第20話 思わぬことから、廃家にした筈が、廃絶家再興になりました。
さて、篠田家や村山家まで交えた話し合いが終わりかけた頃、村山キクが口を挟んだ。
「確かあなた(僕のこと)は、フランスにアランという息子がいるけど認知はしていないのでしょう。この際、認知してもいいのでは。岸家にあなたが入れば、戸主で無くなり、アランを引き取る云々という話をしなくて済むでしょう。幸恵を認知した以上、アランも認知すべきでは」
キクの一言に、岸家の面々は、苦虫を嚙み潰したような表情になり、野村家や篠田家の面々は、極めて複雑な表情を浮かべた。
ちなみにキクの産んだ僕の娘、幸恵は、村山家の養女として既に迎えられていたことから、僕が認知したからと言って、僕の家に入っていない。
だが、アランの場合、今、僕が認知すると、僕が戸主である以上、僕の家に入るのだ。
そして、僕に万一のこと、死ぬようなことがあったら、妻の忠子にアランの扶養義務が生じる。
だからこそ、岸家の面々は、アランの認知に大反対していたのだが。
僕が岸家に入れば、そのような心配が基本的には無くなる。
アランが岸家に入るのを、戸主である僕の義父が断れば済む話だからだ。
僕の父が口を開いた。
「岸家にしてみれば、いい想いがしない話でしょうが、アランは私にとって可愛い孫です。それに私からすれば、息子が岸家の婿養子になることは、分家を潰す話になります。その代りではありませんが、どうか、アランの認知を黙認してくれませんか」
僕の好意を得て、千恵子の立場を良くする思惑もあるのだろうが、篠田りつまで口を開いた。
「アランは、千恵子の弟になります。アランを認知してもいいでしょう」
これを皮切りに、アランを認知すべきだ、との声が高まり、岸家に僕が婿養子として入った後、アランを僕が認知するのを、岸家は黙認することになった。
なお、養育費の支払いは、僕の思惑通りに話がまとまった。
千恵子が僕の給料の2割、幸恵とアランは僕の給料の各1割を養育費として受け取ることになり、僕の実家の野村家が、それを保証して、万が一の時は僕から取り立てることになった。
そして、僕が岸家の婿養子になり、アランの認知届をフランスのジャンヌの下に送ってから数か月後。
「どういうことよ」
妻の忠子が、血相を変えて僕の下に怒鳴り込んできた。
忠子の手には、一通の書面、戸籍謄本が握られている。
僕が、その戸籍謄本に目を通したら。
アランが、廃家にした筈の僕の野村家の廃絶家再興を果たしており、野村アラン(亜蘭)を戸主とする戸籍ができていた。
一体どういうことだ、僕も困惑し、訳が分からない、と忠子に言うしかなく、慌ててアランの母であるジャンヌに問合せの手紙を書いた。
すると、結果的に入れ違いでジャンヌからの手紙が届いた。
僕の認知届をもって、日本大使館に赴いたら、僕が岸家に入っている以上、一家創設の必要がある旨を大使館員に、ジャンヌは教示された。
野村姓を息子アランに名乗らせたい、と希望したら、大使館員から廃絶家再興の手続きを教示され、それに従ったとのことだった。
「ふざけないでよ。これじゃ、私の息子の総司ではなく、アランが野村家の跡取りになったじゃない」
等々、怒りの余り、忠子は荒れ狂って叫んだが、今更、僕にしても、どうしようもない。
アランに廃家させようにも、廃家のために入れる家は、事実上は岸家しかないのだ。
廃家するとなると、他の家に入るのが大前提だからだ。
ジャンヌはフランス人なので、日本の家制度の枠外にあり、アランはジャンヌの家に入れないのだ。
僕は、忠子に対して、どうしようもない、と懸命に宥めながら想った。
流石はジャンヌ、見事な意趣返しを忠子に対してやったものだ。
僕は感嘆するしか無かった。
あれ、幸恵やアランに比べて、何で千恵子の養育費が多いの?
と言われそうなので、補足説明すると、篠田りつの婚約不当破棄の慰謝料込みだからです。
それに、篠田家が貧困なのもあります。
これで、事実上の第1部が終わり、次話から事実上の第2部になります。
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