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第29話 泥沼の戦い

第29話 泥沼の戦い


「躊躇うな!この屋敷ごとはかいしてやれ!」

「おおぉぉぉ!」


 啖呵と共に、怒涛の勢いで男達が雪崩れ込んでくる。

 突入を開始してきた烈風の剣達に対し、ホークアイは二本の剣で応戦していた。

 オーヴィと同じく二刀流使いの様だが、オーヴィ程派手でない。

 効率の良さを追求したかのような最小限の動きで斬り伏せ、死体の山を積み上げていく。

 殺すことへの躊躇いもなさそうだ。


「ホークアイ、いったん下がって。」


 そして、彼の後ろから度々指示を送るレヴィア。

 彼女は室内にもかかわらず、その狭い空間の中を弓で援護する。

 彼女の矢も必中。

 侵入してくる賊を射貫くことに容赦はない。

 なにより、二人の連携は卓越していた。


『シャドーバインド』


 俺は拘束の精霊術を唱え、突入してきた敵を順番に拘束する。

 手加減するつもりはないのだが、屋敷を取り囲むほどの軍勢を用意してくる黒幕の情報が欲しかったからだ。


『蛇進』


 その思いを知ってかオーヴィは加減をしつつ、俺が拘束しやすいよう追い込む役目を担当していた。

 俺達の息も、長年一緒にいた仲間の域に達するほどである。


「多分こいつが指揮官じゃないかな。」


 そんな俺達に、ホークアイが一人の男を組み伏せた状態で声を掛けた。


「烈風の剣の幹部か。ならこいつを仕留めれば終わるんだな。」

「いや、仕留めるよりもうまく使った方がいいと思います。」


 片を付けようとするオーヴィに対し、ホークアイがすぐに止める。


『シャドーバインド』


 ひとまず、組み伏せた状態のホークアイを自由にすべく、俺は男を拘束した。


「なら早速この攻撃を止めて貰おう。」


 俺はそう言い、オーヴィとレヴィアに戦闘を任せて男に歩み寄る。


「残念だが俺は副官だ。遠慮はいらん、殺せ。」


 男はそう言って俯いた。

 覚悟はできていると言う事なのだろう。

 しかし、それでは一向にこの状況は変わらない。


「死ぬのは勝手ですが、その前にこの無駄な突撃を止めてくれますか?」


 ホークアイは男の要望を足蹴に、こちらの要望を代弁する。

 

「……。」

「だんまりですか……。」


 捕虜となった副官は何も答えず、ホークアイは溜息を一つ吐いて納めていた剣を握った。


「これ以上無駄な死者を増やさない為にも、一声かけて頂きたかったのですが……。」


 彼の言う通り、これ以上戦闘を長引かせたとしても、相手に勝ち目は見当たらない。

 その残念な思いから零れ出た言葉を残して、ホークアイはオーヴィ達が受け持っている戦線に戻っていった。 


「正直、誰の差し金かとか、聞きたいことが山ほどある。だが、この状態では落ち着いて話もできない。」


 残された俺は、自身の思いを捕虜の副官に告げる。


「話しができるように、このまま俺達に少しずつ削られていくのか、それとも、仲間を一人でも多く生き残らせるために今すぐ攻撃を止めるか、副官ならそれを選択すべきじゃないのか?」


