第31.5話 【3】英雄叙事詩~リセリア・テイナーズ①~
第31.5話 【3】英雄叙事詩~リセリア・テイナーズ①~
サグリフ国精霊術部隊所属の救護班班員――、リセリア・テイナーズ。
彼女は水の精霊術に長け、防御、衝撃緩和、応急処置を担っている。
決して戦闘に秀でている訳でも、戦闘を好んでいる訳でもない。
政務官である父の勧めで救護の道を歩み、その延長戦で精霊術部隊の救護班に配属されただけに過ぎない、20歳の女性である。
リセリアは、異変調査の為に急遽編成されたサグリフ精霊調査団に組み込まれ、団員と共にノーム霊山を登山していた。
急な招集令――。
しかも、この調査団は他国の山岳調査に向かうという異例中の異例を担っている。
疑問は払拭できなかったが、一団員である彼女にはそれを調べる術もない。
ただ、政治的な何かが及んでいると言う事だけは、政務官の父を持つ身であるからこそ、彼女は直感的に理解した。
「これより先遣隊と後衛に分かれ、先遣隊は頂上を目指す。後衛はここを拠点とし、駐留する準備を行え。」
団長の指示で部隊が分けられる。
救護要員の彼女は、後衛に配置されるものだと思っていたが、救護班から二名を先遣隊に組み込むとされ、その二枠の一人に選ばれた。
ここに至る道中――、シャロ国で宿泊して以来、纏まった休息を取っていない。
「運がないな……。」
後衛であれば先に休息を取ることができただろう。
そんな思いを溢しながら、彼女は先遣隊として再び足を働かせることとなった。
宿泊の時の事を思い出した為か、彼女はそこでの出会いについても思い出す。
学者のような装いの二人組と護衛の剣士――。
彼等もアステイト王国訪問後にここを訪れるだろうと言っていた。
先に出発したのだから、もしかすると先に登頂しているかもしれない。
そうなれば彼等の足跡をトレースでき、登頂は比較的容易となるからだ。
しかし、そんな期待は一瞬にして粉砕する――。
団長が発見した足跡は、獣の類のものだった。
しかも、その大きさから大型の個体だと判別できる。
「この山の主のものかもしれない……。」
誰かが言った不穏な一言は、先遣隊の不安を煽り立てた。
そこに飛び込んできた狼獣のような遠吠えも合わさり、隊は一種の混乱状態となる。
迫りくる気配――。
犇々《ひしひし》と伝わる緊迫感――。
そして――、絶望を告げる巨体が、彼女達の目の前に姿を見せたのだった――。
創霊90年・サラマンドラ季・間月序週の頃――。
水の英雄、リセリア・テイナーズの窮地――。
修飾の序幕にて、英霊として過去の仲間が登場するため、物語を開放しました。
順次掲載していきます。




