第16話 家を潰すことを親兄弟に詫び、今後のことを話し合いました。
欧州の戦場から帰国して数日後、僕はほぼ帰国の旅の疲れを癒す間もなく、故郷の会津に帰っていた。
僕が実家の玄関を跨ぐと、両親と兄妹が僕を待っていた。
お互いの顔を合わせた瞬間に、その場には色々と気まずい空気が流れた。
僕がやったことで、実家が離散しかかったのは事実だが、そもそもの発端は、篠田りつと僕との結婚を実家が、細かく言えば僕の父が大反対したことからだったからだ。
もし、素直に僕の父が、篠田りつと僕の結婚を認めていれば、僕は村山キクと関係を持つことさえ無かったかもしれない。
村山キクと僕が関係を持ったのは、それこそ欧州に日本軍、特に海兵隊が赴くことが決まり、更に僕と忠子との縁談が持ち上がった頃だった。
その時、最初は僕はりつとの関係から、その縁談を断ろうと考えたが、そうは言っても、りつは手紙に返事もろくに書かない有様だし、僕の両親から浮気でもしているのでは、と吹き込まれもしていたのだ。
だから、あの時に半ば投げやりな気持ちもあって、キクの誘いに乗ったのだった。
そのことから考えれば、父が篠田りつと結婚していい、と言っていれば。
僕の悩みは大きく減っていて、キクの誘いを断っていたかも、と僕は想うのだ。
(今更、言っても仕方ないし、責任転嫁極まりない想い、と自分も考えるけど)
だが、お互いに玄関先にお見合いをしていても仕方がない。
僕の妹の鶴子が、
「取りあえずは、上がって」
といったのを機に、僕は家に入り、いつか座敷で僕達は顔を突き合わせて、話し合いを始めた。
取りあえず、僕は結果的に妻以外の女性3人にも子どもが出来たことを、実家に報告した。
両親は目を剥き、兄は無言になり、妹は呆れ返った。
「りつさん一筋だった、あの生真面目なお兄ちゃんは、何処に行ったの」
鶴子の言葉は、僕の胸に刺さり、頭を下げるしかなかった。
「それで、これからどうする気だ」
気を取り直した父の言葉に、僕は今後のことについて、僕の考えを話しだした。
この際、自分の家を潰して廃家にし、岸家の入り婿になろう、と思う、と僕は言った。
僕の義父、岸三郎提督は先の世界大戦等のために、二人の息子に共に先立たれて跡取りがいない。
それで、妻が岸家の婿養子に僕をしようとしており、僕もそれを受け入れるつもりだ、と話した。
「しかしだな」
やはり、父を始め、実家の家族全員が、僕の考えに難色を示した。
篠田家が怒るのが目に見えている。
りつが産んだ千恵子は、僕の家に入っている。
僕が家を廃家にして岸家の入り婿になったら、千恵子はどこに行けばいいのか。
篠田家が引き取るのが筋だが、その場合、岸家に入った僕が、家が違うので、千恵子の養育費を支払わない、というのではないか、と篠田家が言い出すのでは、と実家の家族は口を揃えた。
実家にしてみれば、千恵子出産時の騒動からして、篠田家にまた、へそを曲げられたくないのだ。
「だから、お父さん達に保証人になって欲しいのです。息子が養育費を支払わない時は、自分達が支払うと。そして、息子からその分を取り立てると」
「そういうことか」
「ええ」
僕の言葉に、父は納得した。
こうすれば、篠田家も納得するだろう。
それに千恵子の親権者は、必然的に僕からりつに変わる。
僕が亡くなった時、千恵子の親権者が忠子になる、というのは、りつも本心では嫌な筈だ。
何しろ僕は軍人だ。
中国情勢は、第一次世界大戦後も不穏が続いている。
中国本土に、海兵隊が派遣され、その中に僕もいて、僕が戦死するという公算がそれなりにあるのだ。
(もっとも、この異世界に来た以上は、僕は70歳前後まで生きるのが、実は確定しているのだが)
父が納得したことで、母や兄妹も僕の言葉に賛同した。
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