第50話 深層の中の闇
第50話 深層の中の闇
突如――、レヴィア達が集結していたオリスに、必死の形相で息を切らせたフレディが現れた。
オーヴィとその子供が捕まった事、自分とアズンが秘密裏に動いて子供を保護した事を彼はレヴィアに告げる。
それを聞き、レヴィアはオーヴィとシアンの救出を提案。
集結していたホークアイ、イグニ、レム、シジ、カシェの五人も同意し、一行は即座に行動を開始する。
「リーダーの機転で、子供はアズンが保護している。先ずはアズンと合流して、子供を引き取ってくれ。」
オリスからUの字を描くように、襲撃のあったバラック、ダイノス平原を通り、リザルの森へと入った。
その道中、フレディは少しずつ詳しい状況を説明していく。
「引き渡しが完了したら、子供を保護するやつはこの道を引き返せ。この道は俺とアズンだけが知っている獣道だ。そう簡単に見つからないだろう。」
人が通れる道から逸れ、フレディを先頭にレヴィア達は森の獣道へとはいった。
「保護役が去ったら、俺とアズンは周囲の奴らに敵襲を告げる。来た道と反対の方角へ引き連れていくから、その混乱している間にオーヴィの所まで行ってくれ。」
獣道の視界は狭く、足元もあまり見えない。
そんな草木の生い茂る道のを、少しでも通りやすいようにと掻き分けて進んでいく。
「そこまでして、貴方自身は大丈夫なの?」
目的の場所まで夜盗を案内することで、烈風の剣にとっては不利な状況となることは明白だ。
その救出作戦に加担――、と言うよりは、先導していると判断されるであろうフレディの行為が露見すれば、彼もまた排除される対象となる。
恩を返すにしても、あまりにリスクが大きいと、レヴィアは彼の身を案じていた。
「そこはリーダーが上手くやってくれるはずさ。まぁ最悪の場合は、俺も一緒に逃げることになるけどな。」
何も心配することは無いかのように、フレディの返答は明るい。
それだけリーダーであるアブルードの事を信頼しているのだろう。
そんな自信に満ちた彼の背を追って、気持ちの面で足取りの軽さを感じたレヴィア達。
彼女達の進む速度は、先ほどよりも一段と上がっていた。
「ここを抜けた所でアズンが待っているはずだ。」
フレディの声で一行は揃って前方を確認する。
草木が雑多な獣道の先は、少し開けた場所に繋がっているようだった。
「全員、警戒を怠るな。」
レヴィアの注意に一同が頷き、一行はその開けた場所へと出る。
しかし、そこで一行が目にしたのは――、ロープで身体を縛られ、開けた空間の中央に放置されたアズンの姿だけであった――。
一方その頃――。
拘束されたままのオーヴィは、周囲の物音の減少から人の気配が薄れたことに気付く。
他愛のない会話をしていた見張り達の声も、虫の音すらも聞こえなくなっていた。
一人取り残され、脱出には打って付けの好条件だが、何の前触れもなくこうなった事への違和感もぬぐえない。
そう考えていた所に、またしてもアブルードが姿を見せた。
彼の表情からは、今の状況を伺うことはできない。
だが、前回と違う所は、彼の手には二本の剣――、オーヴィが捕らえられた際に剥奪されていた自分の武器が握られている事だろう。
開放されるか――、或いは、状況が変わってしまい、自身の剣によって命を絶たれるか、思いつくのはそれくらいだった。
「悪い知らせだ……。」
開口早々の一言で、凶報であると判明する。
「アズンがスレイの部隊に捕らえられた。このままだと、お前の子供も救出に来てる仲間も、スレイの手に落ちてしまう。」
予想と違って、身内に危機が迫る内容にオーヴィの焦りが高まった。
「くそっ!!こんなところで待ってる訳にはいかねぇ。この縄を解いてくれ!」
助かるかもしれないと思っていた矢先の凶報に、冷静さを欠いて取り乱す。
そんな彼に対して、アブルードは彼の肩をトントンと片手で叩き、彼を縛る縄にナイフを当てた。
「ああ、そのために俺は来たんだ。」
耳元でそう告げると、アブルードは躊躇いなく縄を断ち切る。
「この状況を覆せるのはお前だけだ。見せてくれ、夜盗オーヴィの力を!」
「アブルード……。」
激励するように、アブルードは言い放った。
危機迫る中での後押しを受け、オーヴィの闘士は最高潮に昂る。
「天幕を出て右の方角がオリス方面だ。その途中に、アズンとお前の子供が捕えられている。」
更に、アブルードは進むべき道を示すと、彼の双剣を投げ渡した。
「時間に猶予はない。俺がしてやれるのはここまでだ。」
アブルードから受け取り、手早く装備する。
これで、全ての準備が整った。
「恩に着る!」
オーヴィは深く頭を下げて謝辞を述べ、すぐに天幕から退出する。
そのまま一切の躊躇なく、知らされた方角に向かって強く地を蹴りだし、瞬く間に走り去って行った。
そして、アブルードだけがその場に残される。
「……。」
ゆっくりと後を追うように、静かに天幕を出たアブルードは、彼が走り去った方角を見つめていた。
期待の眼差しと、役割を全うした安堵。
そして、計画通りとばかりに、口元にはニヤリとした笑みを浮かべる。
「さぁ、見せてくれ……。奴らの野望を覆す姿を……。そして、俺の望む結末を……。」
善意と悪意――。
期待と野望――。
それら全てを孕んだ、アブルードの描くシナリオが、一つのクライマックスへと動き出していた――。




