第19話 提案の真意
第19話 提案の真意
「ヨヅキはこちらで預かろうと思う。そして、もしもの時は俺達が侵攻を食い止めよう。」
この案――、というか、全てを引き受けるだけなのだが、ヨヅキにとっては安全面で利があるし、魔王にとってもメリットでしかない。
我ながら最高の提案だと思う。
だが、担うというだけあり、で負担は全てこちら持ちとなるのだ。
ソアから反対されてもおかしくない。
「我々にとって貴方方の後ろ盾を得られるのは有難い限りですが、そちらにメリットはあるのでしょうか?」
ソアよりも先に、逸早くステンリーが反応する。
「彼の言う通りだわ。ヨヅキを引き取ることと私達が後ろ盾になる事で、私達に利益になる要素はあるのかしら?」
そして、やはりソアも同意見の様だ。
予想通り、こちらの利を解かなくてはいけないだろう。
素直に聞いてくれるとありがたいが――。
「メリットならある。それも重要な役割としてだ。」
聞いてくれることを願いながら、俺はきっぱりと言い切った。
「統合された世界で、異世界を束ねるために向こうの世界を知る人物は必ず必要になる。現状、ヨヅキが話してくれた向こうの世界では、精霊に変わる新たなエネルギーを生み出しているみたいだし……、ヨヅキの知識は統合期を迎える俺達にとって重要になるはずだ。」
「それは私達だけじゃなく、魔王にとっても同じメリットだわ。」
やはりこれだけの説明では物足りないのだろう、すぐさま鋭い指摘がソアから放たれる。
「その情報を私達で独占するにしても、活用するには専門分野で研究する必要があるわ。専門分野として研究できる人材は魔王の方が多いと推測できるのだけれど、それなら魔王を介して情報を得る方が都合がよくないかしら?」
ソアの意見はもっともだ。
独占して利益を出すのには、利益を生み出せるだけの活用力が必要である。
活用力は多くの人材を有している魔王の方が遥かに上になるのは調べる必要もなくわかる事だ。
それに、戦力で勝るこちらが情報開示を求めれば、魔王は拒むことができない。
ならばこちらで保護する必要性はなく、その都度開示を要求すればいいだけである。
確かにそれが楽なのだと思うが、今後の事を深く考えるなら、俺達には必要なものがあるのだ。
現状不足している、協力者の頭数である。
「情報に関しては魔王と協力するつもりだよ。最大のメリットは情報ではなく、統合期の戦力として必要だと思ったからだ。そのいつ訪れるかわからない統合期に戦力として加わるには、俺達と一緒でなければいけない。」
統合期とその時の戦力というキーワードから、頭のいい彼女なら察してくれるはずだ。
三つの世界が統合される為、それに見合う各世界の主要人物や協力者の数。
何年先かは分からないが、早めに準備しておくことは悪手にはならないはずである。
「……、なるほど。」
何とか意図が伝わったみたいで、僅かに聞き取れるくらい小さな声を零すと、頷いて納得を示してくれた。
後は当の本人――、ヨヅキの了解を得られればこの話はこれでまとまる。
「そういう理由から、ヨヅキには俺達と共に来て欲しい。」
そう言い切り、俺はヨヅキへと視線を向けた。
「何の取り得も力もない私で、本当にいいのだろうか?」
不安なのだろう。
しかし、ヨヅキ以外に彼女がいた世界を知る者はいない。
その情報は得難い知識であり、十分に価値のあるものだと思う。
「大丈夫だ。ヨヅキの知識は魔王にとっても、また人間領域の王達にとっても重要な情報になる。だからこそ、俺達と一緒に来てほしい。」
俺は自信を持って言い切った。
「取り得が無いと思うなら作ればいいわ。私達と行くのであれば、それくらいの向上心を持ってもらわないとね。」
いいタイミングで、ソアも言葉を掛ける。
「そう謙遜しなくても、我々にとって貴方は重要な人物です。貴方を得られない事は少々残念な結果にはなりますが、貴方の為にもお誘いを受けることをお勧め致します。」
そして最後に、ステンリーが言葉を添えた。
多くの賛同を得、最早ヨヅキに断る選択肢は見当たらない。
