第16話 魔王との対談①
一行は、対に魔王城へと入場する。
第16話 魔王との対談①
「いらっしゃいませ。ご用件の方はあちらの受付にてお伺いさせていただいております。」
入場早々、丁寧な口調で女性の妖魔らしき者から案内を受ける。
殺伐とした雰囲気を想像していたが、そのあまりにも予想とかけ離れた光景に、混乱のあまり言葉を失った。
「あれ?皆固まってるけど、長くなる前に受け付け済ませるよ。」
唯一、ここの勝手を知っている様子のユナだけは普段通りの態度で行動し、硬直する俺達を引率するように受付へと誘導する。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします。」
受付に到達し、受付嬢のような妖魔の女性から声を掛けられた。
「あー、遊戯邸のユナと勇者とすごく強い奴が来たと伝えてくれ。」
ここでも、勝手知ったるユナが返答し、話を進める。
「畏まりました。」
了承と共に受付嬢は一礼し、目の前に緋色の光を収集するとそれに顔を近づけた。
伝達するための精霊術なのだろう、受付嬢はユナが伝えた言葉をそのまま復唱する。
光の先からの返事を受け、一言二言会話がなされていた。
そして、しばらく待った後、光を収束させた受付嬢は俺達に魔王からの返答を伝えてくれる。
「『強者の襲来とは楽しみだ。その強さが偽り無きものであるならば、我が城の最上階まで来るがよい。』とのことです。」
わざわざ真似をする必要があるのだろうか――。
凄みのある口調と雰囲気で魔王からの返答を代弁し、受付嬢は満面の笑みを見せる。
返答の内容から察するに、勇者とすごく強い奴らが攻めてきたと受け取られたのではないだろうか。
そう思うと、このまま誤解された状態はよろしくない。
「いや、勘違いがあるようなので訂正してほしい。ドランクの紹介で話し合いに来たと伝えて貰えないだろうか?」
「畏まりました。」
受付嬢は要求に応じ、再度魔王に伝達をしてくれた。
程なくしてまた返答が返ってくる。
「『ドランクが認めた者の挑戦とあらば、全力を以て相手しよう。』とのことです。」
先程と同じように、凄みある口調で代弁してくれた。
全く誤解は解けていないようである。
どうしてこうなってしまったのか――、と考えて思い至った。
ユナの適当な言い方がこの事態を招いたに違いない。
「お前の言葉足らずの所為で話がややこしくなってしまったじゃないか。」
「え?……これ、あたしの所為なのか?」
私は悪くないとばかりに反論が聞こえるが、非は明確だ。
何よりその豊満な胸が威圧を与えているのだろう。
実にけしからん。
戦闘になったら真っ先に矢面に立ってもらおう。
「戦いになろうとならないと、どちらでもいい気がするのだけれど。倒せばいいだけの話しじゃない。」
そんなことを考えていた所、いつまで経っても話が進まない現状に、ソアが呆れを訴えてきた。
なんとも勇ましく、不安になりそうな言葉が聞こえた気がしたが――、今は気にしないでおこう。
ソアはそのまま受付嬢に問いかける。
「最上階にはどこから行けばいいのかしら?」
「最上階へはあちらの階段をご利用下さい。」
彼女の質問に対し、受付嬢は手で階段の場所を指し示すと丁寧に答えた。
「ありがとう。」
ソアが一言礼を述べると受付嬢は一礼を返す。
初めからこうしていればよかったのではないだろうか――。
「お前が凄く強いイケメンが来たなんて言わなければすんなりいっていたんじゃないか。」
「いや、明らかに向こうの受け取り方に問題があるだろう。それにイケメンなんて言っていない!」
ここまで非を認めないとは、中々に強情な奴だ。
いや、強情なおっぱいだ。
全くもってけしからん。
「いい加減それくらいにして、早く最上階まで行くわよ。」
