表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の夢を紡いで成る世界~序幕の為のプロローグ~  作者: 詩游燼
第5章 番外編~アナザーストーリー~
74/85

第15.5話 【2】ユナの覚醒

第15.5話 【2】ユナの覚醒


 あたしとカーシャは檻が開けられるのをジッと待っていた。


「チャンスは一度だけ。檻が開けられたら体当たりで敵にぶつかり、剣を奪って戦う。」


「わかった。ユナ、一緒に助かろうね!」


 作戦を聞いたカーシャは、差し迫った危機を感じさせない程明るかった。

 多少の不安はぬぐい切れないが、あたしは力強く頷いてカーシャを安心させる。

 その思いも束の間、檻の前に男の影が掛かり一気に緊張感が増す。


「お、ここが奴隷の檻か。へへへっ、先に見つけられるなんてラッキーだぜ。」


 欲望を声に出しつつ、男は檻の鍵を壊して開ける。


「いまだ!」


「なに!?」


 欲望垂れ流しで油断していた男に、あたしとカーシャで体当たりをかます。

 男は咄嗟の事で受け身も取れないまま横転し、あたしはその隙に男から剣を引っ手繰る。


「うぁぁぁあああ!!」


 間髪入れず、悲鳴にも似た声を吐きながら、あたしは剣を男の喉元に突き刺した。


 ドスッ!!


「ごふぉっ!!」


 喉を刺された為、男は悲鳴すら上げられず絶命する。

 しかし、あたしの声が大きかったせいか、声に気付いた二人の男がこちらに向かってきた。


「ユナ!剣を貸して!」


 どうしようかと考えを巡らせていたあたしに、カーシャは咄嗟の指示を出す。

 指示に対する判断ができず、あたしはその指示に従ってカーシャへ剣を投げ渡した。


「ありがとう!」


 カーシャはそういい残し、あたしの目の前からサッと一蹴り跳躍して二人の男に迫る。


「カーシャ!むちゃだ!」


 と、慌てて声を出したが――、


「大丈夫だよユナ、もう終わったから。」


 言い切る頃には、男の首が二つ地面に転がっていた。

 一瞬の出来事に驚き、あたしはその場で足を崩す。

 そんなあたしを見ておらず、カーシャは首のなくなった二つの死体から剣を剥ぎ取り、その内の一本をあたしに投げてよこした。


「カーシャ……、いつの間にそんなに強くなっていたの?」


 訓練でも見たことのない程機敏な動き。

 一瞬で間合いを詰め敵を仕留めるような戦闘を、彼女は訓練で一度も見せ無かった。


「ユナが言ったんじゃない。真の力は隠せって。」


「それでもカーシャはすごいよ。あたしはそこまで動けないから。」


 絶賛――、と言うより、正直カーシャが少し怖く感じた。

 その所為もあってか、足がすくんで立ち上がれない。


「あれ、足が……。ごめん、動けるようになるまで少し待ってほしい。」


 さっきまでの吹っ切れた感覚は無く、焦りが出始める。


「大丈夫だよ。ユナはそこで待ってて。私が全員殺してくるから。」


「まっ……、行ってしまった……。」


 待ってと言おうとして、言い切る前にカーシャは飛び出していった。


 本当に大丈夫だろうか?


