第31.5話 【6】英雄叙事詩~ライチ・カグチ①~
第31.5話 【6】英雄叙事詩~ライチ・カグチ①~
三雄の誓いにより開拓された地、マリーランド王国。
このように云えば、嘸かし音の通りも善くなる事だろう。
少数部族からなる、先進人類未踏の地域であったが、マリーラ一行の上陸により一転した。
文明の明かりが灯された事で、部族の集まりは国へと変貌を遂げ、文化交流が飛躍と脱落を生む。
王国となり、部族の在り方も変わった。
その変化を喜ばしくも、どこか寂しくも思うのは、その変化に翻弄され続けた祖先を思えばこそである。
マリーラ一行の開拓に協力し、重役ポストを得てきた彼の一族――。
苦労と葛藤の先に、今の地位や子孫の未来が広がっている事実を突き付けられ、祖先は選択し、自身もまた選択を迫られていた。
マリーランド王国西方自治補佐、ライチ・カグチ。
狩猟部族の戦士であった祖先の意思を受け継ぎ、一族の未来を担う者である。
元々の気性は荒く、それを表にしない為に無口で不愛想だと称され、一族の跡継ぎ候補からは外されるだろうと思われていた。
しかし、部族の中でも飛び抜けた戦士の才を持ち、学においても結果を残してきたため、彼の父はライチを次期部族長に選んだのである。
マリーラ王の死後、武力統治の影響が薄れつつもマリーランド王国は王国としての形を保っていた。
海を隔てた他国との貿易や交流により、国として体面を保つことの方が利益があると判断されたからである。
そして、割と自由だった交流により、国王の一人娘が選んだフィアンセは、他国の人間であった。
サグリフ国出身の元軍人にして学者であった、ケーヒス・ラピス。
姫君の心を射止めた彼は、二代目マリーランド王国国王を戴冠する。
賛否両論入り乱れる中、彼は良好な政治で国を富ませた。
そして、彼の息子が30歳を過ぎた頃、息子に国を任せ自身は隠居する。
地位や名声に驕らない人物であった二代目国王。
ラピス王に仕えていたライチの父や祖父は、国に献身し、それを良く誉として語っていた。
自身もそれに倣い、部族繁栄の為に現国王へ献身するつもりである。
そうでなくては、態々このような場所で、このような接待を取り仕切るのは肌に合わない。
「これも、我が王の為なのか……。こんな事が……。」
細々と悪態を吐きながらも、ハイデンベルグ王国の来賓をもてなす。
そんな彼に、一人の男が歩み寄って来た。
「私も、心の底では同じ不満を抱えています。」
そう打ち明けながら、ライチの隣にやって来たのはテイラー・アルバレスである。
来賓に悪態を聞かれてしまった失態――。
言い訳もできない、取り返しのつかない大失態である。
しかし、テイラーは同様の悩みを彼に告げたのであった。
世界の異変を調べる大役を担うはずが、このような場所に左遷された事。
それは、戦士として国に貢献したい、ライチの今の心境と似ていたのだった。
それから二人は意気投合し、夜遅くまで語り合う事になる――。
創霊90年・サラマンドラ季・間月序週の頃――。
地の英雄、ライチ・カグチの夜半――。




