拾ってきた。
「と、いうことでやってきました我が家」
「おい待てっ!? 」
む、なんですかうるさいやつですねー。
「なんでわたしがこんなとこに連れ込まれてるのよっ!? 」
「こんなとことは失礼ですねー。僕の部屋ですよここはー」
「いやそれは分かってるわよ! なんで場所変えでいきなりアンタの部屋になってるのよ、食堂とか教室とか色々と場所の候補あったじゃなおの!? 」
「ああ」
ポンと手を打つ。いやー全くその選択肢は気づかなかったですだよー。
「ああじゃないわよっ!? ……ったく、なんでわたしがこんなとこに……」
居心地悪そうにモジモジする子。さっきからほんと失礼な子ですねー。
「トイレならあっちですよ? 」
「違うわよっ」
「ならそんなに居心地悪そうにしないで欲しいのですよ」
「だって…………」
がたがたもじもじ。ほんとにせわしない子なのです、仕方ないですねぇ、ここはアレでいきますか。
「ならちょっと待つのですよ」
立ち上がってお湯を沸かしに行く。えーと、この前の残りは確かこの辺に……ごそごそ、お、あったあった。あとはカップとポットを……ひとつでいいですかね、ごそごそ。お、お湯沸いた。あとはこれを一呼吸おいて……できた。
「さーお待たせしたのです」
あれ、あの子が居ないのです…………きょろんきょろん。発見。
「人の部屋でなーにしてるんです? 」
「うおっ!? な、何よびっくりするじゃない…………」
「びっくりしたのはこっちの方ですよー。まさか拾ってきた子が勝手にごそごそ漁るような子だったとは」
その子が手をかけていた引き出しをそっと仕舞う。…………『私』の隠し場所を探り当てるとは侮れないね、こいつ。
代わりにクローゼットの下段を開けて、
「私のパンツならこっちですよー」
ひらひらさせる。
「な、なんでわたしがそんなもの探さなきゃいけないのよっ!? 」
「自分はそんなえっちっちなの穿いてるのにー?」
「に゛ゃ゛っ!? 」
慌てて抑えても遅いのですよ、さっきバッチし見ちゃいましたからねー。
「ま、そんな茶番は置いといてですね」
「茶番っ!?」
まだ何か言いたげですねぇ。でもこっちの方は待ってはくれないのですよ、早くしてほしいのです。
「丁度いい頃合いなのです、早くテーブルにつきなさいよー」
「うう…………分かったわよ……」
と対面にその子を座らせて、さっきから出番はまだかとガラスポットの中で踊っている茶番を眺める。…………あるぇー? ティーバッグ破れてましたかね…………? まぁいいです、頃合いも頃合いなので。
そっとカップに注いでその子の目の前に置く。けれども警戒してるのか、1ミリも動こうとしない。
「冷めるから早いとこ飲んで欲しいのですよ」
「いや、わたしこんな本格的なお茶飲んだことないから作法とか分からないんだけど……」
「そんなもんグイッと一気飲みすりゃいいのですよ、細かな作法とかは宮廷とか議会に任せときゃいいのです」
と色々な方面から十字砲火されそうなことを言ってもなおその子はカップに手をつけようとしなくて、
「警戒してるのです? 」
「そ、そりゃあそうよ…………いきなり連れ込まれた部屋で出された飲み物なんて」
「あーもうまどろっこしいですねぇ」
手を伸ばして対面のカップを奪い、自分で1口飲んでから返す。
「ほら、毒味は済んだのです。安心して飲みやがってくださいな」
「ど、毒味って………………しかも間接キス」
いちいち小うるさいやつですねぇ……
「そんなに嫌なら飲まなくていいのですよ」
とカップを下げようとすると
「わ、分かったわよ飲めばいいんでしょっ!? 」
とひったくるようにカップを持っていかれて一気飲みされる。おー、いい飲みっぷり。
「おかわり自由なのですよ」
とだけ言い残して自分もマグカップを取りに行く。分量ちょっと間違えたから僕も飲まないと減らなそうなのですよ…………
「落ち着いたのです?」
「え、ええ、まぁね…………」
2人で飲めば、小さなガラスポットはたちまち空になる。
「それはよかったのです」
とガラスポットを片すと、
「その、ごめんなさい…………わたし、人の部屋に入ったのなんて初めてで…………」
「それはお互い様ですよ、僕も招き入れたのはは貴女が初めてです」
だいぶ落ち着いた様子なので、本題を切り出そうと向き直る。
「さっきのはレモンバーム、鎮静作用があるのです。せわしなくてカッカしてる貴女にはちょうど良さそうでしたので処方してみたのです」
「処方? ってことはあなた、薬剤師かなにか? ……そんなわけ無いわよね、この寮にいるんだもの」
「いえいえ、当たらずとも遠からずといったところですねぇ。申し遅れました、僕は碧海 密恋。以後お見知りおきを」
「へきかい みつれ…………なんだか言い難いわね」
「サラッと失礼なこと言いやがりますねー。して、貴女は? 」
「わたし? わたしは、カスミハラ ミツ。霞の原っぱに光、よ。高等部の2の4」
「あらー同学でしたか。2-2ですよ」
「あらそうなの? 全然気づかなかったわ」
「そこもお互い様ですねぇ」
いつの間にか差し込んだ夕日に照らされて、壁に2つの影が重なってた。下げられたカップとガラスポットだけがそれを知っていた…………かどうかは、定かではない。