言い合いを続けていた俺達に、ソアからの圧が掛かった。
言葉と共に歩き出すソアにヨヅキが追随し、俺達も言い合いを打ち切って続く。
そして、最上階へと向かっていった――。
長い階段を登り切り、俺達は最上階の部屋の前にたどり着いた。
部屋の前には一人の妖魔が待っており、『こちらのお部屋です。』と声を掛けてくれる。
俺達は言われた通りに部屋の中に入っていった。
今度こそ、淀んだ空気と張り詰めた緊張感の中、中央の玉座に堂々と腰掛ける魔族の王という、如何にも魔王の部屋というものを想像する。
その両サイドに並ぶ、四天王やらトリニティ―だのと呼ばれる側近――、その圧を感じながらの会談を覚悟しなくてはいけないはずだ。
しかし、再びその期待は裏切られることとなる。
「ようこそ魔王城へ。私が魔王のリーダー、ディー・シュヴァインという。」
声と共に入ってきた光景――、まるで企業の会議室を彷彿させる長い机に、いくつかの椅子が規則正しく並べられていた。
想像とは違う光景に驚きつつも、さらに驚愕の真実が告げられる。
「私は魔王の頭脳、ステンリーと申します。」
「俺が魔王の槍、ダイスだ。よろしくな。」
なんと魔王が三人もいたのだ。
ブロンドのショートヘアーに青い瞳で、魔王に相応しく物々しい甲冑に身を包んだ男、ディー・シュヴァイン。
彼の右側には、シルバーのロングヘア―と眼鏡越しに青い瞳を伺わせる、賢者を連想させるような大きく気品のある群青色のローブを身に纏った男、ステンリー。
逆側には、黒の短髪に銀朱の瞳、白のワイシャツの袖を七分辺りで折り返し、その上からは燕尾の着いた黒いベストを着用し、下は黒革のパンツ姿の男、ダイス。
この三名の魔王が机越しに立っていた。
「勇者、及びすごく強い方々、お名前を聞かせていただいてもよいだろうか?」
中央に立つ、ディーと名乗った魔王が俺達に向けて声を掛ける。
受付でのあのやり取りは一体何だったのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は言葉を切り出した。
「俺はアルテミス。色々と事情があって記憶喪失になっている。偶然出会ったドランクから、魔王と会っておいた方がいいと言われた為ここに来たんだ。」
「私はソア・ヴァルキュリス。異世界から来てアルテミスと出会い、今は彼の記憶を戻す手伝いをしているわ。」
「私はヨヅキ・ミヤシロ。勇者として異世界から転移し、マリーランド王国の戦士と共に魔王討伐の為向かっていたのだけれど、烈風の剣と呼ばれる妖魔の襲撃を受けて仲間は全滅し、ユナとの戦闘で危ない所をアルテミスに助けられたの。」
魔王達は各々の名前と経緯を確認し終えると、中央にいるディーに代わってステンリーが話しを進行させる。
「なるほど。各々方の経緯、確認いたしました。ではまず、こちらの要件を先に済ませておきましょう。」
そう言うとステンリーは視線をユナへと向けた。
「あー、あたしが報告するより戦った張本人がここにいるんだが……。」
面倒臭そうな態度を見せるユナ。
とは言え、初っ端からブレーキをかけていては話は進まない。
俺は『早く報告しろよ』と念を込めて、ユナに視線を送った。
それを察してか、諦めたように溜息を一つ吐き、彼女は話し始める。
「襲撃のタイミングと場所から、奴らは事前に勇者の情報を得ていたと思われる。」
言葉を切り出したユナに、周囲の視線が集まった。
「なるほど。どうやら長くなりそうですね。皆さん、よろしければ椅子にお掛け下さい。」
穏やかではない、計画的で組織的な内容をほのめかす情報に、ステンリーは着席を提案する。
そして、全員が着席をしたところで、ユナはゆっくりと話し始めるのであった――。
対談は続きます。