 情報漏洩を防ぐために、死を覚悟するのも分からなくはない。

 だが、魔王城での夜襲と違い、今回は個人の命だけでなく多くの命が絡んでいる。

 そのための副官や隊長という役割だ。

 部下の命を預かると言う、その責任は大きい。


「……俺の負けだ。」


 副官の男はそう言うと、一呼吸置いた後、仲間に向かって言葉を発する。


「フレディ!俺達の負けだ!これ以上の犠牲を出さない為にも、撤退してくれ!」


 部屋の外にまで聞こえるであろう大声で、フレディ――、奴らの大将であろう長官に、撤退を進言した。

 すると、すぐさま入り口から一つの影と共に、こちらに向かって細身の男が歩み寄る。


「悪かったなアズン。俺が最初に切り込むべきだった。」


 そう言葉を発しながら、大将であろう男がアルテミスの前に立ちはだかった。


「今生きている奴は全員退避しろ。これは命令だ。」


 フレディと呼ばれた奴らの大将は、要望通り撤退を命令する。


「そして、あんたらには悪いが、ダチを返してもらう。」


 そして、捕らえた副官の男を返せと要求してきた。

 どさくさに紛れて図々しい。

 だが、情報を聞き出す絶好のチャンスだ。


「こちらが聞きたい情報を提供してもらえるなら、この男は解放しよう。」


 一先ず交渉を持ち掛ける。

 ダチと呼ぶくらいだ。

 まずこの交渉は成立するだろう。


「いや、それはできない。」


 まさかの当てが外れた。

 いや、ダチって言うくらいなら情報より命を取るだろう。


「だが、代わりに俺の命で支払う。それでその男を開放してくれ。」

「フレディよせ。お前が犠牲になるくらいなら俺が犠牲になる。」


 なるほど。

 大将首一つでこの場を収めようと言う事か。

 だが、命を取るよりこっちは情報が欲しい。

 そもそも、二人の内どちらかが犠牲になるとか、俺達に何のメリットも残らない。


「アズン、俺が隊長だ。今回の敗退の責任も作戦指揮も俺の落ち度だ。ここは俺の命一つで手打ちにするところだ。」

「敗退の原因……。捕まったのは俺だ。フレディは仲間を連れて撤退してくれ。」


 メリットどころか、これじゃあ俺達が悪役みたいだ。

 依然、二人はどちらが死ぬかでもめている。


「二人とも死にたがっていますし、二人ともサクッと殺しときますか?」


 歩み寄ってきたホークアイが隣で呟いた。


「いやいや、情報を得る以外にこちらにメリットはない。」


 メリットが必要という訳ではないが、大掛かりな待ち伏せをして得るものが無いというのは虚しい。

 その思いで反論を述べたが、今度はオーヴィが歩み寄ってきた。


「なら二人とも吐くまで拷問するか?少しずつ刻んでいけばその内吐くだろう。」

「これ以上禍根を残さない方がいいだろ。一々復讐の相手なんてやってられるか。」


 オーヴィの発言に苦言を刺し終えたところで、今度はレヴィアが言葉をかける。


「どちらにせよ、逃げられないように足を射抜いておきますね。」

「そんなこともしなくていいから!ってかあんたら物騒すぎないか?」


 それが妖魔という種族の性質なのだろうかと、疑いたくなる程に頭が痛い。

 そう言えば、ソアも物騒なところがあったような――。


「一先ず二人とも命の保証はするから、頼むから情報を提供してくれ!」


 妖魔種に対する偏見など持ちたくはない。

 そんな思いで再度交渉してみる。


「「断る!!」」

「なんでだよ!!」


 同時に即答。

 思わず俺も、間髪入れずに突っ込みを繰り出してしまう。

 いや、ほんとになぜ頑なに拒むのか不思議なほどだ。

 少しは魔王城の暗殺者を見習ってほしい。

 ――ん?

 いや、あいつはあいつでもう少し根性見せるべきだけどな。


「このままだと埒が明かないな……。」


 そう思い溜息を一つ零した時だった。


「一斉に放て!!」


 外からの号令の声と共に、爆発音と爆風が届く。


「なんだ!?撤退したんじゃないのか?」


 そう呟いたのはフレディと呼ばれた大将だった。


「なるほど。どうやら屋敷ごと焼き払うみたいですね。」


 炎に包まれつつある屋敷の中で、冷静にホークアイが述べる。

 いや、もっと焦った方がいいんじゃないだろうか。


「お前等の差し金じゃないなら、外の連中の独断か。お前らの命諸共片付けるみたいだな。」


 オーヴィはそう述べると、アズンと呼ばれた副官に視線を向ける。

 そのアズンも、まさかといった表情で、予想と反する攻撃だったと推測できた。


「このままじゃまずいな。全員炎と煙にやられてしまう。」


 そう口に出し、俺は逃げ道はないのかとレヴィアに視線を向ける。


「非常用の地下道を使います。ソアさん、ヨヅキさんと合流し、地下道へ向かいましょう。」


 レヴィアはそう言うと、ホークアイに二階からソア達を連れてくるよう目で合図を送った。

 しかし、丁度二階の方から声が聞こえる。


「その必要はないわ。」


 そう言いながら姿を見せたのはソアであった。

 そして、その隣にはヨヅキの姿もあった。


「一先ずこれで全員だな。俺は最後尾をいく。レヴィア、ホークアイ、先導は任せるぜ。」


 オーヴィが指示を出し、レヴィアとホークアイがキッチンの方へと先導する。

 何とか脱出は出来そうだ。

 それを確信し、俺はアズンの拘束を解いて二人に向けて声を掛ける。


「とりあえずあんた達も一緒に来い。情報とか諸々の処遇はそれからだ。」


 その言葉に、二人は素直に頷いた。

 先程の、どちらかが死のうとしていた態度は何だったのだろう。

 そんなことを考えつつ、俺達は地下道へと脱出した――。

久々の続きです。

全話一人称に変更予定の為、ここからプロローグ完結まで一人称で作成していきます。

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