第31.5話 【5】英雄叙事詩~オルカイト①~
第31.5話 【5】英雄叙事詩~オルカイト①~
体術戦闘の分野において彼の右に出る者はいない。
カルバイン王国軍の中で、それは誰もが知る事実であった。
風の如き素早さと、鋭さを併せ持つ戦士――、オルカイト。
彼は32歳で軍を離脱すると、独学で精霊学を学び始め、およそ2年で修士を修めるに至る。
マリーランド王国での異変調査及び、世界救済へ旅立った時、彼は既に34歳になっていた。
過ぎつつある全盛期の身体を、経験と知識で補いながら操る。
その体捌きで精霊獣さえも翻弄し、シルフ霊山では翼獣ガルーダを――、ノーム霊山では狼獣ハイウルフをアルテム達と共に倒したのだ。
そんな武人の高みにいるような彼は、力を誇示せず、決して驕らない。
常に冷静で、仲間を思い行動する様は、誇り高い英雄の片鱗を既に窺わせていた。
「経験に勝る学びなし。されとて、省みなければ技は磨けず。」
彼が遺した言葉の中で、これ程彼を象徴する名言はないだろう。
勝敗や成否のいかなる結果にせよ、省みてこそ正しく経験として蓄積されるのだ。
その蓄積された正しい経験によって、彼の技は日々研磨されていく。
無論、それは仲間達へも伝播したに違いない――。
下山後――、彼はリセリアを大いに称えた。
狼獣の刃が迫る中でも逃げ出さず、負傷した仲間を救護し続けていた事に対してである。
「仲間を思いやれる救護役が背後にいるのなら、前衛としてこれ程心強いことはない。」
危機に際して、保身よりも他者の救命を優先させた勇気に対し、自然と出た言葉であった。
その言葉に惹かれ、彼女はアルテム一行と同行することを決意する――。
アステイト王国に残っていた、ハイデンベルグ王国からの同行者、ラキウス・ハイデン。
彼がアステイト王国に協力を取り付けたことで、一行は報告の為に帰還する事となる。
翌朝――、調査団から別働任務として離脱したリセリアを加え、一行は帰路に発った。
帰路の途中、リセリアの自国であるサグリフ国へと立ち寄り、彼女が別働任務として受けた報告の任を果たしたことで、彼女は自由となり正式に一行の一員となる。
ハイデンベルグ王国への報告後、何をするかは決まっていない。
自国へ戻るなら、もう少し異変調査に進展があってからでもいいからだ。
「それならば、未踏の地を共に行こうではないか!」
突然聞こえる見知った声――。
夕食をとりながら相談していた一行のもとに、突如現れたのはアニーだった。
彼女の提案で、ハイデンベルグ王国への報告後、大精霊が住まうとされる地を調査することとなる。
こうして、一行の次なる目的地が決まったのだった。
創霊90年・サラマンドラ季・間月序週の頃――。
風の英雄、オルカイトの払暁――。




