第0話 召集される紡ぎ手達 その2
第0話 召集される紡ぎ手達 その2
少し肌寒い風が吹き抜け、少女は意識を取り戻した。
体を起こし辺りを確認すると、なだらかな丘の上にいるのが分かる。
遠くには、歴史の教科書でしか見たことのない街並みが広がっており、まるで別世界にいるような感覚であった。
不安を覚えつつ見知らぬ景色を観察していると、後方から聞き慣れない足音のような音と、荷車を引くような軋んだ車輪の音が聞こえてきた。
「ここにおられましたか、勇者様。」
少女が振り返った先には、馬2頭で牽引する馬車が1台、それを操作しているであろう運転手の男と、いかにも大臣です!と言わんばかりの、気品ある装飾のローブを羽織った男がこちらへ向かってきていた。
少女の近くへ到着し、馬車から降りてきた大臣のような男に、少女は疑問を投げかける。
「ここは、ど――、」
と、少女が言いかけて、大臣っぽい男が――、
「ここはマリーランド王国。その南郡に位置するダカルの街です。」
と、言い終わる前に回答した。
聞きたいことを先読みされて驚きつつも、聞き覚えのある国名を伝えられたことに困惑する。
困惑の理由は、彼女の知る限りマリーランド王国は約80年前に王国制を廃止し、民主制を取り入れた、和環という国に生まれ変わっていたからだ。
無くなったはずの国に自分がいるということは、過去にタイムスリップでもしたのだろうかと思い――、
「マリーランド王国っていうことは――、」
と、彼女が言いかけると――、
「おそらく過去に来られたとお思いでしょうが、過去ではなく並行する世界に転移されたと言う方が正しいかと思われます。」
と、またも聞きたいことをあっさりと先読みで返された。
〝なるほど――″
と、質問に対しての回答を得たことに納得したわけではなく、多分この大臣はエスパー的な、占星術か何かで先読みの力を持っているのだという確信。
それに対してのなるほどという思いであった。
「ちなみに、先読みではなく推測から申しておりますので、占い師の類や特殊能力ではありませんよ。」
誤解無きようとのことであったが全くの逆効果であった。
「それよりも、この場での立ち話も何ですので、城内にてお話をしませんか?」
目的を思い出したかのように大臣は言葉掛け、少女は頷き馬車に乗り込んだ。
それを確認し、運転手の男が手綱で馬を操作する。
「申し遅れました、私はこのマリーランド王国で将軍を務めております、エンス・アイド・シルヴと申します。」
「私は、都城夜月と言います。」
動き出した馬車の中で自己紹介を済ませると、王城に着くまでの道のりで、この国のことやヨヅキのいた国のことを話し合った――――。