表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/85

第28話 ヨヅキとソア

第28話 ヨヅキとソア


 一仕事を終え、ソアは窓から部屋へと帰還する。


「あまりうまくいかなかったけれど、これで相手は潔く撤退するか、全滅覚悟で突入するしかなくなったはずよ。」


 そう言いながら、ソアは俺達の間をすり抜けるようにして部屋の扉の方へと向かった。


「すげぇ威力だな。これだと攻めてくる数は限られそうだ。」

「それよりも大丈夫か?疲れているなら後は俺達で対処しておくよ。」


 オーヴィは嬉々として絶賛。

 対して俺は、気遣う言葉を選択する。

 普段なら堂々としている彼女の背が、その覇気を失っているように思えたからだ。


「そうね……。私は少し休むから、後は任せるわ。」


 そう言い残し、ソアは退出する。

 どうやら見間違いではなかったみたいだ。


「あとは俺達で片を付けよう。」


 俺の言葉にオーヴィが頷いて了解を示し、俺達は部屋から出て1階へと向かう。


「松明の見える辺りよりも後ろに10人程、屋敷内は俺達6人だけだ。」


 階段を降りようとしたところで、オーヴィが俺にそう告げた。


「村の外に待機している奴らもいるが、あくまで逃走するやつを捕獲するための部隊だ。ひとまず俺達だけで対処しなきゃならねぇ。」

「それがこちらの戦力という訳か。」


 いつものように、唐突に告げられる。

 流石に慣れてきたためか、解釈することはできた。


「ああ、そうだ。それに外の味方はレヴィアの合図でしか動かねぇ。一定時間合図が無ければ撤退するようにも伝えてある。」

「なるほど。援護が必要なら、なるべく早く合図する必要があるってことか。」


 俺の解釈にオーヴィは頷いて正解を伝える。

 この解釈で正しかったようだ。


「このまま撤退するようなら捕獲作戦に切り替え、全軍で攻めてくるなら背後からの強襲で場を混乱させることができるのか。ただ、少数だけで攻めてきた場合は、俺達だけで対処しないといけなくなりそうだな。」

「それはそれで都合がいい。少数なら間引きつつ捕虜を取りやすいしな。」


 撤退と進軍――。

 そのどちらに対しても、対処に抜かりまないようだ。

 後はどう転ぶか、相手の動向を待つしかない。


「このまま撤退してくれると有難いんだが……。」


 願わくば、撤退してくれるのが望ましいと、心の声が零れる。

 そして、階段を降り切ったところでホークアイ、レヴィアと合流し、4人は敵の動向を伺うこととなった――。




*** ヨヅキの視点 ***


「ここにいたのね。」


 部屋の扉が開く音と共に、ソアの声が耳に入る。


「戻っていたのね。てっきり片付くまでは攻撃を緩めないと思っていたわ。」


 ソアが自分の部屋に入ってきたのを目にし、私は率直な思いを告げた。


「さすがにあれだけの力を使えば疲労も溜まるわ。それよりも、貴方はずっとここにいるつもりかしら?」


 その問いに、私はすぐに答えられない。

 どうしたいのか自分でも分からないと言うより、人と対峙することへの抵抗だろう。

 自身を襲ってくるのだから、やり返すのは正当防衛だ。

 しかし、剣で戦う以上、相手を斬らなくては戦闘不能にはできない。

 力加減を誤れば死に追いやることになるだろう。

 正当防衛とは言え、それは避けたい。

 戦わずに済むならそれに越したことは無いけれど、こんな中途半端な気持ちでは、躊躇いができてしまう。


「……どうすれば、割り切れるのだろうか。」


 そんな思いを巡らせていたからか、思いが不意に声に出た。


「割り切ると言うのは、相手を敵とみなして殺すことへかしら?」


 その言葉を、ソアは見逃してはくれない。

 参戦しないのかを聞きに来たようだから、それもそうだ。

 返答を濁すことはできないだろう。

 それなら、彼女に聞いてみようと私は思った。

 

