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第61話 王子の凱旋

第61話 王子の凱旋


 新生113年。

 誘拐されていたアステイト王国の王子が、無事に故郷へと帰還した。

 そして、それは誘拐からの帰還と言う形ではなく、王子の凱旋として扱われる。

 帰路を行く馬上の王子に疲労の様子はなく、捜索に出ていた近衛兵1万の内、50名程を引き連れての帰還。

 その姿は勇ましくも悠々としていた。


「王子、よくぞお戻りに!!」

「妖魔討伐ご苦労様でした!!」

「王子万歳!!アステイト王国万歳!!」


 凱旋の途中、様々な祝福の声が響き渡る。

 沸き起こる歓声の中を、王子は笑みを浮かべて手を振って応え、勝利の喜びを国民と分かち合うかのようにして進んでいった。


「レイ様。あ、失礼しました、王子。国王がお待ちですので、少し急ぎましょう。」


 側近のような男が駆け寄り、王子に耳打ちする。

 しかし、王子は首を振り、その進言を退けた。


「この群衆の光景、人の奥に見える町並みや、遠くに見える山々も、私達の故郷と等しく美しいではないですか。それを良く見ておかないと、後々後悔することになるかもしれませんよ。」


 近くは群衆を見て、遠くは風景を見て王子は答える。

 それをちゃんと理解してない様子で、側近は更に進言を続けた。


「はぁ……。仰ることもわかりますが、我々にはあまり時間が……。」

「おっと、その話はここではよしましょう。機を逸すれば事は運べずと言います。今はその時ではありません。」


 進言を遮る様に、王子は口を挟む。


「失礼いたしました。それでは王子、後程王城にて。」


 そう言って、側近は王子の元を離れた。

 王子は何事も無かったかのように、民衆へ向けて笑顔を振りまき優雅に手を振る。

 そんな王子に、また別の側近らしき者が近づいてきた。


「レイ様、あの男は信用できるのでしょうか?」


 耳打ちするように、ヒソヒソと語り掛ける。

 そのか細く透き通った声は、女性のものであった。


「アノレア、ここでは王子と呼んでください。民衆に示しがつきません。」


 きつく咎める訳ではなく、友人に注意を促す程度に優しく、王子は少女に忠告する。


「失礼いたしました。それで、レイ様、あの男は信用できるのですか?」


 忠告に謝罪を述べつつも、少女は同じ過ちを繰り返していた。


「王子ですよ。」

「失礼しました、レイ様。」

「いや、レイ様ではなく、王子と呼んで欲しいのですが……。」

「わかりました、レイ様!」

「王子!」

「レイ様!」

「……もうそれでいいよ。」

「何がもういいのですか?」


 王子は何度か忠告を試みたが、少女からの敬称は変らない。

 どうやら少女は分かっていないようだった。


「それより、彼の事でしたね。」


 このままでは埒が明かないと思い、王子は少女の質問に答える。


「彼は王国内で隠密部隊を指揮する部隊長です。隠してはいますが、彼は妖魔と人間のハーフで私の良き友と成りえる者だよ。」


 そう言って、王子は少女の頭を撫でた。

 撫でられた少女は嬉しそうに頬を緩め、納得を示す。


「レイ様がそう言うのであれば問題なさそうですね。」


 聞きわけよく、少女ははっきりと答えた。


「ですが、用心に越したことはありません。姉さまにもレイ様の事をよろしく頼むと仰せつかっておりますので、もしもの時は私が排除いたします。」

「事がうまく運ぶまでは、何もしないでくれると嬉しいのだけれど……。」


 王子の嘆きを聞くや否や、少女は王子の元を離れて隊列に戻っていく。


「まだ数年は計画の基盤を作る段階だからね。機を逸しないよう、慎重にならないと。」


 王子はそう呟き、絶えず湧きあがっる歓声に応えながら、ゆっくりと王城へと帰還していった――。

これにて、~序幕の為のプロローグ~は一応の完結となります。

これまでご精読頂きありがとうございました。


続編は新たな主人公目線での、別タイトルで投稿してまいります。

https://ncode.syosetu.com/n9847jv/1/

引き続きご高覧頂けますと幸いです。


番外編を第4章の後にまとめました。

※一応第5章としています。

こちらはまだまだ書ききれていない為、継続して執筆してまいります。

拙い文章ですが、これからも何卒よろしくお願いいたします。

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