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エピローグ② 二人の旅と黒幕達の計画

エピローグ② 二人の旅と黒幕達の計画


 ドランクの協力を得たアルテミス達は、遊戯邸でしばらく滞在した後、人間領域である西の大陸へと渡った。

 そして、ドランクの紹介により、西大陸南東に位置する三大国家の一つ、リネ協定国に滞在することとなる。

 その、リネ協定国の代表を務める男、アスタリオ・リネ。

 彼の曽祖父であるアグリオは、ドランクにとって恩人に当たる人物である。

 そのアグリオの代から、その息子に当たるアルバート、その子アルタイト、そして、現代表のアスタリオに至る80年間、リネ協定国を導いてきた一族だ。

 ちなみに、ドランクの妻となったエイリスはアグリオの娘であり、二代目代表を務めたアルバートの妹にあたる。

 そう言う血縁関係もあり、冷え切った両種族関係の隙間を掻い潜って、密かな友好関係を築いてきたのだった。


 こうして、アルテミス達は現代の人間領域の知識を得るため、約5年程の間、情報収集を目的として滞在する事となる。

 そして――、その期間は黒幕達にとっても、暗躍する為の有益な期間となったのだ――。






*** ??? ***


 ブルーメルの酒場を、遥か下方に見下ろす雲の上に、男女4つの影が今後の方針を話していた。


「これから私達は自分の世界へ帰ります。後の事は二人にお任せするので、頑張ってくださいね。」


 左手に禍々しい書物を抱えた、白髪に赤い瞳の男が、従者なのだろう二人に向かって、別れの挨拶を済ませる。


「任された演目、必ず演じ切って見せます。」


 その挨拶に対し、ウエイトレスの衣装を纏った、ブロンドの長髪に茶色の瞳を持つ女性が返答した。


「期待していますよ、レイラ。見事レイラを演じきったその日には、貴方の願う魔王討伐も果たせていることでしょう。」


 男は確信したように語り、レイラと呼ばれた女性は一礼をして、一歩後ろへと下がる。


「私めも、微力ながらサポートいたします。」


 バーテンダーのような服装を纏う、白髪に白い髭を蓄えた深緑の瞳の老人も、レイラ同様に一礼をして控えた。


「グレイ。貴方の真の望みは叶わないかもしれませんが、事件の真相が明るみになる事を私も願っています。」


 男は、グレイと呼んだ老人にも言葉を掛ける。


「真相究明の機会を与えて頂いた恩に報いるため、グレイのお役目、老いぼれながらしっかりと演じ切って見せましょう。」


 レイラに続き、グレイもまた、グレイとしての役目を演じると男に伝えた。


「リスタルテ、行きますよ。」


 4つの影の最後の一人、白髪赤眼の男をリスタルテと呼んだ、ブロンドの髪に青い瞳の女性が出発の時を告げる。


「時間のようですね。それではエヴァ、ゲートをお願いします。」


 出発を告げた女性をエヴァと呼び、リスタルテは禍々しい書物の頁を開いた。


「目的地は第5世界。場所は……、アメスト国でいいでしょう。」

「でしたら、ジューダ領に美味しいレストランがオープンしたみたいですので、そこに行ってもよろしいですか?」


 リスタルテが場所を決めると、エヴァはどうせなら美味しいお店に行きたいと、詳細な場所を提案する。


「ヒルセン領の方に行く予定でしたが、隣の領地ですので問題ないでしょう。」


 提案が承認され、エヴァの表情は更に明るんだ。


「それは好都合ですわ。ヒルセン領にもおいしいパンのお店があると聞いたことがありますの。とても楽しみですわ。」


 食べ物の話に浮かれつつも、エヴァは手際よく空間属性の精霊術を行使する。

 すると、僅か数秒足らずで、白銀の光で構成された門、ゲートが生成された。


「全く……、本当に貴方は食べる事となるとテンションが変わりますね。」


 呆れた口調で話しながら、リスタルテは展開されたゲートに入っていく。


「美味しさは芸術ですわ。それを食さないなんて、勿体無いじゃありませんか。」


 リスタルテに続き、ハイテンションとなったエヴァもゲートへと消えて行った。

 そして、雲を足場のようにした空の中に、レイラとグレイの二人だけが残される形となる。


「お二人とも、元の世界へと戻られましたね。」


 徐々に小さくなっていくゲートを見つめ、レイラはそう呟いた。


「本当に、私共に全てをお任せになるおつもりなのでしょうな。」


 その呟きに笑みを零しつつ、グレイは返答する。

 その細やかな笑みは何処か哀し気で、レイラには不可解であった。


「期待には応えねばなりません。ですが、本当によろしいのですか?」


 大規模な計画の前に、ターゲットの協力者に成りえる戦力を消しておく。

 この前哨戦ともいえる戦いに、危険を承知で買って出たのはグレイだった。


「若者に託して礎となるは、年長者にとって誉れ高き事です。」


 彼は、この戦いで刺し違えてでも相手の戦力を削ぐと決意している。

 それが年長者としての名誉だと言い、死地に赴くつもりなのだ。


「そうですか。」


 固い決意を前に、レイラは同意を述べることしかできない。


「それに、リスタルテ様も仰っておられましたが、私の望みは叶う事は無いでしょう。あの事件でお嬢様がお亡くなりになり、私の望みはそこで潰えているのです。」


 彼の言うあの事件。

 それは、人間種と妖魔種の戦争の引き金となった、ウォルタースの悲劇の事だ。

 妖魔化した男が暴走し、グレイが仕えていたお嬢様と、グレイを演じる前の彼が殺された事件である。

 ちなみに、ウォルタースとは、お嬢様が婚約する予定だった、アイド・ウォルタースと言う人物が、その悲劇と自らの境遇を嘆いたことにより名付けられた。


『ローグラヴィティ』


 ゲートが完全に消失したことで、エヴァの空間属性精霊術の効果が消える。

 それに伴い、二人は急速に地面へと引き寄せられるように落下を始めたため、レイラが神域属性とは異なる、隠された四属性の一つ、重力属性の精霊術を行使し、その落下を緩やかにしたのだ。


「願わくば、事件の真相をと思っていましたが、リスタルテ様の計画を妨げる駒は減らさなくてはなりませぬ。」


 彼が求める事件の真相。

 一般的には、妖魔化した男が捕まり処刑されたことで事件は収拾したとされている。

 しかし、再び生を受けた彼は、事件には腑に落ちない点が幾つもあるとし、真相を確かめたいと願ったのだ。


「でしたら、私が一人と刺し違え、貴方がこの後の計画を引き継いでもいいのですよ?」


 その願いを叶えるのなら、この前哨戦で死ぬわけにはいかない。

 それは、別の目的を有するレイラにとっても同様。

 しかし、自分だけが願いを叶えることに、彼女は納得できないでいたのだ。


「それでは貴方の望みも叶わなくなってしまう。それに、お嬢様と同じ年頃の貴方を、目の前で失う事方がこの老体には応えます故、先鋒は私めにお任せください。」


 レイラの提案を、グレイは諭す様に断る。

 そう言われてしまっては、これ以上レイラに口を挟む余地は無い。


「わかりました。貴方の求める真相は私が必ず突き止めますので、心置きなく計画を全うして来てください。」


 それならば、生き残った自分が彼の望みを叶えようと、レイラは渋りながら新たな提案を口にした。


「それはそれは、感謝致します。」


 レイラの提案を、今度は満面の笑みで受け入れる。


「どうか、ご武運を……。」


 そんな彼に対し、レイラは一言武運を願うと、それ以上は何も言えなかった――。

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