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第18話 篠田家に家を潰すことを話しました。

 会津から横須賀に戻った僕は、その翌朝には、篠田家の玄関を跨いでいた。

 篠田りつの両親とは、それこそ子どもの頃から僕は知っている仲だ。

 そして、今回、りつを結果的に未婚の母にし、千恵子という庶子を産ませてしまったことについて、本来なら幾重にも、自分はりつの両親に対して詫びないといけない立場になるのだが。


 そもそもの発端(僕の父が、りつとの結婚に反対し、それで別れを告げた僕に怒ったりつが、自分を抱いてから別れろ等と言い出したことが、千恵子が産まれた最大の原因。しかも、りつは妊娠を隠して、出産間際になってから、僕に騙された等と騒ぎ出したのだ)を考えると。

 篠田家の玄関を跨いだ僕と、りつの両親の間に気まずい空気が流れ、千恵子を抱いて出てきたりつも、僕と自分の両親の間に挟まれ、お互いの顔色を4人がうかがう有様を一時は呈した。


 とは言え、いつまでもそうしている訳にも行かない。

 僕は思い切って、篠田家に上がり込んで、篠田家の面々と話を始めることにし、篠田家も受け入れた。

 そして、岸家の息子、僕から見れば義兄2人が亡くなったこと。

 そのため、岸家は跡取りを新たに決める必要が出来て、僕を婿養子に迎えるつもりがあること。

 更に、僕の実家もそれを受け入れて、僕が家を潰す、廃家するのに賛成していること。

 そういったことを、篠田家の面々に対して話したら。


 一番に反応したのは、りつだった。

「千恵子をどうするつもり」

(この頃、千恵子は野村の家に入っていて、野村姓を名乗っていた)

「篠田家で引き取って欲しい。つまり、岸姓を千恵子には名乗らせず、篠田姓を名乗らせたい」

「それ自体は構わないが、千恵子の扶養はどうするつもりだ」

 りつの問いに僕は答え、更に、りつの父が口を挟んだ。


 横須賀に篠田家が引っ越してきて、岸家が篠田家について、住まいや就職先の斡旋等の世話をしたことにより、会津時代よりやや暮らしに余裕が篠田家にはできているが、僕の給料の2割が千恵子の養育費として支払われている、というのも篠田家の暮らし向きに余裕ができている一因になっている。

 だから、僕から千恵子の養育費の支払いが無くなるのは、篠田家にとって大問題なのだ。


 現代感覚で言えば、千恵子を篠田家が引き取っても、千恵子の養育費を引き続き僕が支払う必要があるが、この時代、旧民法時代の感覚で言えば、家が違う以上、僕は千恵子の養育費を支払う必要は無い。

 だから、りつの父が口を挟むのは、至極、当然のことと言えた。


「僕としては、千恵子の養育費を引き続き支払うつもりです。そして、それには僕の両親、つまり、野村の本家も同じ意向です」

 僕がそう言うと、篠田家の面々に安堵の空気が広がった。

 やはり、篠田家にしてみれば、生活費の確保に頭を痛めていたのだ。


 僕はその空気に乗じて、更なる提案をした。

「それで、申し上げにくいのですが、僕には千恵子以外にも、幸恵、アランといった妻以外の女性に産ませた子どもがいます。千恵子だけ、特に優遇するわけにもいきません。幸恵やアランの養育費を支払うことに、篠田家は反対しないでくれませんか。幸恵やアランに養育費を支払うな、と妻や岸家は言うでしょうから。その言い分を認めては、千恵子の養育費も支払わない方向に話が進む可能性も」

 僕は提案しながら、顔色を徐々に深刻に、不安そうにした。


 これは僕の半ば演技だったが、篠田家に与えた効果は大きかった。

「確かに仰られる通りだ。篠田家は、千恵子を引き取ることには賛成しますが、千恵子の養育費を支払われなくなるのは困ります。そう言った事情なら、幸恵やアランの養育費支払いに反対はしません」

 篠田家は僕の説得に応じてそう言った。

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