第31.5話 【4】英雄叙事詩~アニー・ライオット①~
第31.5話 【4】英雄叙事詩~アニー・ライオット①~
冒険とは未踏――、険しき未知を押し進む、勇気ある行いの一つである。
後にそう語ったとされる、当時18歳の自称冒険家の少女――、アニー・ライオット。
彼女の父アナキスは、アステイト王国で外務大臣を担う傑物であった。
彼の、他国の王相手でも物怖じしない豪胆さは、しっかりと娘に受け継がれている。
冒険家の彼女にとっても、それは優位性を示していた。
少し前から山の様子がおかしい。
木々の騒めきや動物の気配、或いは魔物の行動から察知したのであろうか。
否――、彼女にそれらを感知する繊細さはない。
つまりは、そう――、直感と言われる根拠のない自信が彼女を突き動かしているのだ。
「この山では絶対に何かが起こている……、たぶん……。」
何を感じ取って、そう判断したのかと聞かれたとしても説明はできない。
ただ――、ここに来ることで、彼女にとって転機と成り得た事は確かである。
学者らしき二人組――。
彼等は山頂を目指しているのだろうか。
気になる――。
直感で感じ取った異変は一瞬忘れ、彼等との遭遇を実行するアニー。
戻らない先遣隊の捜索を依頼されたと知り、彼女は二人に同行することを選んだ。
しばらくして――、捜索を続ける三人は、精霊獣と戦う先遣隊を発見する。
負傷者は散り散りに倒れており、狼のような精霊獣の注意を引き付けていた男も、抵抗の甲斐なく精霊獣の爪刃に崩れ去った。
狼獣は屠る対象を失い、息のある隊員の救護をしていた女性――、リセリアへと照準を定めなおす。
そして――、狼獣は勢いよく跳躍し、その爪を彼女の首元へと突き付けた。
「翼獣に比べれば、貴様は遅すぎる。」
間に割って入ったオルカイトは、両手で狼獣の爪を受け止める。
三倍程の体格差を顧みず、彼は彼女を守る為、勇敢に立ちはだかった。
オルカイトが動きを抑えたことで、アルテムは精霊術による攻撃を行使する。
がっちりと掴まれ、狼獣は攻撃を避けきれなかったが、人の三倍はある狼獣に、深手を負わせるには至らなかった。
「冒険者を名乗る以上、私も加勢する!」
アニーは覚悟を決め、背に携えていた大剣を前に構える。
依然として、狼獣の注意はオルカイトに向けられたままだった。
これならいける――。
意を決し、彼女は大剣を振り被り、狼獣の首元を目掛けて勢いよく振り抜いた。
勢いを増した大剣が狼獣の首を跳ね飛ばす。
こうして一行は、二体目の精霊獣を倒したのだった――。
創霊90年・サラマンドラ季・間月序週の頃――。
火の英雄・アニー・ライオットの冒険――。




