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第21話 出立

第2章 復古


記憶を取り戻すための旅の道中。

知り得ぬ敵対者からの刺客が送り込まれる。

第21話 出立


 昨夜の騒動が、まるで何もなかったかのように思えてしまう程、雲一つ見当たらない快晴の朝――。

 俺達は出立の準備を整え、魔王城の外でディー達と面会していた。


 昨日捕らえた侵入者の男。

 その聴取はすぐに執り行われ、犯行グループの正体が烈風の剣傘下の小規模グループであることが判明した。

 引き続き聴取は実施し、今後の動きなどの情報等を聞き出す予定とのことである。


「例の男の聴取で、今後何か分かれば伝者を送ります。」


 聴取執行の任を受けているステンリーは、心配無用と俺達に告げた。

 元々大きな脅威とは感じていないが、安心があることに越したことは無い。

 道中襲撃を受けるリスクが減るのであれば、その方が幾分か都合がいいだろう。


 そして、もう一つ気がかりであった魔王と侵入者の共闘している説だが、ソアが駆けつけた先ですでに両者は戦闘中であったとのことだ。

 加勢する必要性は感じられない程一方的な展開であったらしいが、共に戦うことで偽装された戦闘かどうか見極められる。

 ――らしい。

 そう考えた彼女は、惜しみなく力を発揮して魔王と共にことごとくを退けたのだ。

 正に圧勝と言えるだろう。

 この一件から、魔王と侵入者の繋がりは否定された。


「その件に限らず、何かあったら連絡してくれればいい。そう言う約束だしな。」


 ステンリーに返答し、俺はディーの方へと向き直る。

 今後の良好な関係を構築していく過程で、報告や連絡、相談は重要だ。

 後ろ盾になるような事を言った以上、窮地には参じなくてはいけない。


「もしも俺達に何かあったときは、それが敵わない相手であるなら、俺達を見捨ててもいい。これまで通り妖魔全体の利益を考えてくれ。」


 また、その逆も然り。

 自身達の都合で妖魔領域全体を危険に晒す訳にはいかない。

 妖魔領域の平和を担う魔王には、これくらいの配慮は必要だろう。

 そう思っていたが、ディーは首を横に振った。


「既に貴方方は妖魔領域にとって最大の利益と言っても過言ではない。危機が迫ったときは、我等の総力を挙げて援軍に向かわせてもらう。」


 儀には儀で応えると言う事だろう。

 魔王から送られてくる援軍であれば、心強い事この上ない。

 ディーはそう答えると、俺の目の前に右手を差し伸ばした。

 それに応えるよう、俺はがっしりと握って力を籠める。

 この誓いが確固たるものであると示すように――。


「遊戯邸も影ながら協力するよ。」


 固い握手を交わす手の上に、突如現れたユナの手が添えられる。


「ドランクにはあたしから話しておくさ。」

「ああ。ドランクによろしく言っておいてくれ。」


 何事も無かったかのように振舞う彼女に合わせ、俺も平然と言葉を返していた。

 ――っと言うか、ユナは今までどこにいたんだろう――。

 魔王共闘したソアもユナが一緒だっとは言っていなかった。

 勿論、本命のヨヅキの護衛にも関与などしていない。

 今までどこに居て何をしていたのかと聞きたいくらいだ。

 しかし、ここは冷静になるべきだろう。

 神出鬼没――、いや、この場合は鬼出神没と言った方が合っていそうだ。

 このふざけた巨乳の妖魔が原因で、いい雰囲気で出立できそうな状況を壊したくはない。


「貴方方と魔王と遊戯邸。一応これも三雄の誓いと取れますね。」


 握手を交わす三人の姿を見て、ふとステンリーが呟いた。

 さすがは魔王の頭脳といった所だろう。

 声を掛けるタイミングがバッチリだ。


「確かに……。三人ではなく三つの組織という形になるけど、三雄の誓いを結ぶに相応しいと私も思う。」

「統合に向けてと言うのであれば、誓いを交わすのも悪くはないわね。」


 その呟きにヨヅキが反応し、ソアもそれに続く。

 その言葉を受けて、ディーとステンリーも頷いて共感の意を示す中、俺だけがその三雄の誓いというものが何なのかを理解できずにいた。


「三雄の誓い?」


 ソアへと視線を送り、俺は三雄の誓いについて問う。


「三雄の誓い。北方の大陸の発見と冒険からマリーランド王国の建国に至る、マリーラ一行の立てた誓いが元となった有名な誓いの儀よ。」


 ソアは答えると俺達の元へと歩み寄り、その結ばれた三者の手の上に自分の手をそっと重ねた。


「天衣無縫に頂を――。」


 誓いの文言なのであろう言葉を、彼女は凛とした声で言い放つ。


「叡智の才で手解きを――。」


 続けてディーが、落ち着いた口調で誓いの文言を綴った。


「果敢の闘志でその補佐を――。」


 その後にユナが悠々と文言を述べる。

 そして――、


「「「数多の時が過ぎようと――、未来永劫――、この誓いは守られる。」」」