 不安がよぎりつつも、先ほどの動きが思い返される。

 そう思うことで、硬直していた体は次第に解れていった――。






 あれから30分くらい経っただろうか――。

 カーシャは一向に帰ってこない。


「大丈夫かな……。」


 不安がどんどん重く積もっていく。

 そんな不安を抱いていると、虎狼の男達だろうと思われる声が耳に入ってきた。


「あのガキ、ようやくおとなしくなったな。」


「ああ、とりあえず被害が出過ぎたからな。ボスがあのガキだけ連れて撤収するってよ。」


 男たちの言うガキとは――、多分カーシャの事だろう。

 どうやら捕まってしまったみたいだ。


「撤収だ!お前達も急げ!」


 別の男の声で、二人の男はその場を後にする。


 カーシャを助けなきゃ――。


 そう強く思った事で、体から硬直が解ける。

 動けるようになったあたしは、見つからないように男達の後をつけていった――。






「全員揃ったな。これより撤収する。」


 リーダー格の男が号令をかけ、虎狼の面々は撤収を開始する。

 先頭を行くのは号令を掛けたリーダー格の男。

 そのすぐ後ろを行く大柄の男の影から、カーシャのものと思われる桃色の長い髪がチラリと見えた。


 カーシャはあそこにいる――。


 あたしは隙を見計らってカーシャを奪い返そうと画策し、茂みに隠れながら後をつけ始めた。


 だが――、


「こんな所でなにをしている?」


 つけ始めて早々、あっさりと最後尾の男達に見つかってしまう。


「いっ、痛いっ!はなせよ!」


 後ろから地面に組み伏せられ、持っていた剣も奪われる。

 ジタバタともがこうにも、体重を掛けられている為体は動かせない。

 唯一自由となっていた右手を、前へと伸ばすのが精いっぱいだった。


 その手は何かを掴み取ろうと――、カーシャを返せとばかりに前へと伸びるが、何の意味もなしてはいない。


「こいつもつれていくか?」


「いや、先陣はもう見えないしな。どうせなら俺達で遊んでいこうぜ。」


「それもそうだな。小さすぎて入らないかもしれないが。」


 あの時と同じだ――。


 力に抗えず――、両親を失った時と何も変わっていない。

 ただ絶望の対象が、母から自分になっただけだ。

 ただただ悔しい――。


「おらガキ、おとなしくしてろよ!」


 バタつかせる足を抑えられ、そのままズボンを下ろされる。


「ケツもまだまだちいせぇな。さて、お楽しみの時間だ。」


 下半身が露わとなったが、今更気にも止めない。

 そんなことはどうでもいいと思えるほどに――、非力な自分が惨めでならないのだ。

 あたしの力では、連れ去られていくカーシャを救えない。

 その悔しさと惨めさが――、自分に対しての怒りとなって、爆発寸前であった。


「カーシャを返せぇぇえええ!!」


 非力な自分の運命に対する怒り。

 吐き捨てるような悲痛な叫び声が辺りに響き渡った。

 その残響音が鳴りやむ寸前――、


 グシャッ!!


 遥か前方で、何かがつぶれた音が聞こえた――。

 その音の聞こえた瞬間――、組み伏せる男の力が僅かに緩んだように感じ――、


「じゃまだ!どけよ!」


 と、背中越しの男を払いのけようと払った右手の軌道に沿って――、


 ブォンッ――!!


 と、巨大な何かが風を切った。


 グチャッ!!


 また、何かがつぶれるような音がする――。


 近くで聞こえたようなその音が消え、一気に背中が軽くなった。


「な、ななな……。」


 代わりに聞こえてきたのは男の声――。

 言葉になっていない声を発する――、足枷となっている男へあたしは振り返る。

 目に入ったのは、ガクガクと震え青ざめたている男だった。


「お……おおお、に……、おっ、に……、鬼っ!!」


 あたしに向かって、鬼と言葉を発したのだろう。

 しかし、あたしにはまったく理解などできない。


 何が鬼だ。

 お前たちのやってきたことの方がよっぽど鬼だろ。


 その思いが更に怒りを増幅させた。

 怒りは紫色の光となって具現し、あたしの目の前に集束していく。


「邪魔しないで。」


 言葉と共に、右手を払った。

 それと同時に、紫の光は大きな手を――、正に鬼の手のような大きさを模り、あたしの動きに合わせて振り抜かれる。


 ブォンッ――!


 勢いよく風を切る音と共に、男の上半身がバラバラに吹き飛んでいった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