「妖魔も人間も人であることには変わらない。そう思うと、人に剣を向ける……、人を殺すと言う事に抵抗ができてしまうの。」

「そう言う事ね。」


 ソアは私の言葉に納得を示す。

 魔王討伐に繰り出した当初は、人の平和を守るためという正義感から、躊躇いはそこまで生まれてこなかった。

 しかし、実際に魔王達と会談し、私達と何にも変わらないのだと知ると、妖魔に対して抱いていた敵対心が薄れてしまったのだろう。

 人間と妖魔。

 どちらも人であることに変わりないと、そう認識してしまったのだ。


「貴方の世界は確か、日常では戦闘がほとんど起きないのよね?それなら仕方のないことだと思うわ。」


 今度は承認を受ける。

 そして、同時に一つの仮定が生まれた。


「貴方は戦いの日々だったの?」


 戦いが日常に起きるのなら、命のやり取りに対しての抵抗は少なくなるだろう。

 そう言う環境であれば、身を守るために割り切るしかない。

 私はふと気になった事を質問をする。


「私も同じよ。戦いなんてめったに起きないそんな世界だったわ。」


 質問に対し、ソアからの返答は意外なものであった。


「それじゃあなぜ……、貴方は躊躇いなく戦えるの?」


 当然のように沸いてくる疑問。

 同じ戦いの無い世界で生まれたのに、なぜこうも違うのだろう。

 同じような世界に生まれた筈なのに、どうしてソアは戦うこと――、殺すことに躊躇いがないのかが気になった。


「そうね……。躊躇いが無いわけではないわ。でも、戦う時には迷いを捨てるようにしているわ。」


 私の疑問に対して、ソアは意丁寧に回答を始める。

 もう一度、躊躇いなく戦えるようになるため、私は食い入るように聞き入った――。




*** ソアの視点 ***


 戦う事への躊躇い。

 それは万人が持ち合わせている感情の一つだ。

 それと同時に、戦ってでも得たいもの――、守りたいと思う強い感情が、人には備わっていると言う事を、私は熟知している。

 守りたい感情が強く出れば、躊躇いの感情が入る余地など無い。

 迷いを捨てるようにと答えたが、そういう状況になれば、自然と迷いは無くなるのが人だと私は思っている。


 私の時もそうだった。

 何不自由ない、平和そのものの生活から一転。

 お父様とお母様の死を告げられ、そのまま敵襲を告げられ、親友二人を犠牲にしなくてはいけないと告げられたことを、私は未だに覚えている。

 アネモネとワースの、二人の親友を守りたい。

 その感情が勝ったことで、殲滅に対しての抵抗は消え失せる。

 皆無ではなかったのだけれど、やらなくてはいけないと言う想いと覚悟が、抵抗を上回ったのだ。

 今尚、二人の為――、それから増えた仲間や、アルテミス達。

 私が守りたいと思う仲間の為であれば、躊躇う事など無い。

 その思考の過程で、私はふと思い至った。


〝この子は、決意をする前の私と同じだ――。″


 その思いからか、私はアドバイス――、と言うよりは体験談なのだけれど、分かりやすく話そうと思った。


「迷いを捨てる方法は幾つかあるのだけれど……、そうね、私の場合は守るべき親友がいるからこそ、迷ってなんかいられないって吹っ切ることができるわ。」


 私の回答に、なぜかヨヅキは驚きを見せる。


「意外だったわ……。戦いがない世界ってこともだけど、迷いを捨てられる理由が親友だなんて……。」


 驚くよう内容ではない筈だ。

 寧ろ、家族や友人の為にと言う話は普通だと思う。

 普通だと思うのだけれど――、そういう反応が返ってくると言う事は、一体私はどういう風に思われているのだろうか。


「意外言って……、私を何だと思っていたのかしら?」

「ご、ごめんなさい!」


 ヨヅキはハッとしてすぐに謝罪を述べる。

 やはり戦闘狂者とでも思っていたに違いない。

 全くもって失礼な――、と言うよりは、私が誤解されやすい言動ばかりしているからだろう。

 元の世界でも、誤解される事は多かったことだし――。


「別にいいわ。」


 そう告げて、私はヨヅキの変化に気付いた。

 どうやら鬱蒼としていた気持ちから、本来の調子に戻ったように見える。

 そう感じた私は、自身の心情の変化にも気付いていた。


「それよりも……、特別にあなたにだけ話してあげるわ。」


 きっかけは似ていると思ったからであろう。

 だからこそ、アルテミスにも言っていないこの世界に来る本当のきっかけとなった出来事を――、平穏な日々を代償にしてまで得たこの力の秘密を――、私はヨヅキにだけ話そうと思ったのだ。


「私の力の秘密と、その力に見合うだけの覚悟の話を……。」


 私は語り始める。

 父と母を失った日の話を――、その時に受け取った力の秘密を――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