と、三人息をぴったりと合わせたまま、三人は誓いの言葉を締めくくった。

 一言のずれもなく、スピード、テンポに乱れすらない。

 正に誓いの儀に相応しいその光景を目の当たりにし、俺は胸を熱くせずにはいられなかった――。






 三雄の誓いを交わした俺達は、いよいよ出立を迎えようとしていた。

 後は、魔王が用意してくれる手はずの案内人を待つだけである。


「おーい!連れてきたぞー!」


 すると、丁度そのタイミングを見計らっていたかのように、案内役手配の依頼を受けて飛び出して行ったダイスが、一人の青年を連れてこちらへ向かってくるのが見えた。


 赤い長髪を後ろで一つ括りにし、触角を連想させるような二本の前髪と、そこから覗き見える特徴的な釣り目。

 服装はユナと類似しており、上は胸元の部分だけに鉄板をあしらったプレートアーマー、下はサルエルパンツのようなズボンという軽装である。

 その腰には、二本の刀のような、片刃の剣が携えられており、案内役というよりは傭兵に近い印象だ。

 堂々とした態度から、相応の力を有しているだろうと推測できる。


 青年の容姿を観察しているうちに、ダイスとその青年は俺達の元まで辿り着いた。


「紹介するぜ。隠密任務や護衛など、様々な任を請け負っている夜盗というグループのリーダー、オーヴィ・ファレンドだ。」


 辿り着いて早々、ダイスは赤髪の青年紹介する。


「魔王傘下のグループの中でも、一番信頼できるグループのリーダーだ。人望だけでなく武勇にも優れているからな。安心して目的地が目指せるはずだ。」


 そう誇らしげにダイスが語っていると、紹介された青年、オーヴィは自ら名乗り出た。


「さっきも紹介されたが、俺は夜盗のボスをやっている、オーヴィ・ファレンドだ。呼ぶときはオーヴィでいいぜ。よろしくな。」


 あまり上下関係とかを気にするタイプではないのだろう。

 だが、変に畏まられるよりは全然いい。


「俺はアルテミス。こっちはソア・ヴァルキュリスで、こっちがヨヅキ・ミヤシロだ。」


 オーヴィの挨拶を受け、俺は自身、ソア、ヨヅキの順番で紹介した。

 自身の成り立ちなどは道中で話せばいいだろう。

 そう思い、この場では名前だけの紹介とした。


 そのやり取りを見届けていたのだろう、ユナは機を見て話しを切り出す。


「あー、っとじゃあ、あたしは遊戯邸にもどるから、先に出発するよ。道中気をつけてな。」


 そう告げると、ユナは踵を返し南の方角へと歩みだした。

 そんなに長い時間一緒にいたわけではないが、彼女のあっさりとした態度に少し寂しさを感じ無くもない。

 だからというわけではないが、挨拶くらいはしておいた方がいいだろう。


「お前も気を付けて行けよ。あと、ドランクによろしく伝えておいてくれ。」


 彼女への労いと、ドランクへの報告も兼ねての言葉を伝えた。

 それを受け、ユナは背を向けたまま右手を挙げて了解を示す。

 一々振り返らない辺りが、大雑把で面倒臭がりな彼女らしい。


「それじゃあこっちも出発でいいか?」


 一連のやり取りを静かに伺っていたオーヴィが、機を見て俺に訪ねる。

 俺は頷いて了解を示し、ディー達の方へと向き直った。


「いろいろと助かった。記憶が戻ったらまた戻ってくるよ。」

「はい、道中お気をつけて。良き旅になる事をお祈りいたします。」


 俺の言葉に代表してステンリーが返答する。

 その返答を合図にして、俺達はゆっくりと船の方へと歩きだし、魔王城を後にした――。




*** ??? ***


「なるほど……、なるほど……。」


 遥か上空――、魔王城から一直線に空へと昇った空中で、二つの人影がそれら全て一部始終、先端から末端までの出来事を見届けていた。


「あれが……、そうですか。」


 一方の影が――、もう片方の影を差し置いて、悠然に花を一凛、一凛と付け加えるように言葉を並べていく。


「世界で乱立する誕生、その中で唯一意図的に作られた存在……。選ばれし聖者……。」


 並べられた言葉の合間合間に、その影から嫉妬のような――、或いは憎しみのような黒い気持ちが、注いだカップから内包量を超えて溢れる水のように、滲み出ていた。


「物語りの主人公としては、とてもいい素材ですね。妬ましい程に……。」


 不敵な笑みを浮かべ、その影は語りを続ける。


「これは実に楽しみです。この素材を扱った悲劇の物語を、私は書くことができる。」


 影から発せられる――、男のものと思われる声は次第に大きさを増していった。


起承転悲きしょうてんぴの王道になぞらえて、僭越せんえつながら、終焉をお贈り致します。」


 そう言い切り、男は右手に緋色の光を集束させそれを筆に見立てる。

 そして、何もない空中に向けて、何か文章のようなものを淡々と描き始めるのであった――。

第二章開幕しました。

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