第15.5話 【1】ユナとカーシャ
番外編をまとめました。
本編の続編は別タイトルで新たに投稿予定です。
第15.5話 【1】ユナとカーシャ
これは、あたしがアルテミスと出会う10年くらい前――、ドランクとの出会いを果たすまでに起きた出来事だ――。
まだ幼いあたしの目の前で、繰り広げられている戦闘――。
そう呼ぶにはあまりにも一方的で、容赦も慈悲も正義すらない。
いわゆる強盗と言うやつだ――。
「大人しくしていろよ。そうしたらすぐ楽にしてやるからな。」
それも、武装した男達20人対、年若い夫婦が2人。
逃げ場も救いも無い、絶望的な状況だ。
「お前はユナを連れて逃げろ!ここは俺が何とかする!」
父は私を連れて逃げろと母に言う――。
しかし、母にはそんな力もなければ、逃げ出せる運気も持ち合わせていない。
「逃げられると思うか?この人数を掻い潜って逃げられるならやってみることだ。」
男たちは笑う――。
追い詰められた獲物を見て、どう料理してやろうかと期待を膨らませて、笑う――。
「男の方は殺せ。女の方は使える穴を使った後だ。」
下卑た笑い――。
品の欠片もない、低い笑い声が家の中で響く。
「まぁ、まだまだ若そうだし、20人くらい相手しても大丈夫だよなぁ?」
下衆なセリフが、下衆な男達にとっては面白おかしいのだろう。
笑い声がドッと広がり、それを想像した母と父は真っ蒼に青ざめていた。
「ガキはどうします?」
「ガキはもちろん売るに決まっているだろ。女だし傷をつけるなよ、処女なままならその手の物好きが数倍の値段で買ってくれる。」
どうやらあたしは売られるみたいだ。
売られると言う事は、この場で殺されることは無いらしい。
しかし――、
「それじゃあ旦那さんにはここでお別れして貰いましょうかね。」
「なぁに。ちゃんと奥さんは俺達で可愛がってあげますよ。」
神様は、父と母に生き残るチャンスを与えてはくれない。
数の暴力に屈し、父はあっけなく殺される。
そして母は――、大勢の男達に何度も――、何度も――、何度も――。
ただ、女性だったというだけで、この差はあんまりだと誰もが思うだろう――。
度重なる辱めを受け続け、母は生気を失い――、悲鳴も枯れ果て――、ぐったりと人形のように動かなくなっていた。
その様に男達はつまらなくなったのだろう。
その後あっさりと殺された。
私だけが生き残った――。
私だけ、生かされた――――。
あれから1年が経った――。
あたしは売られるためにさらわれた。
とはいえ、商品価値が高くなるのは8歳から12歳くらいらしい。
それまでは、戦闘訓練を積まされながら育てられるのだ。
理由としては、奴隷として売れない場合に戦闘員として売る為である。
午前中の戦闘訓練が終わると、僅かな食事を与えられる。
その後は檻の中で放置され、翌日まで比較的自由に過ごせた。
あたしにとっての貴重な自由時間である。
どう貴重なのかと言うと――、
「セイレイがもたらす力のぞくせいは……、えーっと……、みず、ち、ひ、かぜの四つをきそとしており……。」
訓練中に偶然見つけた――、精霊術に関する内容が書かれたボロボロの本を読む為である。
商品として賊に飼われている状態では、戦闘訓練は受けることができても精霊術を学ぶことは普通できない。
本当に偶然――、訓練中に落ちていたのを拾えたのは幸運だった。
「また、二つのぞくせいを……けあわせる?ことで、ひかり、やみといった……、うーん読めない文字がおおい。」
こうして簡単な文字だけでも読めたは、父と母から文字を教えて貰っていたためである。
偶然の積み重ねかもしれないが、あたしにはそういった強みがいくつかあった――。
更に1年が経過したころ、同い年くらいの女の子が誘拐されてきた。
あたしや他の子が戦闘訓練に参加する中、その子はずっと檻の中でうずくまっていた。
多分この子は奴隷として売られていくんだろう。
この時のあたしはそう思っていた。
それから何日かが過ぎ、ある時その子から声を掛けられる。
「ねぇ……、なんで戦闘訓練に行くの?」
別に答える義理はない。
この子はあたしと違う運命をたどるのだから、答えても仕方ない。
そう思っていたのだが、あたしはなぜかその問いに答えていた。
「奴隷として売られたくないからだよ。」
「訓練をすれば奴隷にならなくていいの?」
答えた途端に新たな質問が返ってくる。
一度返答してしまった所為か、無視しづらくなった。
「強くなれば戦闘員になれるからね。」
「戦闘員になって、ここの怖い人達をやっつけるの?」
またしても回答と共に質問が返ってきた。
めんどうだな――。
そう思いながらも、あたしは律義に答えてやることにした。
「そりゃ、やっつけられるくらい強くなれば、奴隷になる事も売られることもないけど。やっつける程強くなる前に、戦闘員として認められてしまったら、ここの奴らにひどい目にあわされてしまうよ。」
「どうして?」
「今はまだ奴隷としての価値があるから、いやらしいことはされない。でも戦闘員になったら奴隷としては売れなくなるから、いやらしいことをされても仕方なくなるんだ。」
「そんなのいやだよ。」
「あたしだっていやだよ。だから訓練で強くなりつつ、本気の力は隠しているんだ。」
「あなたは賢いのね。」
「賢くはないかもだけど、生きていくために色々考えているよ。」
何度かやり取りをし、あたしはそのまま訓練に向かった。
そして、この日はその子にとって初めての訓練日となった――。
数ヶ月が経ち、あたしはその子――、カーシャと仲良くなっていた。
「ここの文字があたしは読めなくて……、カーシャ分かる?」
「うん、わかるよ。ここはね、しんいきぞくせいって読むんだよ。」
「しんいきぞくせい?」
カーシャはあたしよりも文字が読めた。
その事もあって、昼間は二人とも戦闘訓練に行き、午後はこうして隠し持た本を二人で読んでいる。
「ふくごうぞくせいから派生するみたいだけど、まだ解明されてないみたい。」
「あたしたちにはまだ難しそうだね。」
そんな日々を送りつつ、戦闘力も精霊術の知識も少しずつ上達を見せていた。
絶望の淵に居ながらにして、希望に満ちていた日々。
そんな日常は、唐突に終わりを告げる――。
「敵襲だ!戦える奴はみんな今すぐ加勢しろ!」
普段静かな檻の近くで、賊の男たちの焦る声が響いた。
「おいおい、奴らはあの虎狼だぞ!勝てるわけがない、撤退だ!」
戦うのかと思えば、逃亡を図るみたいだ。
つまり、このままだとあたしたちの身も危ういと言う事だ。
「カーシャ、まずいことになった。」
「強い人達が攻めてきたみたいね。ユナどうするの?」
カーシャはまずいの本当の意味が分かっていないようだった。
「相手の強さは問題じゃないよ。この場合、あたしたちは戦利品になるんだ。」
「戦利品になるとどうなるの?」
「好きにされるってことだよ。売られるかどうかも分からない。お金目的じゃなければ、ここでひどい目にあわされる可能性もある。もちろん殺されることにもなるかもしれない。」
「そんなの嫌だよ。ユナ、私殺されたくない!」
カーシャは泣きそうな顔を見せ、必死に訴えていた。
しかし、次の彼女の言葉で、あたしは吹っ切れることになる。
「ユナと私が生き残れるように、あいつら全員殺そう?そしたら殺されないよね?」
カーシャの提案は、排除こそ生き残る道だと示していた――。




