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第49話 オーヴィとアブルード

第49話 オーヴィとアブルード


 朧げに見えてくる視界――。

 そこはテントのような空間で、体に巻き付いた縄のような物の所為で身動きが取れない。

 全身の拘束感と、左肩に走る痛みを感じながら、オーヴィは意識を取り戻した。


「――――それで、結局の所、これはあんたが一人でやったんだな。」


 朦朧とする意識の中、聞こえてくる会話と視認できる範囲で、自身の状況をオーヴィは確認する。

 体に巻かれた縄の所為で身動きは取れない。

 微かに聞こえてくる声は、烈風の剣達のものに間違いはないはずだ。

 その中でも先程の声の主は、アブルードのものだろうと直ぐにわかる。

 長年対立し、幾度か剣を交えたこともあった為、おおよそ間違いはない。


「ちがうぜリーダー、俺の作戦が上手くいったからだ。」


 オーヴィを捕えたことで得意げになっているこの声の主は、恐らくスレイのものだろうと判断できた。


「俺はバーテンのジジイに聞いてるんだ。お前は黙ってろ。」


 どうやらスレイの報告に、アブルードは納得がいっていないようである。

 その為、あの奇妙な術を使う老人――、グレイ本人から話を聞こうとしているみたいだった。


「たしか、グレイ……、と言うそうだな。あんたがオーヴィを倒したのか?」

「いえいえ、私はただ彼の作戦に助力したにすぎません。彼の作戦が上手くいったのでしょう。」


 あくまでも、グレイは作戦による功績だと告げる。


「ほらな。俺が今回頑張ったから、報酬の取り分は少し多くても文句ないよな?」


 グレイの報告に納得がいかないアブルード。

 そこに、スレイの空気を読まない発言が加わって、心底不愉快そうであった。


「報酬は全部お前が受け取ればいい。俺は捕らえたオーヴィの様子を見てくる。」


 そう言って、アブルードはスレイたちの元を去り、オーヴィが捕らえられているテントへと向かう。

 こちらへ来ると分かり、オーヴィーは、せめて体を起こそうと試みが、上手く力が入らない。

 無駄に足掻くのを止め、オーヴィは覚悟を決めて終わりを待つこととした。


「意識は……、戻ってるようだな。」


 入ってきたアブルードに視認され、声を掛けられる。


「先に言っておくが、お前の娘は無事だ。スレイから取り上げておいたから安心しろ。」


 シアンの無事を告げつつ、アブルードはオーヴィの体を起こして木箱にもたれかけさせた。


「シアンが無事ならそれでいい。覚悟はできてる……。」


 オーヴィの一声に覇気がない。

 アブルードにとって、幾度も剣を交えた好敵手であり、目標に据える程の存在だった男である。

 そんな男から発せられた覇気のない声に、本当に覚悟を決めたのだと理解した。


「いや、最期を告げに来たんじゃないんだが……。」


 アブルードは苦笑する。

 恐らく、彼にとっては目標としていた人物であり、その武勇に憧れをも抱いていた英雄だ。

 そんな英雄が、敗北を喫して地に伏している姿に、彼も人に過ぎないのだという親近感を覚えたからだろう。

 そんなアブルードの様子に、オーヴィにも戸惑いが生まれていた。


「殺しに来たんじゃねぇなら、何しにきやがった。」


 アブルードの意図が全く読めない。

 長年の対立で恨みを買っている筈が、敵の娘を保護し、恨みの対象である自分に対し、慈悲をかける事が不思議に思えたからだ。

 そう思って、オーヴィは直接彼に答えを求める。

 すると、意外な答えが返ってきた。


「そうだな……。世間話しっていう仲でも無いが……、まぁ少し付き合え。」


 そう言って、アブルードは話し出す。


「アズンとフレディの件には感謝している。俺達と夜盗には確執があるからな。こんな時でもない限り素直に伝える事はできないだろう。」


 話の滑り出しに、感謝の言葉を受け取った。

 それはつまり、伝えられるうちに伝えておこうと言う事だろう。


「やっぱり、これで最期になるから伝えて置こうっていう話じゃねぇか!」


 殺しに来たのではないにしろ、対立していた相手からの別れの言葉なんていらない。

 そんな思いでオーヴィは抗議する。


「だから違うって!まぁ最後まで聞け!」


