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第40話 議決

第40話 議決


 「私が開示した資料を読み、各々に熟考を重ねて頂き、このような議会が開催されるに至りましたこと、とても喜ばしく思います。この場をお借りして、改めて感謝を申し上げます。ありがとうございます。」


 資料の解説と質疑の場とは違い、この場はあくまでも領主としての立ち振る舞いを行う。

 そのつもりで話を進める予定であった。


「見解陳述、意見弁論では様々な提案がなされ、残すは賢者様方々の見解のみとなりました。ですが、今一度資料の内容をご確認し、再度考えを巡らせる必要があると思いますので、領主としての立場だけでなく、個人の意見として発言させて頂くことをご容赦願います。」


 この一声で、会場が少しざわめく。

 しかし、あまりにも回避論という無駄が横行し過ぎたため、強引であっても統合後を考えた最善策を話し合う場に変えなくてはいけない。

 自身が掴み取りたい結果の優先ではなく、起こり得る事への対策を議論する場に戻す必要があるからだ。


「まず初めに、回避は不可能であることを申し上げます。回避が可能であれば、資料にも回避を議論すると明記します。ですが、資料には統合への対策を議論すると明記しました。なので、統合は成されます。それを踏まえた上でお考え頂きたく思います。」


 会場のざわめきがピークに達し、すぐさまグリムの制止が響く。

 それでも尚、完全に静まり返る事はなく、私は気にせず続きを話し始める。


「どういう風に統合されるのか、それに関して解明することは重要であると私も思います。それが分かれば、統合後への対策も明確になるからです。回避の模索ではなく、統合という現象の解明に、優秀な人員を充てるのはいいことだと思います。」


 グリムや銀冠玉が見解を示したように、統合に関しての現象解明は重要だ。

 その部分を評価しつつ、私は更に踏み込んでいく。


「各領主の皆様の意見も重々分かります。統合を回避することは、不変と言う事において領民にとっても安堵と言えるでしょう。しかし、何度も申し上げますが統合は成されます。統合を一切受け入れない政策は、統合後の甚大な被害拡大につながります。それを踏まえた上で、再度領民の事を考えた意見をお考え下さい。」


 自己の見解を疑わないジャベロンや、オブレイオン家の繁栄がその領土の繁栄になると豪語しているレイナードには面白くない内容に違いない。

 しかし、彼らの政治によって被害を被るのはその領内に住む領民達だ。

 統合後の弊害を回避する上で、領主の打ち出す政策は重要な事になる。


「さて、領主の一人としての意見と致しましては、デュナミス氏の言われるように、各領との連携はとても重要だと思います。私が見てきた異世界でも、この世界と変わりない領土の中で多くの国が存在し、各々に繁栄を遂げています。人間種の領土は見ていませんが、歴史書に記されていた文明が更なる発展を遂げていると考えられます。つまり、その国々の王都や主要地域では、我々の世界同様に多くの命が存在しているのです。」


 政策を考える上で、領民の事は勿論だけれど、統合先の世界の事も視野に入れなくてはいけない。

 異世界にも文明は存在し、そこで生活している人々がいるからだ。

 それを考慮せず、自世界の領民だけを優遇するような体制を築いてしまえば、その事が発端となり争いが起きることもある。

 そうなったときの防衛策として各領との連携が重要になるのだ。


「他世界の者達との交流、或いは争いが起きた時に連携は非常に重要です。ですが、起こさない努力も必要となるでしょう。その為、私達にできることの一つとして、主要生活圏の移設を考えています。」


 元々議論したかった統合後の対策。

 そこで提案したかった内容にようやくたどり着いた。


「移設に関してはまだまだ情報不足な為、具体的な場所は差し控えますが、是非ご検討願います。」


 持ち時間いっぱい。

 まだまだ話したりない所だけれど、この後の賢者の陳述、その後の決議の結果次第で再び議論できる機会があるだろう。

 当初の予定とはかなり変わってしまったけれど、回避案への流れは止める事が出来たと思いたい。


「それでは最後に、四賢者の方々の見解陳述を行います。」


 グリムの進行で、いよいよ賢者による見解陳述へと移行する。

 初めに陳述席に立ったのは、アネモネの父に当たるロキウス・リスルだ。


「先程ヴァルキュリス氏が述べたように、この議会では統合後の対策が話し合われるものと我々賢者は考えていたのですが、回避と言う言葉が出てきたことに、非常に興味深く感じております。」


 出だしでそう述べたことにより、私への反論が飛び交っていた会場は、先程とは違って異様な雰囲気に包まれる。

 非常識だと思っていたことが常識だと決定付けられたような、そんな衝撃を受けた者達による居た堪れない思いが充満していた。


「回避が不可能であると決定付けることに変わりは無いのですが、多くの者が回避を望むのも民意として、領主の皆様には受け止めて頂かなくてはならないようです。」


 そんな空気を気にも留めず――、と言うより、文字通り空気のようにあしらい、ロキウスは話を続ける。


「さて、議題に対しての議論が、これ程までズレてしまったままでは、最善に辿り着くことは難しいでしょう。議題に対しての正確な決議が成されない事を鑑みまして、まずはこれまでの議論に対して決議を取ることが望ましいと思います。御三方もそれでよろしいかな?」


