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第51話 英雄の資質(前編)

第51話 英雄の資質(前編)


 待ち伏せによる襲撃を受け、レヴィア達一行はギリギリのところまで追い詰められていた。


 中央に放置されたアズンを開放しようと、フレディがロープを切除し始める。

 レヴィア達はアズンとフレディを中心に輪を作り、周囲の警戒に就いた正にその瞬間、一斉に放たれた矢の雨が上空一面を覆い、レヴィア達を襲ったのだった。

 フレディはアズンを庇いながら、降り注ぐ矢の雨に対処し、レヴィア達も自身に向かってくる矢を捌くことに、各々手いっぱいとなる。

 剣やナイフなどの刃物を扱えるホークアイ、カシェ、レヴィア、イグニに対し、レムとシジは弓以外の戦闘手段はない。

 精霊術を行使した矢を放ち降り注ぐ矢に対抗するも、上部からの攻撃に特化した、重たい鉄の矢も混ざっており、容赦なく身体を貫いて行った。


「動ける者は散開!」


 どうにか全員を守れないかと考えているレヴィアに代わり、ホークアイは冷静に決断を下す。

 動けない者は捨て、動ける者だけでも助かる為だった。

 それでも、刃物で対処できないレムとシジを援護しようと、レヴィアは動かない。

 見かねたカシェがレヴィアに体当たりし、そのまま矢の届きにくい茂みへと押し倒すこととなった。


「放せカシェ!レムが……、シジがっ……。助けないと……、むぐっ!」


 押し倒されて尚、暴れ叫び立てるレヴィアの口を、カシェは片手で塞ぐ。


「ったく……。リーダーを助けてもあんたが死んでたんじゃ意味ねぇだろ。」


 カシェはそう呟いて覆いかぶさり、そのまま矢が収まるまで身を潜めた。 


「フレディもういい!俺は置いていけ!!」


 アズンを庇ってその身に矢を受けつつも、フレディは必死に剣を振り少しでも矢を払う。

 その光景に居たたまれず、アズンは自分を見捨てろと叫んでいた。


「うるせぇ……。仲間を守れねぇで、烈風の三剣士が名乗れるかよ。」


 各々ができる限りの事をし尽くし、只々収まるまでの時をやり過ごす。

 そして、ついに矢の雨が収まった。


「あれだけの矢を注いで、まだ生きている奴がいるようだ。」


 矢の草原と化した開けた地に、この惨状を引き起こした張本人、スレイが姿を見せる。

 その傍らにはグレイの姿と、反対側にはシアンを抱きかかえた烈風の剣のメンバーの姿があった。


「このような方法を取らずとも、私に任せて頂けるのでしたら、生き残りなど出さずに全員屠れますが。」


 お粗末な結果に悪態を述べつつ、グレイはアズンとフレディの方へと近づいて行く。


「助っ人風情が、俺のやり方に口出しするな!」


 その態度に、スレイが苛立ちを露わにした。


「オーヴィを捉えたのも、夜盗を壊滅させたのも俺の作戦があったからだ!」


 それは、積もり積もった鬱憤を晴らすかのように、敵味方を差別することなく散布される。


「まぁ……、ここまでといたしますか。」


 そう短く吐いて、グレイはついに本性を現した。


「私はねぇ……、心底妖魔種が嫌いなんですよ。」

「はぁ?何言ってやがっ――。」


 今までの態度と一転したグレイに対し、理解に苦しむスレイ。

 その目の前に、中央へ向かっていた筈のグレイが――、一瞬にして距離を詰め、鋭い眼光を差し向ける。


「そう……、殺してしまいたい程にね。」


 ドスッ!!


「……。」


 生暖かい肉に、何かが突き刺さるような鈍い音と強い衝撃。


「……!?」


 急激に襲う強い痛みと、唐突に過る死への恐怖。


「カハッ――!!」


 喉元まで込み上げて、堪らず吐き出した鮮血により、痛みの次には凍てる様な肌寒さに見舞われた。

 無意識に目に浮かぶ涙は、まだ生きたいと言う、あまりにも単純で人らしい感情の表れだろう。

 その人らしさが、グレイの胸の内にある憎しみに拍車をかけ、怒涛の如く行動として溢れ出していた。


「――ヒィッ!!」


 シアンを抱えていた、間近でその様子を見ていた烈風の剣のメンバーは、その光景に堪えかねてシアンを落としてしまう。


『サンクチュアリ』


 咄嗟にグレイが聖域を展開し、シアンに狙いを定め、地に落ちる寸前で確保する。

 抱きかかえるようにシアンを持ち直し、グレイはその男に語り掛けた。


「大事な人質すら丁重に扱えないようでは、役不足ですね。」


 その眼光は更に鋭さを増し、その光景を見ていた他のメンバーを震え上がらせる程の鋭利さを放つ。

 しかし、その鋭利な視線の先の人物は、すでに頭と体が切断されていた。


「くそっ……、よくも俺達の仲間を!」

「何なんだよ……、敵は夜盗じゃねぇのか?」

「そんなことはもうどうでもいいだろ!仲間を殺した奴を許せるか!」

「そ、そうだな……。流石に全員でかかれば、あの奇妙な技も仕えないだろう。」


 惨劇を目の当たりにし、烈風の剣の排除対象がグレイに向けられる。


「仲間の仇だ!」

「死ね!くそじじぃ!!」


 思い思いの罵詈雑言を吐きながら、烈風の剣のメンバー約20名が一斉にグレイへと襲い掛かった。


『サンクチュアリ』


 しかし、あれだけの人数が同時に仕掛けたにもかかわらず、グレイの精霊術によって標準を定められる。

 それは、標的となった者にとっては、時間の停滞を彷彿させる様な感覚――。

 ゆっくりと時が流れるような感覚の中、グレイの動きだけが鮮明に見え、その拳から放たれる衝撃波が、自身の体を貫いていく。


裂連衝れつれんしょう


 吹きあがる血飛沫と共に、グレイへと襲い掛かっていた烈風の剣のメンバー達は、一瞬にして木の葉の如く吹き飛んだ。

 腹部を貫通された者――、手足が千切れ飛んだ者――、首を失った者や、胴体が真っ二つとなった者など様々に、グレイは分け隔てのない死を与える。

 その光景を見守るしかなかった、夜盗の生き残り達――。

 倒すべき老人の手には救出対象のシアン抱きかかえられており、半ば絶望に近いこの状況下において、飛び出していく勇気は持てなくなっていった。


「やれやれ……。圧倒的な数の優位もなくなり、これで1対6ですね。」


 その優位性を自らの手で屠った、当の本人がそれを言う。

 つまり、臆病でなければ向かって来いと言う、分かりやすい挑発だった。


「否……、既に1対5のようですね。」


 グレイは目前の二人を見て、先程の言葉を訂正する。

 老人の目に映るのは、フレディをそっと地に寝かせ、怒りの矛先を一点に定めた男の姿だった――。

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