第48話 サンクチュアリ
第48話 サンクチュアリ
元いた茂みへと突き返されたホロ――。
その光景を目の当たりにし、オーヴィ達に動揺が生まれていた。
「あの状態から回り込み、ホロの奇襲に対応できる能力……。」
そんな中、シジは可能な限りで分析する。
「あるいは時間属性……、いや、空間属性でも可能か……。」
身体能力だけではカバーできない動きに、何かしらの精霊術が絡んでいると考えるに至った。
「た、たすかったぜ……。さすが助っ人といった所か……。」
安堵の言葉を漏らすスレイ。
助けられた本人も目で追えておらず、彼が助っ人と呼んだその老人の能力を理解していないようだった。
更に、以前アズンとフレディが仄めかしていた、アブルード達に依頼をした人物――。
その、黒幕ともいえる人物に、この老人が関わっているのであろうとオーヴィは推測する。
「なるほどな……、アブルードが姿を見せないのが不思議だが、以前の襲撃にもてめぇが絡んでるってことか。」
オーヴィは黒幕とつながりがあるであろう老人、グレイに睨みを利かせた。
「なら、そのツケはここで払ってもらおうじゃねぇか。」
そして、威勢よく言い放ち、双剣を抜いて構える。
「以前であれば、主を守るのが私の本分なのですが……、まぁいいでしょう。悪役に徹すると言うのも、悪くはない。」
対照的に、落ち着いた様子で語り、グレイは拳を握りしめて顔の前に構えた。
「オーヴィさん相手に素手とは……。この老人、注意して臨んだ方がいいですよ。」
グレイの構えを見て、シジはオーヴィに助言をするとすぐに後方へと下がる。
その指シジと入れ替わる様に、オーヴィの隣にはダイトとギークが並んだ。
「リーダーが戦っているうちに、私とダイトでシアンを助けます。」
「悪いなギーク、そっちは頼んだぜ。」
ギークはヒソヒソと周りに聞こえないように告げ、オーヴィの了解を得る。
「俺が囮にならない作戦なんて、今回だけだぜ、ボス。」
「二度とこんな失態は犯さねぇ。ダイト、老人以外の奴は任せたぞ。」
ダイトとも言葉を交わし、いよいよ準備が整った。
『サンダーコート』
オーヴィの双剣に雷が纏う。
『ホーリーシールド』
ダイトは光属性精霊術で、自身を含めた三人に光のシールドを付与した。
「準備は整ったようですね。では参りましょう。」
そう言って、グレイは行動を開始する。
『縮地』
体の重心を倒し、その勢いのままオーヴィに向かって距離を詰めにかかった。
相手の手の内が分からない以上、いきなり距離を詰めるのは得策ではない。
或いは、お互いにとってリスクのある状況下で、自信のある一撃を差し向けてくるのだろうか。
様々な可能性が過る中、オーヴィは本能的に後方へと下がる選択をした。
『縮地』
さらに下がったのを確認して、グレイは更にスピードを上げて迫る。
何としても間合いに入るつもりの様だ。
『蛇進』
それならばと、オーヴィは牽制を兼ねて地を這う斬撃を放つ。
しかし、グレイは容易くそれを避けると、躊躇わずまた迫って行った。
反撃を恐れたり、警戒しているようには見えない。
そして、完全に剣の間合いへと踏みいった。
『雷双鎌鼬』
振られた双剣の軌道が四つに見える程の早業で、斬撃がグレイに向けられる。
この距離なら、左右は勿論、後方に下がったとしても斬撃全てを避け切るのは不可能だ。
しかも雷を纏った斬撃だけあり、触れるだけでも致命傷は免れない。
完全に捉えた――、筈だった――。
『サンクチュアリ』
グレイの発声と同時に、オーヴィは身動きが封じられる。
封じられると言うよりは、時間の流れが遅くなるような――、時が止まったような感覚だった。
そのスローモーションからほぼ停止に近い空間の中――、同じように止まったも同然となった斬撃を、グレイは容易に掻い潜り、オーヴィの前に到着する。
『天波』
そして、勢いよくオーヴィの左肩に手刀が振り下ろされ、オーヴィの体は地に叩きつけられた。
「かはっ!!」
周囲の者達からすれば一瞬の内に起きた出来事である。
一瞬にして崩れ落ちたオーヴィの姿を見て、ダイトやギーク、後方から回り込もうとしていたホロも衝撃を隠せない。
「なっ……、リーダーがあっさりと……。」
衝撃的な光景に思考が止まったギーク。
今度はその彼に、グレイの照準が移る。
『衝波』
「ぐふっ!!」
無防備なその腹に、躊躇なく渾身の一撃が見舞われ、ギークは遥か後方へと吹き飛んだ。
『シールドバッシュ』
ギークまでもがやられたことで、ダイトはグレイへと標準を切り替える。
大盾を構えたまま大地を強く蹴り出し、勢いをつけてグレイの背に迫った。
だが、そのわずかな空気の流れというのか、背後から迫る圧のようなものをグレイは見逃さない。
迫る気配を察知すると、グレイは即座に行動を起こした。
『サンクチュアリ』
ホロ、オーヴィと続いて、ダイトも時間停止のような感覚を体感する。
『衝波』
そのまま後方に回り込まれると、ダイトは成す術無く、地へと崩れ去ったのだった――。




