表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の夢を紡いで成る世界~序幕の為のプロローグ~  作者: 詩游燼
第5章 番外編~アナザーストーリー~
77/85

第28.5話 【1】ソアとドロシー

第28.5話 【1】ソアとドロシー


 それは――、静かな夜だった。


「申し訳ございません……、お嬢様……。」


 否――、静かだったはずの夜に、うるさい音が混じる。


「私どもが到着した際には、もう……。」


 ――煩い――。


「このままではお嬢様の身も危険です。どうか……、私達と共に逃げる支度を……。」


 ――本当に煩い――、聞こえない――。


「こういう日の為にリスル家の子を引き取っていてよかった。彼女には悪いが、身代わりとなってソア様が逃げる時間を稼いでもらいましょう。」


 ――誰を?――身代わりにする?


「幸いにしてオブレイオン家の子も屋敷にいます。彼女がオルローグ家に殺されたとなれば、オブレイオン家が私達の代わりにオルローグ家を叩いてくれるはず……。」


 ――ちょっとまって――、使用人たちは何を言っている?


「まずはデュナミス領に避難しましょう。フェレス様のご実家であれば、ソア様をないがしろにはしないはずです。」


 ――たしか、リスル――、アネモネを私の身代わりにすると言っていなかっただろうか?


「二人には悪いが……、命二つでこの窮地を脱することができる。致し方ない。」


 ――それに、オブレイオン――、ワースが殺されるとも言っていた。


「私はリスルの娘をソア様の寝室に移動させる。お前たちは各自荷造りをし、逃げる準備を整えておきなさい。」

「承知しました、執事長。ソア様の荷造りも私がしておきます。」


 ――私の大切が奪われていく――。


「さあ、ソア様。私と一緒に逃げる準備をしますよ。」


 ――お母様にお父様――。そして、アネモネとワースまで――。


「寝室にはアネモネ様がいらっしゃいますので、それ以外で持ち出せるものを選別していきますよ。」


 私が――、弱いからだ――。


 私が弱いから、誰かが犠牲になる。


 私が弱いから、大切な人を――、お母様やお父様、そして親友を守ることができない。


「私は先にヴァルキュリス家の所有するグリモアの複製書と、お二人が残された研究書を取ってきますので、ソア様はご自分の必要な品々をお忘れなく。」


 力があれば――。


 大切な人たちを守れる力があれば――。


「力があれば、キミはみんなを守れるのかい?」


 そうよ!力があれば――、アネモネやワースが死なずに済む。


「本当に?それが本当なら、ボクがプレゼントしようか?」


 誰だろう――。

 使用人とは異なる声――、その異変に、私は気付いた。


「貴方は……、一体……。」


 絞り出した言葉と共に、私は下がり切っていた視線を上げる。


「やぁ、こんばんは。ボクはドロシーだよ。」

 

 そこには、ブロンドの長い髪に蒼い瞳をした魔法使いの少女がいた。




「あなたは、ドロシー……。」


 そう呟きながら周囲を伺うと、時間が停止しているかのようだった。

 先程話していた使用人は、身動き一つせず、ドアノブに手を掛けている。

 テーブルの上のキャンドルの火も、揺らめくことは無かった。


「そうだよ。ボクはドロシーだ。」


 お母様とお父様の死を告げられ、悲しみの絶頂にいる私とは真逆に、その魔法使いは明るく笑顔で答える。


「キミの名はソアだったかな?キミが欲しいのは力でいいんだよね?」


 私の気持ちなど一切無視し、魔女は明るく、ワクワクとした口調で次々と質問を並べた。


「そうよ。……私は力が欲しい。」


 その明るさと同じにはなれそうにないが、私は絞り出すように言葉を返す。


「そっか。うん、いいよ。キミには力をプレゼントしよう。」


 そう言うと、魔女はあたしの頭に手の平を軽くのせた。


『かの者が望みし贈り物を……、ドロシーの名において贈呈する。』


 温かいような、何かに包まれる感覚を覚える。


『それは既にキミの中にある。キミが望み、ボクが与え、それをキミが開封する。』


 神々しい光と、騒々しい程の魔法陣の出現に、鼓動がドクドクと速さを増した。


『与えられし賜物を開封し……、今こそ、その願いを成就させん。』


 魔女が言い切ると同時に、光は終息を見せる。


「……これが、……私の求めた力……。」


 見た目にして、特別な変化があったわけではない。

 沸き上がる力や、反動で体がうずくようなこともない。

 それでも、たしかに私は得ているという実感があった。


「そうだよ。感じ取るのは難しいけれど、キミの求めたものだ。」


 実感はあるのだが――、やはり力が込み上げてくるようなことは無い。


「本当に、強くなっているのかしら……。」


 疑問だ――。


 精霊の力を強く感じることも、何かに目覚めた感覚もない。


 ただ――、私の中に包装された塊のような、未開封の箱の様なものがあるという感覚。


「キミが感じているそれは、ボクがキミに送ったギフトだ。」


 ギフト――?


「全部で七つのギフトがある。必要な数だけ開封するんだ。」


 開封する?どうやって――?


「望めば開く……、と言う事でもないんだけどね。開くためには覚悟が必要なんだ。」


「覚悟が……、必要?」


「そう、覚悟が必要だ。」


 どう、覚悟が必要なのか。

 私にはわからない。


「そんなことは無い。キミは既に一つ目のギフトを開く覚悟ができているはずだ。」


 魔法使いはそう言うが、その実感はなかった。

 そして、もう一つ気付いたことがある。


「実感がないかい?まぁ、ボクが去れば時が動き出すから、嫌でも実感できると思うよ。」


「私の心が読めるの?」


 私は、その気付きを確かめるよう、言葉にした。


「もちろん、キミの思念は伝わっているよ。ボクは女神みたいなものだからね。」


「……女神?」


「今はまだ知らなくても大丈夫だよ。キミが全てのギフトを開封したら、その時に答えを教えよう。」


 分からないことが増える。

 ただ、覚悟によって力が解放されるのだと言う事は理解できた。


「なんとなくだけど、理解してくれてうれしいよ。」


 そう言うと、魔法使い――、否、女神はゆっくりと風景に溶け込むかのように、消えてゆく。


「時が動く……。ソア・ヴァルキュリス、キミへのギフトが幸運の翼であらんことを……。」


 そう言い残し、女神は姿を消した――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