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第4話 頂きの紅い華

第4話 頂きの紅い華


 薄暗い中を進み続け、俺達は出会った階層から十数階層程進んだところまで上っていた。

 その各階層には、精霊の力を取り込みすぎ浸食された異生物――、魔物が配置されており、シンシアの手解きのを受けつつ排除して進んでいる。

 彼女が言っていた通り、素質というか、イメージを具現する能力は十分に備わっていた様だ。

 最初の階層こそ、彼女がお手本にと使って見せてくれたが、次の階からは彼女の指示で俺が術を放っている。


「大体コツはつかめてきたかしら?」


 精霊術を行使し、巨大化したカエルのような魔物を排除した俺に、シンシアが尋ねる。


「何とかイメージ通りに出せるようになってきたかな。そろそろ複合属性と進化属性にも挑戦してみようと思う。」


 複合属性と進化属性とは、異なる精霊属性の掛け合わせと、同属性での掛け合わせにより、強力且つ独特な精霊属性に変異させたものだそうだ。

 本来、人は1属性しか適合属性がない。

 それ以外の属性を、生身の状態では扱うことができないのだ。

 それを可能にする者――、人間の領分を超えた超人種を妖魔と呼ぶ。

 妖魔は、本属性の他に副属性を持っており、異なる2属性から複合属性、同属性から進化属性というカテゴリーの術を行使することができるとされているのだ。

 まぁ――、これもすべて、シンシアが教えてくれた内容である。


 中には3属性の適性を有する妖魔も存在するが、4属性の適性は未だかつて存在していない。

 シンシアもそうだが……、自分を除いては、である。


「そういえば、なぜ俺は4属性の精霊術が使えるんだ?この世界では複数属性を扱える者は妖魔の種族になるんじゃなかったのか?」


 ふと、そう疑問に思った。

 その質問に対し、シンシアは言葉を濁しながら回答する。


「それはまだ知らなくてもいいことなのだけれど……、一つ言えることはあなたは妖魔より更に上の存在に分類されるわ。」


 妖魔よりも更に上の存在――。

 いまいちピンッと来るはずもなく、記憶がない以上今は考えていても仕方がない。

 この件に関しては深く考えることを諦め、俺は水と風の精霊術を組み合わせた複合属性の術に挑戦してみることにした。


「水と風の複合属性は凍属性。イメージは氷とか冷気、冷たいものを想像するといいわ。」


 精霊術を使おうとしたのを察知し、シンシアが助言をしてくれる。

 その助言もあり、見事に掌の上で氷の塊を生成することに成功した。


「次は同属性を掛け合わせて……、」


 成功に確かな手応えを感じ、今度は進化属性に挑戦しようとした時であった。


――――ブォブォブォブォブォブォブォブォ――――


 鈍く――、そして低く、まるで重力に音が付いたかと思うほどの重たい音。

 その鈍い音が聞こえたかと思うと、目の前にガラス玉越しの視界――、或いは水面越しのような歪んだ事象が発生する。

 シンシアとの出会いのような、神々しさとは真逆の、禍々しさを覚える程だ。

 その中から――、ふわりとしたエアリーボブショートの銀髪に、何もかもを魅了する、宝石に例えるならルビーのような真紅の瞳、赤いブラウスとフリルを重ねたような黒いスカート姿の少女が現れる。


