第10話 ジャンヌと子どもの養育費の支払いの話をし、また、別れ話をしました
そんな出来事が、1917年の春にあり、話が前後してしまうが、その少し前にジャンヌはアランを無事に出産した。
僕の予想通りだったが、アランは蒙古斑をもって、産まれてきた。
ジャンヌの夜の相手は白人ばかりで、黄色人種は僕しかいない筈だ。
(ジャンヌの色々な際の主張、弁解を聞く限りだが)
そして、アランが蒙古斑をもって産まれてきたということは、僕の子だという暗示、証明になる。
僕は史実通りだったか、と内心で考え、義父の岸三郎提督は、それこそ鼻を鳴らすことになった。
そして。
「ジャンヌにも、アランの養育費を渡すのか」
「当然でしょう。僕は実の父親ですよ」
「しかしだな、アランを認知しない以上、お前の家に入る訳ではないだろう」
「ええ」
「それなら、お前が養育費を支払う必要は無いだろう」
僕と義父は、そんなやり取りをする羽目になった。
理解しがたい人もいるので、少し補足説明をすると。
旧民法では家制度が健在である。
だから、家が違うと扶養義務はない。
千恵子は、僕が認知しており、僕の野村家の戸籍に入っているので、千恵子の扶養義務が僕にはある。
しかし、アランを僕は認知しておらず、僕の家の戸籍にアランは入っていない。
だから、アランを扶養する義務、養育費を払う必要は僕には無い、と義父は言っているのだ。
(酷い話だ、家が違っても親子なら扶養義務がある筈だ、と僕は想うが)
僕は義父の説得に掛った。
「ともかく、ジャンヌとは完全に縁を切って別れます。その代償として、アランの養育費を払わせてください。余り騒ぎを大きくしたくないでしょう。ジャンヌも、理解してくれます。そもそも、アランの出産にしても、直接、僕の所にジャンヌは伝えに来ていないでしょう。もし、ジャンヌが自分が出産した子は、僕の子だと騒ぎだしたら、どう始末をつけるつもりですか。出産に立ち会った軍医は、アランに蒙古斑があったのを見ています。黄色人種の子、僕の子だとその軍医は認めかねません。義父の地位をもってすれば、一時的に軍医の口を塞ぐことはできるでしょうが、後で発覚したら、騒動が酷くなりますよ」
「それはそうだが」
義父は、渋々、僕の懸命の主張を認め出した。
「ともかく、一度、ジャンヌと話し合います」
僕は半ば強引に義父との話し合いを打ち切り、ジャンヌに逢いに行った。
ジャンヌは、アランを抱いて待っていた。
ジャンヌはアランを僕に渡し、僕はアランを抱きしめた。
前世では抱くことの無かった我が子だ。
というか、子どもが4人もいながら、誰一人抱きしめることなく、僕はあの世に旅立った。
そして、十分にアランを抱きしめた後、僕はジャンヌと向き合い、話し合いを始めた。
「アランを認知したら、アランを日本に連れて行くことになる。アランの認知はしないが、養育費はアランが大人になるまで払う。その額は給料の手取りの1割とする。そして、君とは縁を切る」
僕は、この案をジャンヌに提案した。
ジャンヌは、あっさり僕の案を受け入れてくれた。
その理由はというと。
「だって、奥様にも子どもが産まれたのでしょう。それに他の女性にも。それが精一杯でしょ」
ジャンヌは、どうやって知ったのか、総司や千恵子の存在を知っていたのだ。
(ジャンヌは情報源を明かさなかったが、大方、高木惣吉少尉がばらしたのだろう)
そして。
ジャンヌは、僕の頬を思い切り一度、平手打ちして言った。
「これで、私の怒りを鎮めて、アランの認知の件は許してあげるわ」
「本当にすまない」
僕は頬を抑えながら想った。
他の3人が、この程度で済ませてくれたらいいが、これでは済まないだろうな。
今後のことについて、あらためて、僕は気が遠く、更に重くなってしまった。
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