第12話 ジャンヌとアランと別れて帰国したら、鬼2人が出迎えました。
第一次世界大戦が終わって、日本に帰国することになり、僕は改めてジャンヌとアランに別れを告げることにした。
1917年5月に産まれたアランは、1歳半を過ぎており、イヤイヤ期が始まって、母のジャンヌの手を煩わせることがあるらしい。
もっとも、小児科の経験のある軍医(一体、どこで経験したのか、自分にとっては謎だったが、噂によると娑婆から招集されて軍医になったらしい)の話によると、この年齢にしては成長が早すぎる、といってもよいくらいで、そんなものですよ、と僕達、両親に言ってくれた。
ちなみに第一次世界大戦中、僕は戦闘や訓練の合間を縫い、密やかにジャンヌやアランと逢い続けた。
もっとも、ジャンヌも野戦病院の雑役婦として働いている身だ。
逢うと言っても、立ち話が精々で、ゆっくりくつろいで話せることはそうなかった。
(それに周囲に誤解を与えないためもあった。
第三者の目があるところで、僕はジャンヌやアランと必ず逢った。
僕の本音では、ジャンヌとよりを戻すどころか、忠子と別居して、ジャンヌを内妻にしたいくらいだが、そう言う訳には行かない。
ジャンヌとは別れたが、我が子のアランとは会いたいのだ、ということで、僕は2人に逢い続けた)
そして、1919年1月のある日、正式に僕は帰国のために出立することになり、ジャンヌとアランと別れを惜しむ羽目になった。
「日本に生きて還れるとは思わなかった。海兵同期生の3人に2人が戦死したからね」
「本当に別れの言葉を交わせるとは思わなかったわ」
逢って早々の僕の言葉に、ジャンヌも涙を浮かべながら答えた。
この世界に来た以上、日本には生きて還れるという確信が無ければ、僕はアランに逢おうという心境にはならなかっただろう。
何しろ、終わりの見えない戦争で、相次いで周囲の面々が戦死していき、最終的には日本軍全体で約6万人以上もの戦死者が出たのだ。
僕の周囲で、どうせ生かして還さぬつもり、と「雪の進軍」の歌詞の一部が流行る等する有様だった。
前世で戦死する前、僕は荒れていて、ジャンヌを抱いたのはその一環だったのを、僕は想い起こした。
ジャンヌと積もる話をした後、僕は改めてアランに別れを告げたら。
「待って」
そう言った直後、ジャンヌは、僕にビンタをした後、キスをした。
「これが私の気持ち」
「そうか」
それ以上の言葉は、僕達の間には不要だった。
僕は、敢えて振り返らずに、ジャンヌの下を去った。
ジャンヌが自分の視界から消え去るまで、ずっと僕の後姿を見つめているのを、僕は感じ続けた。
そして、僕が日本に帰国して、妻の忠子がいる筈の横須賀の官舎の玄関を入ったら。
女鬼2人が、子どもを抱いて待っていた。
「無事に帰国されて良かったです」
「この件について話し合いましょう」
妻の忠子と、篠田りつが顔を揃えて、玄関先にいたのだ。
「何で、りつまで」
思わず僕が言ったら、
「私がいる以上、篠田さんと言うべきでは」
忠子からツッコまれた。
「私は、りつと呼んでほしいですね」
りつの言葉も、皮肉交じりに聞こえる。
いや、自分の所業から仕方ないけど、それにしても何で二人が。
と想っていたら。
「村山キクが娘、幸恵を産んでいました」
「私が初めての相手と言っておられましたが、この大嘘吐き。私は本当に初めてだったのに」
「ちょっと待ちなさい。その前から愛を交わした仲だと」
「あっ」
「この大嘘吐きが」
「煩い、この泥棒猫が」
忠子とりつは、いつの間にか、僕を無視してキャットファイトを始めた。
僕は双方から攻撃されながら、やっとの想いで仲裁する羽目になった。
りつの中身が鈴で無くて良かった。
武道の達人の鈴だったら、僕も忠子も一撃で昏倒させられただろう。
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