 彼はそう問いかけ、問われた賢者達――、アウロア・ビルヘルム、バーノン・ホスタリス、メイゼフ・オブレイオンは各々に回答した。


「異論はない。」

「異論ございません。」

「ふんっ、当然だろう。」


 その回答を受けて、グリムは予め用意されていた進行から変更を施す。


「それでは、リスル氏の提案通り、これまでの議論について決議を取りたいと思いますが、この提案に対して反対の方は挙手をお願いします。」


 グリムの声が聞こえなくなると、今日一番の静寂が訪れた。

 全ての賢者が合意した提案に、異を唱えるような者はいない。


「反対無し。では、議論に対する決議を取りますので、休憩後、投票資格を有する方は再度この場にお集まりください。それでは今より休憩とさせて頂きます。」


 意図せぬ形で事態は好転したのだけれど、結局の所、振出しに戻っただけである。

 議決まで油断するつもりは無いのだけれど、回避案が主導権を握る事態は避けられそうだと、私は安堵していた――。






 休憩後、直ぐに採決が執り行われ、想定通り統合後の対策で議決する。

 全13票の内、11票と言う結果だった。

 と言っても、あくまで振出しに戻っただけである。

 本来議論すべき論点に戻ったと言うだけなのだ。

 その為、数日後に再度議会を開催する事となる。


 その新たな議会開催に際して、話しておきたいことがあると言われ、議会会場の隣にある控室に私は呼ばれていた。


「……これはどう言う事かしら?」


 部屋に入った私を囲うような位置取りで、椅子に腰かけた賢者達――。


「どういう事……ですか。賢明な貴方なら察しているとは思いますが、不要な者を排除したこの場で我々が知りたいことは決まっています。」


 皆一様に、私の方へと鋭い視線を向け、尋問の空気が漂っていた。

 その四者の内の一人、バーノン・ホスタリスが代表して問いかけてくる。


「全てを話して頂きたい所ですが、貴方にも事情はあると思います。」

「それならこれ以上話すことは無いと思うのだけれど。」


 分かっているのならわざわざ聞かないで欲しい。


「なるほど。事情があって話せないことがあると言う事ですね。」


 不覚だ――。

 最初の質問で、隠していることは無いか――、そうと問われていることに気付いていたのにも関わらず、愚行にも乗せられてしまった。


「騙した様で申し訳ないですが、これも世界の為です。本当に話せない事は仕方ないにしても、我々はもう少し詳しく情報を知りたいのです。」


 しかし、今は後悔や反省をしている時ではない。

 どう切り抜けるべきか、考えないと――。


「とは言え、この様な状況では話しにくいでしょう。今日の所は我々の考えと、少しばかりの要望だけお伝えさせて頂きます。」


 洗いざらい吐かせられる展開を覚悟していたのだけれど、どうやらそうはならないみたいだ。


「我々賢者は、利己よりも探究と究明が勝るような……、言わば変人ですね。なので各領の利益にもあまり興味がありません。元オブレイオン家を指揮していたメイゼフ殿も、今ではこちら側の思考に近いでしょう。」

「ふんっ、私をお前等みたいな変人と一緒にするな!私は私の研究に集中する為、家督を放棄しただけに過ぎん。オブレイオン家の利益も当然に考えておるわい。」


 バーノンの説明に、メイゼフが反論する。

 いや、研究に集中する為に家督放棄とか、変人だと認めているように聞こえるのは私だけだろうか――。


「利己が全くないと言うことは無いであろう。しかし、我々賢者を名乗る者として、この件の究明に興味がある。だからこそ、もう少し情報が必要なのだ。」


 奥の席で黙していたアウロアも開口し、情報の必要性を訴えた。


「貴方の黙示録によって、各領の関係性が壊れぬように我々も取り計らうつもりです。信用を得るまでに時間は掛かるかもしれませんが、どうか必要な情報を開示して頂けることを願います。」


 ロキウスも続き、流石に断り切れない雰囲気に追い込まれる。


「皆各々ではありますが、私利に走る様な者はいないでしょう。とりあえず、私達の考えはこんな所です。」


 最期に、皆の総意としてバーノンが締めくくった。


「……分かったわ。話せない事もあるけれど、情報開示には善処する。今はこれが精一杯よ。」

「そう思っていただけただけでも十分です。」


 意外にも、あっさりと承諾される。

 本当なら全てを知りたい筈なのだろうけど、賢者達は私の回答に理解を示してくれた。

 そして、次に要望が提示される。


「では、要望についてですが、異世界の方と連絡が取れるのであれば、地理情報を提供していただけるよう、お願いできないでしょうか?」


 要望の内容は、私の生活圏移設の案を受けてだろうか、統合される異世界の地理情報だった。


「勿論、時期が来ればそうするつもりよ。どこまで正確な地理情報を得られるかは分からないけれど、受け取り次第議会に提出するわ。」

「ありがとうございます。」


 バーノンが謝辞を述べ、密談は終了する。

 色々と危うい状況だったけれど、一先ず、私達の世界は統合に向けて、良い方向へと進みそうだ――。

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