「偶然も必然も、運命の調べに沿ったものでさえ、私を支配することなどできない。」


 その魅惑の容姿もさることながら、真紅の彼女から奏でられる音の一つ一つもまた艶美であった。


「私の探し物はあなたであっているかしら?アルトM、いえ……、アルテム・ワイズ。」


 その妖艶な声の持ち主は、真紅の視線を俺へと送り、正否を問う。

 しかし、それに回答したのはシンシアであった。


「あなたがなぜそれを知っているのかはわかりませんが、彼は今アルテミスです。やらなくてはいけないことがあるので、残念ながらあなたの相手をしている暇はありません。」


 敵対するかのように、少し威圧的にシンシアは答える。

 珍しく――、といっても過ごした時間はわずかなのだが、彼女から未だかつてない程の緊張感が伝わってきた。

 対照的に、真紅の少女は気にも留めていないかのように、不機嫌な態度も見せずに言葉を紡ぐ。


「そう、アルテミスと言うのね。忙しいみたいだし、早速確かめさせてもらうわ。」


 そう言い切ると、少女は片手に光を収集し始めた。

 その光は、精霊術を行使する際に生じる、精霊の輝きと呼ばれるものである。

 発光する色は、白というより無色に近しい白銀のような光であった。


『ヴァニッシュスピアー』


 少女が発した言葉と同時に、手に集束していた白銀の光が膨張し、そこからガラスのような透明度のある槍が生成され、こっちに向かって撃ち込まれる。


『アイアンウォール』


 瞬時に地の精霊属性を2重に掛け合わせた、進化属性――、鋼属性の精霊術を発動させ、正に鉄壁と呼ぶにふさわしい硬度の壁を生成して、攻撃を凌いだ。


「やはり高度な術が使えるみたいね。でも、それだけじゃないのでしょ?」


 少女はそう言い、今度は連続して次々と白銀の槍を打ち込む。

 俺はそれを鉄壁で受けながら、もう片方の手で青い光を集束させる。


『バーンスプラッシュ』


 少女の前方上空に青色の魔法陣が3つ具現した。

 そして、魔法陣は強く発光し、そこから勢いよく水流が放出される。

 少女はそれを難なく避けるが、俺はその隙を狙っていた。

 後方へと避けた瞬間、少女は足元に緑色の魔法陣を出現させる。


『サイクロン』


 俺の声が響くと同時に、少女の足元から無数の風の刃が渦を巻くように出現し、少女を切り裂かんと襲い掛かる。

 だが――、


『レジストストーム』


 間一髪、自身の周囲に嵐のような豪風を巻き起こし、風の刃がその身に届く前に吹き飛ばしていた。

 危機を脱した――、とは思えないほど余裕の表情で、少女が語り掛けてくる。


「進化属性だけでなく複数属性を扱えるなんて、やはりあなたも妖魔だったのね。」


 俺が地の進化属性、水、風属性の精霊術を行使したことで、少女は楽し気に話していた。

 そして、彼女は両手を前に突き出し赤色の光を集束させる。


「妖魔と一緒にしないでもらえるかしら。彼はその上をいく存在なのだから。」


 またしても、少女の言葉に返答したのは威圧感満載のシンシアであった。

 妖魔より上の存在であることを知らしめる為に、次に行使すべき属性は一つしかない。

 シンシアからの思惑を察し、対峙する少女と同じく両手に赤い光を集束させる。

 そして、二人は息を合わせたかのように――、


『フレイムストライク』

『フレイムストライク』


 同時に、その両手から火炎の連弾を放ち合った。


「まさか4属性すべてを扱えるなんてさすがだわ。やはり私の探しものはあなたで間違いないようね。」

「探しもの……?」


 何らかの確証を得たのだろう、少女は嬉々とした口調で話し終える。

 そして、何の前触れも初動もなく、瞬間的に目の前に少女が現れた。

 何をしたのか、どう移動したのかもわからない。

 その動揺から生まれた隙を――、どこまでも強い意志を灯す真紅の瞳が、見すごような事はあり得なかった。


「――んなっ!」

「――ッ!!」


 一瞬にして顔の距離を詰められ、唇を奪われる。

 俺よりも先に、シンシアが驚きのあまり変な声をあげ、重なり合った唇の所為か、この状況に頭が真っ白になった所為か、暫く俺は声を出せずに停止した。


「何してるのよーーっ!!」


 シンシアの叫び声が空間いっぱいに響き渡り、俺はハッと我に返った――。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

少しずつですが投稿のペースは落ちてくるかと思いますΣ('ω'ノ)ノ

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