「ありがとう。少しでも力になれるよう努力する。」
不安から解放された安堵と新たに居場所を得た気持ちから、ヨヅキは深く頭を下げながら謝礼の意を一言に込めた。
これで一件落着だろう。
「それでは話はこれくらいにして、よろしければ食事と宿泊場所をご提供したいと考えておりますが、いかがでしょうか?」
対談の終幕を見計らい、ステンリーが食事と休息の提供を申し入れてきた。
ふと思えば、目を覚ましてからこれまで休息という休息を取ってはいない。
不老の効果なのだろうか、疲労の蓄積も空腹感もまったく無いようだ。
だが、ここまで航海をしてきたヨヅキや、疲労感のない俺についてきたソアにとっては、とても有難い申し入れである。
「それは有難いわ。お言葉に甘えさせて頂こうかしら。」
真っ先にソアが承諾を述べ、ヨヅキも頷いて同意を示していた。
やはり二人とも無理をしていたのだろう。
今後、こういった配慮も必要になりそうだ。
俺達の承諾を確認したステンリーは、使いの者を呼ぶために魂魄の精霊術を用いて連絡を取った。
「すぐに案内の者が来ます。今宵はゆっくりとお休みください。」
そうステンリーが答えると、彼はゆっくりと入り口まで歩いて行き、そのまま部屋から退出する。
ステンリーを追う形でディーも部屋から退出すると、入れ替わりでメイド服姿の使用人が部屋へと入ってきた。
「それでは皆さま、ご案内させていただきます。」
彼女は一礼をし、俺達は彼女の手引きで部屋から退出する。
こうして魔王との対談は終了し、客人として魔王城に一泊することになった―――。
食事を済ませた俺達は、各一人ずつに用意された宿泊用の個室へと案内された。
部屋の造りは簡素なものであり、木製のベッドと机と椅子が並んでいるがその他には何もなく、装飾品の類や植物の一つも見当たらないまでの素朴さである。
休息をとるだけの部屋としてだけ機能していれば差し支えない。
そう思わせるような造りであった。
「その地の物を見れば、その地の文明が分かる、という言葉があるのだけれど、この世界は私の居た世界程進んではいないようね。」
ソアはそう呟き、用意された中央の部屋へと入っていく。
「それはこの世界が遅れていると言う事なのか?」
直ぐに質問を発したが、既にソア姿はなく、部屋の扉は閉ざされていた。
その様子を見ていたのだろう、ヨヅキが代わりに問いに答えてくれる。
「遅れているのかは分からないけど……、私の居た世界からすると、この世界の建造物や道具は過昔から使われているものを長持ちさせているという表現が近いかもしれない。」
意外な所からの回答に驚きつつ、俺は声の発する方へと体を向けた。
更にヨヅキは続ける。
「うまく言えないのだけれど……、この世界には、私の居た世界と違って精霊術があるでしょ。それを使って色々なことができるから、新しい技術開発の必要性がない……のかもしれない?」
確信が持てていない所為なのか、最後が疑問形になりつつも、彼女なりに自分の考えを伝えてくれた。
需要が無ければ生まれない。
逆を言えば、需要があればそれを満たそうとするのが人なのだ。
「なるほど。ヨヅキの居た世界では、そもそも精霊枯渇によって精霊術どころか精霊の力を利用する道具は使えないんだったな。だから新しい技術の開発が絶対的に必須だったという事か。」
アルテミスは納得を示し、ヨヅキもそれに頷いた。
「教えてくれてありがとう。何かあれば呼んでくれ。それじゃあまた明日。」
「こちらこそ、これからよろしくお願いします。」
言葉を交わし、各々に部屋へと入っていく。
記憶を喪失のしている所為か、異世界に限らずこの世界の事も俺はよく分かってはいない。
こんなことで大丈夫なのだろうかともどかしさが残るが、今はこれ以上考えても仕方のないことだ。
それに、相変わらず疲労感はないが、休めるときに休んでおいた方がいいだろう。
俺はベッドに横たわり、そのまま目を閉じ眠りについた――。
久々の投稿になってしまいました。
次話でプロローグの為のプロローグも折り返しになります。




