい、と願っていて、りつについては、万が一の妊娠に備えて、と遺言書を書いて置いただけなのに。

 傍から見れば、だらしない、きちんと考えろ、と言われそうだが。

 何でこんなこと、何れも母が違う4人の子の父に、僕はなっているのだろう。


「実は話さないといけないことがあります。こうなったのは、自分に罰が当たったためのような気が、どうにもしているのです」

「何が言いたい」

「フランスの彼女は、無事ですか」

 僕の問いかけに、義父は無言で顔を背けた。

 やはり、そうだ。

 ジャンヌは、この世界でも、僕との間の子、アランを妊娠したのだ。


「実は、僕がこれまでに関係を持った女性は、妻の忠子以外に3人います」

「ちょっと待て」

 義父は、少し慌てて、周囲から人を遠ざけ、僕と2人きりにしてもらった。


「1人は、件のジャンヌ・ダヴーです。後、2人ですが」

 僕は、そこで言葉を切った後で続けた。

「忠子と結婚前に関係を持った女性で、1人は村山キク、1人は篠田りつです」

「ふむ」

 義父は相槌を打った、というか打つしかなかったのだろう。


「村山キクと言っても、すぐに思い当たらないと思いますが、横須賀の芸妓のキク姐さん、と言えば、少しは思い当たるのではないでしょうか」

「ああ、そういえば、そういう芸妓がおったような気がするな。父は海兵隊の軍人だったが、日清戦争時に戦死したとか。それで生活に困って、芸妓になったとか」

 僕と義父は会話した。


「それで、去年の夏に、彼女を呼んで芸を堪能した後に、僕がもうすぐ欧州に出征すると彼女に話しましたら、彼女は何れは僕が欧州で戦死すると想ったのでしょう。私を抱いて行って、というので、僕は彼女と関係を持ちました」

「ふむ。しかし、芸妓だ。もしものこと(妊娠すること)があっても、堕胎するだろう」

「確かに」

 僕の言葉に、義父はそう言い、僕はそう返したが。


 内心では呟かざるを得なかった。

 いや、彼女は、それが運命だったのだ、と想って、芸妓を辞めて、黙って僕の娘を産んだのですが。

 とはいえ、今の僕は、それを知る筈がない立場だ。

 取りあえずは、義父の言葉に合わせるしかなかった。


「問題は、もう一人の篠田りつです。実は、彼女と僕は、一時は結婚まで考えていた仲でした」

「何だと、何で黙っていた」

 僕の告白に、義父の言葉は怒りを帯びた。


 えーい、この際だ。

 僕の父を徹底的に悪者にしてやる。

 そもそも論を言い出せば、僕の父が、この件でもっとも悪いと言ってよい存在なのだ。


「りつは、小学校の同級生で、幼馴染でした。でも、彼女の家は、元上士の家柄ですが、秩禄処分の際に失敗しまして、貧乏生活をしていたのです。そこに、あなたの娘との縁談が僕に舞い込みました。父が、僕に別れろと」

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