第2話 呼び声
第2話 呼び声
階段を上がった先は、下の階と全く同じ石造りの空間となっていた。
違うところは通路のように長細く伸びているくらいで、壁の微弱な発光具合からもあまり遠くは見えない。
それでもなんとか、奥に階段があるのは伺える。
とりあえず、他に道はないようなのでそのまま進むことにした。
しばらく進み、階段を上がる。
そして再び同じような部屋に出くわし、また階段に向かって進む――。
階段を上がる――。
同じ景色、同じような空間。
幾度なく階段を上っては進みを繰り返した。
〝――いったいどこまで行けば違う景色が見えてくるんだ。″
そう心で呟きながらも、止まっても意味はないことはわかりきっているため、ただひたすらに進み続ける。
そして、そろそろ30階層くらいは上っただろうかと、思った矢先のことであった。
『……のまま、……んで。』
微かにだが、人の声が聞こえたように――、否、聞こえたのではなく、直接脳に響くような感覚であった。
〝――幻聴、――ではなさそうかな?″
疑いながらも、聞こえたことは認めるしかない。
自分の声色とは違って聞こえていたし、何より今の境遇が普通ではない――ように思える。
つまり、何が起きても不思議ではないと考えたからだ。
『そのまま、すすんで……。』
今度ははっきりと聞こえた。
否、やはり響いたと言う方が正しいのかもしれない。
足音とはまた別に、頭に直接伝わっているからだ。
『そのまま、すすんで』と言っている声は、一つ階段を上がるごとに――、奥へと通路を進むごとに――、声の元へと確実に近づいてるかのように大きくなる。
そして、今までとは違う――、同じ石造りの空間の中に、大きな扉が一つ道を塞いでいる場所に到達した。
〝この奥に何かあるみたいだ。″
そう直感を信じ、扉に手をかける。
扉は意外と軽く、簡単に押し開けられそうだった。
そのまま押す力を加え、少しずつ扉を開いていく。
どうやら、扉の向こうは同じ石造りの空間ではあるものの、こちら側より大分明るいようだ。
僅かに隙間からこぼれ出る光が、視界を白く染め上げるほど眩しく思える。
その明るさにも慣れ、完全に開かれた扉の向こうに、サイコロのような正六面体の物体が伺えた。
『やっと、会えたね』
中央に浮かぶ正六面体へと歩み寄る。
『アルト……いえ、今はアルテミスと呼んだほうがいいかしら?』
歩み寄る自分に、正六面体が語り掛ける。
どういう原理で浮いているのか――、どうやって語り掛けているのか――不思議で仕方ない。
その為、語り掛けてくる声に返答することを忘れ、ひたすらそれを目指して歩みを進める。
そして、正六面体の目の前にたどり着き、その中を覗き込んだ。
〝女の子!?″
光で中が見え辛くなってはいるものの、自分の眼にははっきりと女の子の姿が見えた。
金の長い髪に、目は閉じているので瞳の色はわからないが、整った容姿と華奢な身体。
美少女と言っても過言ではない。
そんな裸体の少女が膝を抱えた形で、正六面体の中に収まっている。
それは、神々しく非現実的で、幻想的にも神秘的にも見えた。
ただ、記憶の無い自分に、現実感というものがあるのかどうかは不明である。
「とりあえず開けたほうがいいかな?」
会話が成立するのかも怪しいが、不意に声をかけてしまった。
『大丈夫よ。すぐにキューブを解放するから』
どうやらこの状態でも会話ができるようだ。
そう声が頭に響いた次の瞬間には、キューブと呼ばれた正六面体から今まで以上の光が放出される。
あまりの眩しさに腕で視界を覆い顔を逸らすが、それも束の間だった。
一瞬にして発光は収束し、元の薄暗さに包まれる。
光が収まったのを感じて目を見開くと、そこには澄んだ蒼い瞳がこちらを見つめ返していた――。
この物語と、それを統べる大きな物語の中で、カギとなる少女との出会いです。
ようやく主人公の名前が判明。
ある程度役者が出そろったところでキャラクター紹介を入れていきたいと思います(^^)/←気が早い