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第1話 再始動

取り戻した意識と、失っていた記憶――。

彼の世界は、ここから再開する――。


第1章 邂逅


様々な思惑が犇めき合う、混沌期を乗り越える為の運命的な出会い。

記憶を取り戻しながら、有力な人脈を構築していく。

第1話 再始動


 随分と長い間眠っていたのだろうか。

 それとも、ほんの少しの間だけなのだろうか。

 まだ視界は閉じたままだが――、少しずつ、意識が戻ってくる。


〝呼吸は――、どうやら大丈夫のようだ――。″


 呼吸していることを意識的に確認する。

 ドクンッ、ドクンッと脈打つ心音も、意識すれば伝わってくるのが分かった。


〝――これなら体にも力を込めれば動かせるのではないか――。″


 そう思い、指先に力を加えてみると――、ピクリッと動く感覚があった。


〝動かせる。なら、次は目を開こう――。″


 ゆっくりと開かれる瞼。

 徐々に鮮明となっていく視界は、僅かな明かりしか見つけることができなかった。


〝少し――、薄暗いかな?″


 僅かな明るさを発生させている光源が何かまでは分からない。

 もう少し詳細な情報を得ようとして、首、上半身、腕にと力を加え、上体を起こしていく。

 久々――、なのかはわからないが、体に伝わってくる感触を確かめつつ、上半身を起こすことができた。

 そして、周囲を見渡す限り、石造りの薄暗い部屋にいることが判明する。


「……ここは、一体……。」


 人気のない空間で、確かめるように声を出してみた。

 これも久々に――、もうどれくらい前から発声していなかったのかと自身に問いたい。

 そう思うほど、声が小さすぎたせいで自分でも聞きそびれそうなほどであった。


 先ほどよりも注意深く見たところ、壁だけではなく床や天井に至るまで、この空間全てが石でできているようだった。

 床は固いうえに冷たく、寝心地は最悪と言っていいだろう。

 よくもまぁ、こんなところで眠っていたものだと、自分自身で突っ込みを入れたくなる程にだ。


 そう心に思いながら、彼は立ち上がろうと体を動かす。

 両腕に力を加えて腰を浮かし、足の裏を地面に着けた。

 次は両足に力を加え、二足で立ち上がりバランスをとる。

 どうやらこれも問題ないようだ。

 今度は高くなった視点から周囲を一瞥する。


〝あれは、――階段?″


 奥に見える階段に気づき、彼は階段へ歩み寄る。

 歩きながら再度周囲を確認するが、見える限りこの空間には、目の前の上り階段とその下にできた水溜まりぐらいしか見当たらない。

 階段まで到達し、そのすぐ側から上を覗き込むように見上げると、上の階層も薄暗く、今いる場所と同じような石造りの部屋になっているように見えた。

 明りになるようなものが無い中、なぜ見えるのだろうと不思議に思ったが、薄暗い中でも視界に捉えることができるのは、どうやらこの石の壁自体が僅かに発光している為である。

 まったくもって不思議な空間だ。


〝本当にここはどこなのだろうか?″


 再びそれを考えるが思い当たる記憶が無い。

 ここに来た記憶も無いのに、どうして自分はここにいるのだろうと、違和感すら抱く程にだ。

 その違和感をきっかけに、ふと彼は重要なことに気づく。


〝――っていうか、俺は誰なんだ!?″


 名前も場所も、今までのことも何もかも、思い出すことができない。

 薄々勘付いてはいたが、どうやら記憶がないことが判明した。


〝ど、どうしたら――、なにも思い出せない――。″


 何もかも思い出せないことに、強い焦りと胸を締め付けるほどの不安が、まさに怒涛のように沸き上がる――、ことはなかった。


〝あれ?――あんまり焦っていない?″


 心拍数も特に変化はなく、恐怖や不安のような感情も不思議と沸いてこなかった。

 普通こういう状況になれば、パニックの一つや二つ起こすこともあり得そうだが、まったくと言っていい程焦りはなかった。


〝年の功というやつかな?″


 年を取るにつれ多少のことでは焦らなくなるものだ。

 おおよそ自分は中年か初老くらいの年なのだろう。

 そう思いながら、階段の近くで偶然見つけた水溜まりをのぞき込んだ。


〝――これは、中々。″


 若かった――。

 僅かに青さを纏うようなセミロングの黒髪で、前髪は右側だけ少し目を隠すように伸びている。

 その奥に覗く、ブラウンの瞳、バランスよく整った鼻と口の配置から、俗にいうイケメンであることは間違いない。


 うん、そうに違いない。


 次に服装を確認すると、白いワイシャツの上から黒をベースに白い縁取りのシンプルなロングジャケットを羽織り、皮でできているであろう黒いズボンの姿が映し出されていた。

 その姿から、高く見てもおおよそ20代後半であると予想する。


 不安が沸かないのは年の所為という憶測は見事に外れた。

 ただ、焦りが無いのであればここでどうこう考えていても仕方がない。

 ここにいて記憶が戻る可能性も少ないだろう。彼はそう考え、ゆっくりと目の前の階段を上がり始めるのであった――。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

更新頻度は本業に左右されるため、長い目で見て頂けると嬉しいです。

また、この物語をプロローグとする別作品にも追々着手していきますので、

合わせてご愛読いただけると幸いです。

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