エピローグ③ 夜盗と烈風
エピローグ③ 夜盗と烈風
*** ホークアイと魔王 ***
森を抜けた後、シアンを保護するホークアイは小舟で海を渡った。
辿り着いたのは――、妖魔領域最大勢力であり、夜盗と交流のあったグループ、魔王が拠点とする魔王城である。
その最上階の一室で、シアンを抱えたままのホークアイ、魔王の3名と、その後ろに控える2名を加えた6人で、状況の報告と整理が行われていた。
到着してすぐに、ホークアイはリザルの森での出来事――、後に明滅の死闘と語り継がれることとなる、夜盗と烈風の剣抗争の詳細を魔王達に伝える。
シアンを預けて救援に向かいたい気持ちはあったが、フルメンバーで挑んだにもかかわらず壊滅に追い込まれた事を踏まえると、一人戻ったところで何も変わらない。
ここは少しでも情報をと引き換えに、魔王から援軍を引き出さなくてはいけないとホークアイは考えていた。
「彼が苦戦するような相手ともなると、相応の戦力を集めなければなりませんね。」
ステンリーは、ホークアイから聞いた情報を基に分析し、対抗戦力の算出に当たる。
その口ぶりからすると、直ぐに救援を派遣する様ではない。
一刻も早く救援に向かいたいと言う算段で詳細を伝えたつもりだったが、逆に慎重な姿勢を取られてしまった。
しかし、オーヴィと仲の良かったダイスは、ステンリーの慎重な判断を無下にしてすぐさま行動に出る。
「戦力集結を待っていたら助かる者も助からなくなるだろ。俺とフロイヒが先行して救援に向かう。危険なら救護して撤退、いけそうなら足止めくらいはできるだろうから、戦力が整い次第駆けつけてくれ。」
そう言い残し、ダイスは戦力集結を待たず、直属の部下であるフロイヒに出撃を命じると、自身はすぐさま魔王城最上階の窓から飛び立った。
同行を命じられた、銀髪に青い瞳の青年――、フロイヒは無言で一礼をし、ダイスに続いて窓から飛び降りる。
その様子に、唖然とするホークアイを見て、ディーは代替案を唱えた。
「こうなったら先行するダイスを追い、私が数名連れて援護に向かおう。ステンリーはその間に戦力を集めていてくれ。」
「……仕方ありませんね。」
ステンリーは瞬時に思考を巡らせ、ディーの代替案を具体化する。
「では、ディーと1番隊はダイスとフロイヒの援護へ、2番隊から5番隊は出撃の準備、6番隊から10番隊は私と共に待機とします。フェロー、各部隊への伝達は任せますよ。」
「承知しました。」
フロイヒと共に控えていた2人の内のもう一人、銀髪に赤い瞳の青年は、ステンリーからの指示を受けて部屋から出ていった。
それを見送った後、ホークアイは自身のはどうすべきか、ステンリーに尋ねた。
「私は何をすればいいでしょうか?先行部隊の案内、本体の誘導、それともダイスさんを追って救援に――。」
「いや、君はその子の事を頼む。」
ホークアイが言い切る前に、ステンリーから考えてもいなかった役割を告げられる。
「オーヴィから託されたのだろう。その役割は君にしかできない事だ。」
「……わかりました。」
納得がいかない、
しかし、託された事に対して、やり遂げる責務を思えば了承する他はなかった。
「俺は1番隊と合流する。ステンリー、彼に休める部屋を用意した後、後発部隊の調整を任せる。」
ディーはステンリーに指示を出し、先に部屋を退出する。
「それではホークアイ殿、部屋へと案内します。」
こうして、ホークアイとシアンの無事は確保されることとなった――。
*** アブルード ***
オーヴィの最期を確認した後、アブルードはブルーメルよりも更に北へと移動し、北方の山岳地帯に辿り着いていた。
本来、ここは人の踏み入るような場所ではない。
雑多に茂る草木と足元の悪い急な山肌を登った先――、凶暴な魔獣も多く生息するような名も無き未開拓地に、ポツンと佇む平屋――。
そこで待っていたのは、瑠璃色の髪に深碧の瞳の青年――、レイラインと言う者であった。
「どうだった?」
アブルードを見かけるや否や、唐突にレイラインは一言問う。
「アポカリプスの示す通り、オーヴィはレベロの亡霊に討たれたが、レベロの方も討たれた。俺達の依頼主にとっても、想定外だったかもしれない。」
その問いに、アブルードは自身の感想を踏まえて答えた。
「依頼主の想定なんてどうでもいいよ。私は私の計画を進める為に、邪魔になる者を排除したいだけだから。」
アブルードの回答に文句を言いつつ、レイラインはアブルードを呼び寄せる。
手招きされるままに、アブルードはレイラインへと近づいて行った。
「そうそう……、その本に、私の事はまだ何も記されていないのかな?」
またしても唐突に、今度はアポカリプスの内容について質問が来る。
「そうだな……。えーと……、数年後に、王国の崩壊と建国の兆しと記されている。俺達の革命の果てに、それが実現するのだと俺は思っているが、新国については、その国名や新王の名も記されていない。あんたの理想が叶うのかもしれないし、或いは新王はあんたじゃない誰かかもしれない。現状アポカリプスで分かるのはこの範囲位だ。」
アブルードは頁をめくって内容を調べ、自身の見解を含めてレイラインに伝えた。
「君の見解も混ざってるね。どうして君はすぐに自身の見解や思いを混ぜるのかな?私は内容だけが知りたいんだ。」
「性分なんだよ。今更変えられないさ。」
やはり、レイラインは不機嫌そうに指摘する。
それに対して、アブルードは悪びれる素振りもなく返していた。
「変える気がないのと変えられないは違うからね。」
「そう言う所を踏まえて俺なんだ。長い付き合いになるんだし、そろそろ慣れてくれると嬉しいな。」
暫し、そのようなやり取りをしていると、桃色の髪に水色の瞳の少女が一人――、平屋へと入ってくる。
「レイ……、あの女、来てる。中に……、呼ぶ?」
片言の少女が訊ねると、レイラインは頷いて答えた。
「次の依頼みたいだね。カーシャ、彼女を中へ案内しなさい。」
「わかった。」
レイラインから許可をもらい、少女はレイラを中へと案内する。
「次の依頼……、と言うより、ターゲットのリストを持ってきたわ。貴方達の狙う主要人物と被るところもあるだろうから、そのついでに消してくれると助かるのだけれど。」
入出早々、レイラはリストを差し出してそう述べた。
「ディー・シュヴァインとその他魔王幹部……、ヨヅキ・ミヤシロ、ソア・ヴァルキュリス、アイズ・ラクテス。ドルドレイ・ハイデンベルグにワスタリム・リネって、大国の国王と協定国首相だよね?ついでに消せる相手じゃないよ。」
リストを読み上げ、レイラインは首を横に振る。
魔王メンバーですら苦戦することになる上に、人間領域最高戦力を誇るハイデンベルグ王国の国王と、人間領域南部から東部へとまたがる10の領土が協定を結んでできた協定国のトップだ。
2国間の協力体制もある中、既存の戦力でどうにかなる相手ではない。
「だから、ついでにでいいわ。貴方達の目的達成を遂行する中で、たまたま、偶然、気が向いてくらいで消してくれればね。」
そう言って、レイラは持参してきた資金をレイラインに手渡す。
「ベルクス金貨で150枚入っているわ。使い方は貴方達次第よ。」
そう告げて、レイラは平屋から出ていった――。




