第34話 出発点
第34話 出発点
宿屋の食堂で朝食を済ませ、俺達三人は今後の計画を話し合っていた。
「統合期に向け、各々するべきことは決まりね。」
世界統合による災害を少しでも軽減するための方針と、それに向けて各々のするべき事が決まったところで、ソアが締めくくる。
決まった方針――、その最大の目的は、世界統合による混乱を沈め、共存できる世界に導けるよう各国と各種族に交友と連携を持たせることだ。
そのために、私はこの世界の妖魔種と人間種を和解させ、ソアは元の世界――、仮に妖魔世界と呼ぶこととした、妖魔だけの世界の各領主たちを説得する。
「現状、私は元の世界に戻れそうにありません。なのでこのまま貴方についていきます。」
この世界よりも、工業技術の繁栄したヨヅキがいた世界。
仮に繁栄世界と呼ぶ、故郷の世界に帰る手立てのないヨヅキは、私と共にこの世界の人間領域の開拓――、つまり、人間領域との接点を作り、妖魔人間を分け隔てることなく災厄に備える活動に参加することとなった。
「ああ、ヨヅキが協力してくれると助かる。本当はどうにかして戻る方法を模索したいが……、一先ずこちらの人間領域にも注意を促さないといけない。私に力を貸してほしい。」
私の求めに頷き、彼女は同意を示してくれる。
「ヨヅキが一緒なら安心して任せられるわ。私の居ない間、彼をお願いね。」
「まかせて!」
ソアの言葉にも頷き――、いや、私の時と違ってはっきりと声に出して了承していた。
この差は一体――。
「その代わり例の件だけど……。」
「ええ、勿論私は構わないわ。頑張るのよ、ヨヅキ。」
まぁ、女性同士気が合うのだろう。
今もひそひそと何かを話し合っているようだ。
「それよりもソア、出発はいつにするんだ?」
【宝庫の鍵】を使う事で、ソアは元の世界へ帰還できる可能性がある。
可能性と言うよりはほぼ確実に近いのだが、人で試したことがない。
刈り取った魔物、捕まえた小動物を入れて実験してみたが、無事に向こうで受け取ったと言う返答文が代わりに入れられていた。
この事から、生物でも大丈夫だろうという判断には至っている。
「この後すぐにでも出発する予定よ。名残惜しい気持ちもあるけれど、貴方と共に歩むと決めたのだから。それに、やるべきことを先に終わらせておかないと、あの女神にも怒られるわ。」
予想していた通り、決めたらすぐ行動のようだ。
もう少しくらい一緒にいてもいいと思うのだが――、彼女の望む私とは、そういう甘えからは程遠いのだろう。
これでは私と共に歩むと決意してくれた彼女に示しがつかないな――。
「わかった。それなら、私とヨヅキもこの後すぐに南方へと向かおう。」
「南方ですか?人間領域ではなく、南に?」
私の提案にヨヅキは疑問を浮かべる。
「ああ。このまま人間領域に行ったとしても、人間領域と平和的な交渉はできないだろう。その為に、ある人物の人脈に頼ろうと思う。」
そう述べたところで、その人物を知らないヨヅキには理解できない。
その人物と接点のある者に面識はあるが――、どう説明したらいいものかと考えながら話す。
「ユナの上司……、というか、仲間と言うべきか……。まぁ、彼女の知人に人間との接点がありそうな人物がいるんだ。その人物の仲介を得て交渉にあたろうと思う。」
かつて、マナハイム国でマスマッド領を治めていた彼、ドランクことランク・シュヴァインであれば、隣の領地であるリーネス領の子孫とも、何かしらの交友があるのではないかと思ったからだ。
「なるほど、わかりました。」
納得と了承を示す言葉が返される。
ともあれ、これで全員の次の目的地が明確になった――。
「この辺りでいいわ。」
村を出発ししばらく進んだ岩陰で、ソアが別れの時を告げた。
「ここなら誰かに見られる心配もないし、丁度クゥフゥも準備ができたみたいだわ。」
クゥフゥと呼ばれた、恐らく従者のような相手から連絡を受け取ったのだろう。
ソアはそう言いながら私の目の前にやってきた。
「同じ方法を使えば戻ってくることもできるのだけれど、統合されるその日までは、お互い各々の場所で各々の役割を果たしましょう。」
会おうと思えば会える。
しかし、そのような甘えを持ったままでは災厄と対峙することはできない。
その決意を示すような言い方に、私も心を引き締めなおす。
「ああ。お互いに役割を果たし、果たした先の未来でまた再会しよう。」
彼女の決意に劣るまいと、私も決意を持って返答した。
そして、決意が揺らがない内に、私は目の前に白銀の光を集束させる。
『宝庫の鍵。』
出し入れする対象――、今回で言えば人が通れるサイズが必要だ。
その為、ソアの身長を考慮したサイズで展開する。
「これくらいの大きさなら問題ないだろう。」
「丁度よさそうね、ありがとう。」
ご希望に添えられて何よりだ。
展開された光に向かい、彼女はゆっくりと歩みだす。
「言う事は言えたつもりだし、特に言い残すこともないのだけれど……。」
その光に入る寸前で、ソアは一度足を止めて振り返った。
「そうね……。行ってきますは必要かしら。」
そう言いながら、目を瞑り、踵を上げて背伸びをした彼女の顔が、ゆっくりと私に近づいてくる。
その意図は明白。
私はそれ応えるべく、こちらからも顔を近づけ、そっと頬に手を添えて唇を重ねた。
ほんの一瞬。
しかし、私と彼女には長く感じられた。
「行ってらっしゃい。」
唇が離れると同時に、私は彼女にそう告げる。
「また会いましょう。」
その言葉を受け取った彼女は、再会の言葉を残して光の中へと入っていった――。




