秋の木漏れ光
平穏な日というのは、長くは続かないものである。
例えば戦乱、お次は災厄、そしておまけはお姫様…………お姫様?
「ツミレ、なにしてんの早くしなさい」
「密恋だって…………」
いいやもう、これでツミレ呼ばわり100と余り42……いや、52だったかな。どうでもいいやもう。
そんなことを考えて足を止めると、
「ツミレ、そんなとこで止まってるんじゃないわよ置いてくわよ、というか置いてくわ」
すたすたとっとこ歩いていってしまう光。やれやれ、ほんとにいい意味でマイペースなんだから。………ならば、こっちもマイペースを貫かせてもらおうかな。
秋めいた商店街の並木を、周りの流れをかき乱さないようにゆっくりゆっくり歩いていく。もう少ししたらこの木達もすっかり寒そうな顔になってしまうんだろうなぁ……なんて考えつつ、ゆっくりゆっくり歩いていると、向こうから人波に逆行して、いや人波を割って突っ込んでくる影。
「おかえり光」
「お帰りじゃないわよ、あんた遅すぎだから!」
「マイペースと言って欲しいね? 」
「どっちも変わんないわよ」
「いいや変わるね。だって光はさっき『早くしなさい』とひとりで行っちゃったじゃないか、『マイペース』で」
「うっ………………あんたほんと、そういう小賢しい答えは得意なんだから……」
「どうとでも」
軽くぽんっと頭を撫でてまた歩き出す。今度はほんとのマイペース。あっ待ちなさいよと遅れて光も横に並んでくる。いや、並んで、きた。そして、並んで、いた。
「………………待ちなさいよ」
ずんずんと精一杯の大股で歩み寄ってくる光。ほらほら折角下ろした冬スカートが翻ってるよ。
「なにかな? 」
「なにかな? じゃないわよ! なんでわたしを置いて行くのよ!! 」
「ホンネ、さっきの仕返し。タテマエ、コンパスの違い」
横並びになって腰骨の位置を見せつける。ついでに光の頭もてしてしと。…………お? 光が俯いたぞ?
「ちぢめっ」
おっと危ない。危うくアザをひとつ増やすところだった。
「流石に蹴りはもう食らわないよっ、と!?」
あいてて…………フェイントでヒジが……
「あらごめんあそばせ、大きくて避けきれませんでしたわー」
「わー棒読みだー」
なんて返して、光にじゃれつかれて、僕の平和は形を変える。
こんなこと、昔は想像もできなかったなぁ。だって僕は、
「…………密恋? 」
下から覗き込んでくる光、投げてくるのは心配の色。
「…………ううん、なんでもない」
そして三度歩き始めると、光から四歩離れて
「…………ただ、光はかわいいなって思ってただけ」
「かわいっ!? 」
頭から湯気でも飛ばすんじゃないかってぐらい真っ赤になって、
「こ、このツミレ団子ー!!」
僕のあとを追いかけてくる。それを見越して僕のマイペースで歩き始めると、
「このっ、待ちなさいよっ!!」
茹であがった光がちょこまかついてくる。
碧い空からは相変わらず光が零れていた。