第11話 第一次世界大戦が終わるまでにあったこと。
そんなやり取りをジャンヌとした後、僕は義父の岸三郎提督に、ジャンヌとの話し合いがまとまったこと、更にその内容について話をした。
義父は渋い顔をしながら、半ば僕に説諭した。
「ジャンヌがアランの認知を求めないのは良かったが、今後の縁切りを考えたら、一度にまとめて養育費をジャンヌに支払った方が良かったのではないか」
「そうかもしれませんが、ジャンヌとの縁は切れても、アランと僕は親子ですから、その縁は幾ら何でも切れませんよ」
「そうかもしれんが、誤魔化すこともできるだろう。それこそ」
義父の説諭は、まだ続きそうだったが、僕は身振りで押し止めながら言った。
「この件は、最終的には野村家の問題です。野村家の戸主として、そう決めました」
そう、僕は忠子との結婚を機に分家して、野村家(分家)の戸主になっている。
だから、いよいよ僕が腹を括れば、家が違う以上、義父と言えど口出しはしづらいのだ。
義父は、僕の一言で、これ以上は僕が梃子でも動かぬ気だ、と察したのだろう。
鼻を鳴らして、ジャンヌとの件については、これ以降、義父は僕に介入してこなくなった。
その代わりという訳ではないだろうが。
僕はその後、義父の意を介したらしい人事異動に振り回される羽目になった。
第一次世界大戦中、イタリア戦線では第4海兵師団に僕は転属して山岳部隊の訓練を受けさせられ、カポレット=チロルの戦いに僕も参加して、日本軍が事実上の勝利を独軍に対して収めた後は、第1海兵師団に転属して戦車部隊の訓練を受けさせられる羽目になった。
そして、連合軍の最終攻勢に戦車中隊の中隊長として参加して、ブリュッセルが遥かに望めるところまで迫ることが出来たが、そこで独と連合国との休戦交渉が成立し、僕の第一次世界大戦は終わった。
その一方で、この間、僕は毎月のように妻の忠子と篠田りつの二人と手紙のやり取りをして、二人の喧嘩の仲裁に奔走もする羽目になった。
忠子、りつ、それぞれが気が強いから、自分の言いたいこと、相手への不満(勿論、それぞれが産んだ子への処遇も含めてだ)を手紙に書いてきて、更に自分への味方をしてほしい旨を書いてくる。
このことについては、自業自得とは言え、僕は本当に手を焼く羽目になった。
その一方で、ジャンヌ(とアラン)と僕の間の件については、共闘関係をこの二人は喜んで結ぶのだから、本当に性〇が悪い。
二人揃って、ジャンヌへのアランへの養育費支払いを取りやめろ、その金をこちらの子、総司と千恵子の養育費に回せ、と口をそろえて言うならぬ、手紙に書いてくるのだから。
あらためて、似た者同士だ、と僕は溜息をしょっちゅう吐く羽目になった。
なお、この点については、僕はとことん突っぱねた。
確かに野村家の戸籍にアランは入っていない。
しかし、自分の子である以上、養育費は支払う。
これは、アランを僕の子として認知しないことへの詫びでもある。
そこまで、忠子とりつの二人が言うならぬ、手紙に書くのなら、こちらは仏で現地除隊して日本に帰国せず、ジャンヌを内妻にして仏で暮らす、と二人に手紙に書いたら、流石に驚いて、アランの養育費については、不満の手紙を書いてこなくなったが。
僕は日本への帰国後のことについて、頭が本当に痛くなった。
これは、本当に日本に帰国したら、アランの養育費を支払うな、と忠子とりつの二人掛かりで、しょっちゅう責められそうだ。
過去の異世界にジャンヌに澪、愛の3人が行った際、ジャンヌは千恵子や総司の養育費が必要なら、と自分の預金を差し出したと僕は聞いていて、それを澪や愛も認めていたが。
本当にジャンヌと忠子とりつの3人の性格の違いには、僕は頭が痛くなった。
途中で、養育費をまとめてジャンヌに支払ったら云々、という部分がありますが、主人公には、そんな貯金は実際にはありません。
しかし、ジャンヌやアランとの縁を切るために、自分がが立て替える形で支払ってやる、その後、返済してくれればいい、という趣旨で義父は言い、主人公はそれを断ったという次第になります。
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