第31.5話 【2】英雄叙事詩~テイラー・アルバレス①~
第31.5話 【2】英雄叙事詩~テイラー・アルバレス①~
ハイデンベルグ王国所属の精霊学者であり、ハイデンベルグ王国軍の精霊術部隊の指揮官をも務める男、テイラー・アルバレス。
彼の父であるロックは、賢人と謳われるワイズマンに次ぐ精霊学術界の実力者であり、アルバレス研究所の所長を努めている博士であった。
その為、幼き頃より精霊学に触れる機会に恵まれ、研鑽を重ねて学士の地位に至る。
精霊学者でありながら、彼は精霊術の才は乏しかった。
知識は有れど大成は望めない。
そう揶揄され続けてきた彼は、剣術の道を選択する。
「道は決して一つではない。」
精霊学の学習は続けつつ、来る日も――、来る日も――、彼は毎日剣を振った。
その努力が実を結び、20歳にして彼は王国軍へ入隊する。
入隊すると、剣術に微量の精霊術を組み合わせた戦闘スタイルを揮い、模擬戦では強者を圧倒――、その腕を見込まれ、直ぐに部隊長を任命された。
翌年には精霊術部隊の副官に昇進し、さらに翌年には精霊部隊の指揮官に任命される。
精霊術士としてではなく、その知識と統率力が評価されての事だった。
その功績が加味されたのか、彼は国王からアルテムの旅の補佐を命ぜられる。
世界救済の旅への同行――。
英雄への道――。
剣士の道を選んだ彼にとって、この選抜は何ものにも代えられぬ誉であった。
意気込みそままに、彼は手早く身支度を済ませて出立し、それが幸いしたのか、早々にノースリア平原にてアルテムと合流を果たす事になる。
大業への第一歩――。
今まさに、その足跡を刻む時が訪れたのだと確信を持った瞬間だった。
しかし、アルテムが受け取っていた相手国からの親書を確認し、彼は報告の任を請け負うと申し出る。
少しでも早く、この二人は西側諸国へ向かわなくてはならない。
共に行きたい思いを抑え、自身がしなくてはいけない役割に徹する判断だった。
二人に先を急がせ、テイラーは一人、王都へと戻る。
謁見は直ぐに叶い、テイラーは預かった親書を国王へと手渡し、次の命が下るのを待った。
二人を追いかけ、共に西側諸国の協力を取り付ける。
そう告げられると思い込んでいた。
「西側諸国へはハイデン外交補佐官を既に向かわせている。アルバレス指揮官には、これから認める親書を持ってマリーランド王国へと渡ってもらいたい。」
予想を裏切られる命に動揺しつつも、彼は承諾の意を高らかに宣言して退謁する。
「今は自身の役割を全うする時だ。」
彼は自身にそう言い聞かせ、北の地へと向かうのだった――。
創霊90年・サラマンドラ季・序月末週の頃――。
堅の英雄、テイラー・アルバレスの登壇――。




