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第59話 Encounter

第59話 Encounter


 悠悠100年。

 セントラルガーデン書庫にて、グリム・ベルテは様々な書物を物色していた。


「……。」


 精霊学の学術書、精霊術の研究日誌、精霊学を題材とした小説に至るまで、ありとあらゆるジャンルを手に取り、興味が沸き立つ部分だけを厳選して読み耽る。

 最初の本を手に取ってから、既に3日程時は流れていた。


「絶えず流動する時の中でも、時空への扉はそこにある。探り当てる事は不可。しかし、扉のノブを形象できれば、自ずと開かれるであろう……。」


 著バーノン・ホスタリスによるファンタジー小説、時空扉への手がかりの一節を声に出して読む。


「あくまでも仮説。しかし、信憑性を出す為に表現は計算されている。実際に試した計測結果は、いずれもドアノブに手を掛ける事は無かったとされているが、実際は時空間を支配しているのであれば、独占の為に隠している可能性もある。」


 仮説に仮説を重ねて深読みし、様々な角度からの可能性を考えた。

 そして、一通り考察を重ねると、そっとテーブルに本を置いて次の本へと手を伸ばす。

 そして、1冊の――、良く知った人物が手掛けた本書物にたどり着いた。


「停滞は女神の産物……。著者は、ソア・ヴァルキュリス。」


 妖魔世界全ての文献や書物が収められているだけあり、近年出版された、まだ世界に知れ渡ってはいない本も手に取る事が出来る。

 良くも悪くも、様々な書物が手に入るのはこの場所の特異であった。


「女神を信じているような、そんな少女染みた妄想を書き連ねているのではと思いましたが、これは……、クリプトグラフィー?」


 少女の妄想を題材とした小説で、実につまらない内容羅列が散りばめられた、気がおかしくなるような文脈。

 何故この様な内容のものが出版されているのか不思議なくらい、読み手の読欲を無くす仕上がりであった。


「出版元は……、偽造ですね。わざとそれっぽい出版社を記載してますが、この世界には存在しない。ここまでして読ませたくない理由……、そしてクリプトグラフィーを用いている点。この本には私が知りたい事が隠されている気がしますね。」


 確信があるわけではないが、グリムは直感的に察する。

 グリムはその本と、解読に使えそうな本を数冊手に取り、中央のテーブルに並べて椅子に腰かけた。


「さて、暗号を解き明かすまでどれくらい掛かるかわかりませんが、地道にやっていくしかなさそうですね。」


 そう、自分に言い聞かせるように呟き、グリムは最初のページから手を付ける。


「そこのページにヒントはないよ。次のページに解き方のヒントが書かれているんだ。」

「なるほど……。最初のページで諦めた者にはたどり着けず、興味を持った者だけがたどり着ける施しですね。彼女らしい細工だ。」


 突如聞こえてきた声に反応し、グリムは閃いた事に気を取られ、普通に返答していた。


「そこから暫くはダミーだよ。ページは忘れちゃったから、どこに答えがあるかは教えられないけど、この本が指し示す答えを、ボクが特別に教えてあげようか?」

「答えを知っている!?」


 しかし、答えを教えるという、あまりにも都合の良い提案に、グリムは違和感を覚える。

 そして、一人しかいなかった筈のこの場に、もう一人いる事に気付いた。


「ああそうさ。その本にはこのボク――、この世界の女神について書いてあるからね。」


 魔女のような装いだが、明るい笑顔と得意げな声の正体――。

 グリムの目の前にいたのは、この世界の女神であるドロシーであった――。


「さて、ボクはキミに興味なんてないけど、キミはボクに興味津々なのかな?」


 得体のしれない少女が現れ、グリムは動揺しつつも意識を保って返答する。


「貴方が何方かは存じ上げませんが、私が興味あるのは時空間についての書物です。この本がそうで無いのなら、貴方に興味を持つことも無いでしょう。」


 グリムは躊躇なく、はっきりとノーを突きつけた。


「一方的にボクがフラれたみたいになっているけど、ボクもおっさんになんか興味ないよ。」

 可笑しな状況を正し、ドロシーは不服を垂れる。


「……イケメンではなくて、申し訳なかったですね。」


 おっさんと言われたことで、グリムは少し不機嫌そうだった。

 この事から、多少なりルックスに自信を持っていたことが伺えるが、そもそも男に興味のないドロシーにはどうでもいいことである。


「本当にそうだよ。なんでおっさんなんかがその本を手にするのか信じられないね。」


 グリムは嫌味をぶつける様に答えたつもりだったが、ドロシーには応えていない様子――。


「ボクと話ができるのは、幼くてかわいい少女だけって決めていたのに……。どう責任を取って、穢れ無き可憐な幼女を紹介してくれるのかな?」


 そして、この世界の女神は、救いようのないロリコンであった――。

 グリムは冷ややかな目で彼女を見つめ、女神だと自負する変態に憐れみを覚える。


「な、何か勘違いしていない?ボクは女神だよ?」


 最早、信憑性の欠片もない。

 こんな頭のおかしい者が、女神であるはずがないと思うに至るほどだ。


「キミが求める時空に、最も近い存在なんだよ?」


 今更そう言われても信じがたい。


「そして今、キミが体験しているこれが、キミの言う時空間に近しい現象だと思うけど……。気付いてるかな?」


 しかし、改めて周囲を確かめると、明らかにおかしな点がいくつか見受けられる。

 秒針を刻まない時計の針――。

 音一つ聞こえなくなった空間――。

 揺らめくことのないランプの炎――。

 それら全てが、時の停滞――、グリムが求めていた時空間を連想させるものであった。


「これが……、時空間?」

「正確には、停滞の世界かな。」


 ドロシーから停滞の世界を知らされ、グリムはその感動に浸る。


「素晴らしい……。時を刻むことのない、完全なる世界があったとは……。」


 願いが叶う形となり、グリムは歓喜に酔いしれていた。


「願いが叶ってよかったね。」


 そう告げると、ドロシーは一瞬にして姿を消す。

 姿が消えたと同時に、秒針は刻み始め、空間に音が戻り、炎は揺らめきを取り戻した。


「……夢を、見ていたのだろうか?」


 再び動き出した世界で、先程の事が夢ではないかと戸惑いを拭えない。

 しかし、それはすぐに確信へと変わる。


「いや、どうやら女神も停滞世界も、本当に実在したようだ。」


 グリムの手に握られていた紙切れ――。

 そこには、アポカリプスを探せと、ドロシーからのメッセージが託されていた――。

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