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第32話 各々の選択

第32話 各々の選択


 シンシアが去った後、残された私達は眷属契約を含む今後についての話し合いを始めていた。


「契約による恩恵は以上です。」


 契約を締結することで得られる力。

 そして、不老となる事を説明したところで話を区切る。


「確かに人間からすれば不老は大きいな。まぁ妖魔も倍くらいだが。」


 そうオーヴィが言うように、妖魔の視点での不老は、そこまでメリットにならないみたいだ。

 そもそも妖魔という種族を生み出したのも人間である。

 長寿を得て長期に渡り研究を行いたい。

 その願望から妖魔種への変異実験が始まったと、妖魔の始祖であるアスタルが言っていたそうだ。


「人間の寿命を基準にすれば長いのかもしれないけれど、二百年も左程長寿とは思えないわ。」


 オーヴィの見解にソアが自身の意見を示す。


「生きて何かをし続けたい目的があるのなら、終わりがあると言うのは無念じゃないかしら?そういう意味で不老はメリットになるはずよ。」


 不老はデメリットだと言っていたのは誰だっただろうか。

 そう思い返していると、それを察してか反論が返ってきた。


「ただし、これは不老の一面に過ぎないわ。デメリットの部分で話されると思うけれど、不老とは時間の停止によるもの。つまり、身体の成長を止めて不老になるからよ。」


 おっしゃる通り。

 この不老にもデメリットと言うか、不老を作り上げている仕組みがあるのだ。

 その仕組みが時間の停滞である以上、若返りもしなければ老いることもなくなる。

 そう、今の状態で停滞すると言う事だ。


「停止と言っているが、実際には傷も修復するし髪も元の長さまでは伸びる。あくまで契約時の状態に修復する範囲内での変化はある。」


 そう告げて、私は次にデメリットについて説明を始める。


「それを含めて、デメリットと言うか代償として要求されるのは、人という存在からの離脱だ。」


 人からの離脱。

 それは、人としての幸福を捨てると言う事である。


「不老によって他者との関わり方が変わる。友を作れど次の日には友は死んでいる。そのような感覚が延々と続く事になる。」


 これは自身の経験から言えるデメリットだ。

 過去の災厄に挑んだ仲間達も、大戦を潜り抜けた戦友も、ただ一人を残して全員寿命を迎えている。

 記憶を失っていなければ、ランク・シュヴァインとの再会は、私にとって特別なものとなったに違いない。

 願わくば、災厄を共に討ち果たした戦友オルカイト、その妻となったリセリアともまた話がしたい。

 ランクと共に、あの時できなかった祝勝の宴を催したい。

 そう言う後悔が延々と付きまとい、私はこれまで幾度なく気を沈めてきた。

 月日は無常に、私から親友達を奪い去っていく。

 それは、これからも、その先も――、永遠と繰り返されるのだ。


「そして、男女の営みも意味をなさない。人から離脱している以上、子孫を残すこともできなくなる。」


 これも経験から言えるデメリットだ。

 せめて子供だけでもできればと願っていた彼女には、本当に申し訳なく思う。

 最期を看取ることもできず、二人の愛を証明できるものも残せなかったのだ。

 アニーは――、彼女は本当に幸せだっただろうかと、未だに心の奥底で引きずっている。

 エイリスを失ったランクも、同じように感じているかもしれない。


「そして、最大のデメリットだが、契約の主が死に至ったとき、眷属もまた死に至る。」


 あの迷宮で、シンシアがソアに告げていた。

 聖者が消滅すれば、眷属もまた消滅すると――。


「これらを踏まえた上で、私と契約を結ぶかどうかを判断してほしい。勿論、契約など無くても、協力してもらえるだけでも有難い。」


 契約など無くてもいい。

 世界の大事となった時、共に戦ってくれる仲間がいるだけでも心強いからだ。

 無理に人の域から離脱する必要などない。

 人としての幸福を享受し、人としての範囲で協力を得られれば十分である。


 私は話しを終え、最初にソアへと視線を向けた。


「不安にならなくても大丈夫よ。私は貴方と共に歩むわ。」


 ソアは私の視線から意図を察し、直ぐに返答を返してくれる。

 それも、欲しかった回答をだ。


「ありがとう。」


 しかし、不安にならなくても――か。

 本当に彼女は私をよく見ているのだろう。

 内面を見透かされている様で、少々恥ずかしさもあるが、決して悪い気はしない。


「ヨヅキ、貴方はどうするのかしら?」


 私が訪ねる前に、ソアがヨヅキへに問う。


「私は……、もう少し、考えたい。」

「そうね。確約はないけれど、元の世界に戻れる可能性はあるかもしれない。そう言う意味では賢明な判断だと言えるわ。」


 迷っている最中のヨヅキの回答に、ソアは同意を示すように答えた。


「だけど、決断しなくてはいけない時に迷っている時間なんてない。覚悟を決めたら行動あるのみ。この事は覚えていてね。」


 そして、同意を示しつつ、持論なのだろうか、ソアはヨヅキに対してアドバイスを送る。

 いつの間にか、二人の仲もいい方向で進展しているみたいだ。


「後はオーヴィ達だが、元々道案内兼護衛という名目での同行だった。念のために聞いておくが、契約に関してはどうしたい?」


 最期に、オーヴィ、レヴィア、ホークアイの三人に私は訊ねる。


「俺達はこのままでいい。」


 三人の総意を代弁するように、オーヴィが即答で答えた。


「私達の力ではどこまでついて行けるかわかりません。相応に、人生を全うしようと思います。」

「私も同様です。しかし、協力が必要な時はいつでもお手伝い致します。」


 レヴィア、ホークアイもそれぞれの言葉で気持ちを伝えてくれる。

 相応に全うする――か。

 多くの人には、そうあって欲しいと思う。


「それに、子孫ができないとレヴィアに怒られそうだしな。」

「よっ、余計なことは言わなくていい!」


 失言したオーヴィに盛大なチョップの制裁が下った。


「とりあえず、皆の思いは分かった。契約するしないに関わらず、協力に感謝する。」


 深く頭を下げて礼を示す。

 契約の有無にかかわらず、私も彼らに助力しようと思った。


「それでは、ソア。君に契約の証となる月虹石を受け取って欲しい。」


 シンシアがやっていたのを思い浮かべながら、私は手の平の上に月虹石を生成する。

 原理などは理解していなかったが、イメージするだけでそれは生成することができた。


「頂くわ。」


 そう言って、ソアは私から石を受け取る。

 そして、石をしばらく眺めた後、ヨヅキへと体を向けた。


「ヨヅキも貰っておいたらどうかしら?石の状態だと契約はまだ成立しないみたいだし、持っているだけでも恩恵があるみたいよ。」


 ソアは石の性質を確かめつつヨヅキにそう告げる。

 思えば私の時もそうだったが、指輪として身に付けた時、シンシアとの繋がりを感じることができたのだ。

 石の状態ではまだ未契約。

 そして、アクセサリーとして身に付けることで契約が成立するみたいだ。


「わかったわ。アルテミス、私も月虹石を持っていたい。」


 先程のソアの言葉が効いたのだろうか、ヨヅキは即座に決断する。


「ああ。契約する気になったら、その時に身に付けられるものをイメージしてくれ。」


 私はヨヅキにそう告げ、月虹石を手渡した――。

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