 声が外に漏れ無い程度のギリギリの声量で、彼の抗議を制してアブルードは続けた。


「今回の件に俺やアズン、フレディーは絡んでない。グループごとの確執がある以上、リーダーである俺は協力できないが、あいつらなら、お前の救出を企てるだろう。」


 救出という言葉を受け、オーヴィの中で希望と思考の火が点る。

 シアンを人質に取られている以上、夜盗だけでの反撃は不可能だった。

 しかし、烈風の剣内部からの離反や援助があるならば、打開できる可能性があるかもしれない。


「お前の娘はアズンに見張らせているし、お前の仲間が駆けつければ、そのどさくさに紛れて逃げることもできるはずだ。」


 できる限りの細工は施したと話すアブルードに、オーヴィの思考は加速していく。

 救出までの工程と、逃げ切る為の作戦。

 混乱に乗じて逃げるのであれば、その混乱を引き起こす夜盗の仲間と、烈風の剣のメンバーの抗争は熾烈なものになるはずだ。

 当然犠牲は生まれる。

 それは、味方にも――、相手にもだ。


「それだと、俺を逃がす為にお互いに多くの犠牲が出ることになるじゃねぇか。無駄に争わず抜け出すことはできねぇのかよ?」


 自分と娘の為に、多くの命が犠牲になる。

 父として娘を助けたい気持ちと、リーダーとして仲間を守りたい気持ち。

 その両方を叶える事は出来ないものかと、何度も――、何度も――、より良い結果にたどり着くまで構想を練り返す。


「恐らくそれは不可能だろう。」


 そこに、はっきりとした言葉で、不可能が突き付けられた。


「今回の件で、生きて捕獲されたのはお前とお前の娘だけだ。他の者達は全員殺したとスレイが言ってたからな。あいつとグレイはお前を囮に誘き寄せ、全員殺すつもりだ。そう簡単にここの警備を緩めるはずがない。つまり、事を起こさないと逃げる隙は作れないってことだ。」


 アブルードの言う通り、全て思い通りに運ぶことは無いだろう。

 そもそもこの状況をもたらしてしまった責任は、リーダーの自分にあるのだ。

 オーヴィは改めてその事を胸に刻む。


「過去のいざこざや、数年前のバラックでの抗争。今更足並みを揃えるのは無理だ。対峙すれば、積年の恨みからくる殺意は止められない。それに、うち等がスルーニっていう依頼主から勇者暗殺の仕事を受けなければ、ここまでの事にはなっていなかっただろう。こっちの事は気にせず、娘と一緒に助かる事だけを考えくれ。」


 それを聞いて、オーヴィに迷いが生じだ。

 助けに来る仲間達を指揮するのは、レヴィアを置いて他ならない。

 つまり、娘の次に守りたい彼女を最前線立たせることになるからだ。

 そんな、積もり積もった殺意の中に、彼女を置いて自分が逃げることなどできない。


「それなら、シアンはレヴィアに預けるよう、アズンに頼めねぇだろうか?話しを聞いてる俺なら手加減できるし、戦闘を切り上げさせることもできるはずだ。それなら無駄に犠牲を増やすこともねぇだろう。」


 せめて、レヴィアとシアンの二人は守りたいと言う、リーダーとしては失格に値するだろう自身の願望。

 昔に比べて、大切なものが増え過ぎてしまった結果でもある。

 しかし、リーダーである前にシアンの父親であり、レヴィアのパートナーとして、そこを譲ることはできなかった。

 所詮、並外れた力を持ってしても――、妖魔種の中で指折りの強さをもってしても、人として当たり前にある感情には逆らえない。

 大切を守りたいと言う気持ちに、種族や地位、力を有しているかどうかは関係ないのだ。


「まぁ、それが賢明だろうな。お前が仲間を引かせたら、俺も追わないよう指示を出すくらいはできるはずだ。スレイを止められるかは分からないが……。」


 対照的に、グループのリーダーで有ろうとするアブルードも、その事には理解を示してくれる。

 周りの環境が違えば、同じ立場でも状況は変わってくるのだと、その事を知っているようであった。


「アブルード、この恩はいつか必ず返す。」


 拘束された状態で、オーヴィはできる限り深く頭を下げる。


「そう言うのは、成功した後に取っておくべきだぜ。まぁ、生きていたらまた話しでもしよう。お互い似たような境遇からスタートしているんだしな。」


 そう言葉を残し、アブルードはテントから出ていった――。

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