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第15話 魔王城前での語らい

第15話 魔王城前での語らい


 魔王城の入り口に到着した俺達は、気を失っているユナと勇者の少女の【飛球】を解除し、入り口前の草むらにそっと寝かせた。

 入場時には起きていてもらった方が都合がいい。

 そう考え、二人の回復を待つことを決めた。

 二人が起きるまでにはもう少し時間がかかるだろう。

 そう考えたソアは、俺の扱える精霊術を増やそうと、【宝庫の鍵】の伝授を試みていた。

 

「こんな感じかな?」


 何度か失敗をした後、徐々にコツを掴んでいった俺は、無事に【宝庫の鍵】を出現させることに成功する。

 神域属性の一つである空間属性を、俺は徐々に使いこなしつつあった。


「成功したようね。後はリンクさせれば、宝庫の中身を共有できるわ。」


 ソアはそう言うと、俺が出現させた【宝庫の鍵】の中で、新たに【宝庫の鍵】を展開させる。

 Aの中にBを展開させることで、お互いにBの中身を共有できるという理屈だそうだ。

 まぁ理屈はともかく、所持品を持ち歩かなくていいのは非常に便利である。


 共有が成功し一息ついた頃、勇者より先にユナが意識を取り戻した。


「あー、生きてる……。」


 生きていることが不思議と言っているような、生きていたことを面倒に思っているような、どちらとも取れない口調で、ユナは言葉を零す。

 その声を聴き、俺はソアと共にユナの方へと歩み寄った。


「気分はどうだ?」

「ちょー最悪。」


 ユナは躊躇いなく即答する。

 そりゃそうだと思いつつも、やりすぎたことは内緒だ。

 生きているだけましだ、と言う事にしておこう。


 彼女はそのまま上半身だけ起こし、唐突に忠告を述べた。


「負かした相手には止めを刺しとかないと、いつか復讐されるよ。」


 ユナから発せられた言葉は、生き恥を晒したくないという思いなのか、単に忠告としてなのかその真相はわからない。

 しかし、せっかく生きていたのだから、死を望むのは勿体の無い考え方だと俺は思う。


「死にたかったのか?」


 その思いからか、自然と言葉が出ていた。


「別に死にたいとか、そう言うのじゃないけど……。」


 歯切れは悪かったが、死を望んでいるようではない。

 それを確認できただけでも良しとしておこう。


「なら良かったじゃないか。」


 そう声を掛けつつ、俺はユナの目の前までしゃがみ込んだ。

 そのままユナの肩にポンッと手を置いて言葉を続ける。


「生きていれば俺に復讐ができる。気が向いたらいつでも挑んでくればいい。」


 そう伝えるだけ伝え、俺はまたスッと立ち上がった。

 そして、ゆっくりとソアの元へと戻る。


「あいつと同じことを言うんだな……。」


 離れ際だった為か、かろうじて聞き取れる程の声量でユナが呟いていた。

 彼女にとってその言葉と――、その言葉を掛けてくれた人物は特別な存在なのだろう。

 詮索をするつもりはないが、彼女に同じことを言ってくれた人物が少しだけ気になった。

 今、彼女のアメシスト色の眼には、その特別な人物の面影が映し出されているのだろう。

 何にしろ、気を取り直してくれたようで俺は安堵していた――。




 それからしばらくして、勇者の少女も意識を取り戻した。

 疲労と負傷により怠惰となった体に鞭を打ち、彼女はゆっくりとその場に立ち上がる。

 ふらふらと立ち上がった姿に不安を覚えつつ、俺はその少女の元へと向かい肩を貸した。


「助けてくれてありがとう。」


 彼女はそう答えると、そのまま周囲を確認する。

 突然の出来事に理解に時間がかかると思われたが、それは気苦労に終わった。


「私はヨヅキ、ヨヅキ・ミヤシロといいます。異世界から転移して、勇者として魔王を倒すためにここへ向かっていました。」


 状況を察し、協力を選んだのだろう。

 彼女の自己紹介を聞き届け、俺達も簡単な紹介をすることとなった。


「俺はアルテミス。訳あって記憶喪失になっている。」

「私はソア・ヴァルキュリス。貴方とは違う世界だけれど、私も異世界から来たの。」

「あたしはユナだ。魔王とはあんまり関係ないからな。」


 各々に簡潔な自己紹介を終える。

 そして、俺達は順にこれまでの経緯等を話し合うこととなった――。




 突然異世界から転移し、辿り着いた先のマリーランド王国にヨヅキは保護された。

 国王に謁見し勇者の任を賜り、王国を見聞してそこに暮らす人々と交流し、王国の兵士と共に剣術の訓練に勤しむ。

 元々剣術道場を営む家庭で育ったため、剣術で困ることは無かった。

 本来なら半年の修行が必要と思われていた所を、僅か一ヶ月程度で修了の証を得る。

 そして、予定していた半年後を待たずして、今回の魔王討伐作戦が決行されたのだ。


「全部で五隻の船が出航し、途中で三隻が魔王の配下によって壊滅させられました。全滅を逃れるため、一隻には報告の為の帰還を依頼し、私と数名で時間を稼ぐことにしました。」


 ヨヅキは少し視線を落とし、その後の話を続ける。


「無我夢中で戦い、私を残して仲間は全滅。それでもなんとか魔王の配下を倒し、魔王城が見える所まで来ることができました。そしたらもう一隻、魔王城の方から近付いてくる船を見つけ、貴方との戦闘に……。」


 これまでの経緯を話し終え、ヨヅキは口を噤んだ。

 一人となった今、これから自分はどうすればいいのか、といった所だろう。

 戦闘で多くの仲間を失い、生き残るためとはいえ、自分の手を汚すことにもなった。

 そして、勝てない相手との遭遇と敗北。

 そのまま殺されていた方が楽だったのかもしれないが、生きている以上は生きるための選択をしなくてはいけない。

 その両方が混在し、今の停滞を生んでいるようであった。


「じゃあ、次は俺達の番かな。」


 音の消えた状態を払拭するように、俺は自身の経緯と目的を話すことにする。


「とあるところで目覚めた俺は、気付いた時には既に記憶喪失になっていて、ソアとはそこで出会った。記憶を取り戻す手掛かりに、これから妖魔領域へ向かうところだったんだが、その前に魔王に会っておいた方がいいという助言を聞いてここに来たんだ。」


 伏せておいた方がいいと思われる部分を端折り、簡潔にまとめた。


「詳しい経緯はまた道中で話そうと思う。長くなりそうだしな。」


 そう言い、俺達はユナへと視線を移す。

 それに気付き、ユナは自身の目的を話し始めた。


「あたしの目的は二つ。ヨヅキが魔王の配下と勘違いしている、烈風の剣って言う傭兵団の行動監視と、その行動が危険を及ぼすなら排除しろって言う依頼でこの辺りを散策していたんだ。うちのリーダーがたまたま魔王と親しいから、そのよしみであたしが依頼を請け負うことになったという訳。」


 三者目的や経緯を話し終えたところで、これまで黙して聞いていたソアが口を開く。


「なら、このまま四人で魔王に会いに行きましょう。ユナは烈風の剣の件を報告しなくてはいけないでしょうし、私とアルテミスは魔王に用がある。ヨヅキは魔王から保護対象として見られているみたいだし、貴方にとっても魔王と対面するのは悪いことにはならないと思うわ。」


 納得のいく提案だった。

 俺達三人は各々に頷き、ソアの言葉を承諾する。

 こうして俺達は魔王城へと入場するのであった――。

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