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第13話 勇者らしき者VS魔王らしき者

第13話 勇者らしき者VS魔王らしき者


 俺達は【飛装】を纏い、身一つで海の上を横断していた。

 当初は【飛球】を使って横断するつもりであったが、風の抵抗を球体全体で受けるため抵抗が大きくなる。

 船だと三日、【飛球】だと二日といった所か。

 しかし、【飛装】であれば、体の向きを調整することで風の抵抗は殆ど受けない。

 風の抵抗が無ければ、一日もかからず到着できるだろうと判断し、俺達は【飛装】で航海することにした。

 否、航海というよりは空の旅なのだが――。


「この速さだと、あと数分もしない内に着くと思うわ。」


 数時間が経ち、予想以上の速さだとばかりにソアが言う。


「たしか、ドランクが魔王城と言ってた島か。ソアがいた世界では、そこにはセントラルガーデンと呼ばれる議会場になっているんだよな。」


 ソアがいた世界――、妖魔世界の中央に位置するセントラルガーデン。

 その場所は、グリモアなどの書物が収められているだけでなく議会を開いたり多くの妖魔達が交流を深める場所でもある。

 知識の集合場所としての機能を十二分に発揮し、知識の長期探求を目的とした長寿の存在である妖魔を――、その妖魔の世界を象徴する建造物なのだ。


「中央図書館……、その他も知恵の庭園など、いくつかの呼び名があるわ。その名に相応しく、セントラルガーデンには精霊学研究の全てが収容されていると言っても過言ではないわね。」


 可能であるならば、一度はその場所を訪れてみたい。

 ソアの話を聞き、飛行を続けながら俺はそう思った。


「お、あれが魔王城か。」


 ふと視界に入ってきた、島の上に建つ砦のような建造物を確認し、言葉が零れる。

 ソアもそれに気付いているようだ。


「一見無機質な造りに見えるけど、中には多くの妖魔達が居るのでしょうね。こちらの世界の妖魔達がどんな精霊術を使うのか、少し気になるわ。」


 いつのまにか、ソアの真紅の瞳には溢れんばかりの期待が宿っており、探求する者として逞しさを感じさせる。

 しかし、彼女の目に映し出されたのは別の光景であった。


「少し西の海上……、沈みかけている船の上に二つの影が見えるわ。」


 ソアの言葉で西の海上に目を向けると、そこには二隻の船が見えることに気付く。

 一方はソアの言う通り沈みかけており、もう一隻はまだ大丈夫そうであった。


「あの黒い点が人影だとして……、あれは戦っているのか?」


 僅僅かに見える人影のような点は、何度かぶつかる様に動いては、足場が消えていく中で一定の距離を取り、また同じように交錯し距離を取るといった動きを繰り返す。


「あの様子じゃそろそろ決着がつきそうだけど、魔王城の近くで戦闘していると言うことは、ドランクの言っていた勇者と魔王に関係あるのかしら?」

「確かに。と言うことは保護する必要があるかな。」


 ソアの言葉に納得を示し、俺は進路を変えた。

 そして、新たな目的の場所に向けて急加速する。


「あら、まだ確定ではないのだけれどね。」


 加速する寸前、溜息と一緒に何か聞こえたような気がするが、俺は気にせず目的の場所へと向かった――。




 アルテミスとソアの二人が目指す魔王城。

 そこから少し西の、海上に浮かぶ二隻の船の上で、二人の少女が対峙していた――。




*** ヨヅキの視点 ***


「勇者って言うから楽しめると思っていたのに、まだ全然力の使い方がなってないな。」


 紫色の長い髪をポニーテールのように後ろで結び、アメシストを思わせる紫の瞳。

 服装と言うよりかは衣装と言った方が妥当であると思われる、薄水色のアラビアンコスチューム。

 簡潔にすると、ベリーダンス衣装を限りなくシンプルにしたようなものを纏った目の前の少女――、いや、魔王の手先が言葉をかけた。


「さすが……、魔王の手先だけあるわね……。でも、人々の安寧の為に、私は負けられない!」


 そう――、私は負けられない。

 魔王という脅威を取り除くために、私はこの世界に転移し力をつけてきた。

 鍛錬やこの遠征費に限らず、私の生活費はマリーランド王国の国費で賄われている。

 つまり、王国の人々の期待を一身に背負っているのだ。

 こんなところでつまずくわけにはいかない。


「魔王の手先なんかに、負けるなんて許されない!」


 眼前の魔王の手先よりも長い黒髪を、ポケットから取り出した赤い紐で一つ括りにし、私は気合を入れなおす。

 そして、目を閉じて神経を研ぎ澄ませた。


 体に張り付くような黒いアンダーシャツ。

 その上に付けたプレートアーマーやレッグアーマー、籠手等の防具も、まるで自身の体の一部のようだ。

 両手には刀のような片刃の剣。

 その剣先に至るまで、私の感覚は捉えている。


「あたし、魔王の手先じゃないんだけど……、そりゃ知らない間柄でもないけどさ。あたしはあたしの目的で動いてるから、そこのところよろしくね。」


 魔王の手先なだけあり、口は堅いようだ。


「そうやって魔王を庇うつもりね。でも関係ないわ!私は貴方を倒し、その後で魔王を倒す!」


 魔王を倒す。

 その目的は変わらない。

 そう、これはあくまで魔王に至るまでの通過点なのだから。


「そういう熱いのとか、そもそも話聞いていないのとか、あたし好きくないんだけど。」


 そう言葉を述べながら、本当に面倒になったのか、魔王の手先は濃紺の光を集束させ、濃紺の陣を描いた。


鬼手おにて


 そう魔王の手先が唱えると、濃紺の陣から鬼の手を模ったような拳が、私目掛けて放たれる。

 私はそれを刀で弾いて防ぎ、そのまま刀を鞘に納めた。

 そこにできた一瞬の間――。

 私はこの一瞬を待っていた。


「もらった!」


 沈みかけの船を思いっきり踏み込み、一直線に跳躍して相手の懐まで潜り込む。


止水一閃しすいいっせん


 居合抜きのように、抜刀と共に真横へ振り抜き、青い閃光が魔王の手先を捉えた――、かに思えたが、その閃光は空を切っていた。

 身を翻すように容易く、私の斬撃を避けた魔王の手先は、その隙を狙っていたかのように無数の濃紺に光る陣を展開する。


魑魅魍魎ちみもうりょう


 そして、その無数の鬼の拳をが、私を目掛けて撃ち込まれた――。


「しまっ――!!」


 防御を考えず飛び出した為、無防備な状態の私に無数の拳が襲い掛かる。

 無念だ――。

 そう、諦めの言葉がよぎるほどに、打つ手が思いつかない。

 撃ち込まれる鬼の手は容赦なく船を破壊して行き、粉塵が煙のようになって視界を覆う。

 視界も失い、いつ訪れてもおかしくない衝撃をただ待つだけとなった。


「あー、少しやりすぎたかな。」


 そんな悪態が耳に届く。

 しかし、一向に衝撃は届くことは無く――、私はようやく違和感に気付いた。


「いや、これくらいなら問題ない。」


 聞き慣れない声と、抱きかかえられているような感覚。

 声はともかく、なぜそれに気付かなかったのかと自分を疑いたくなる程だが、徐々に粉塵が晴れて行き、現状が明らかになっていく。


「いったい……なにが起こったの?」


 気付くと、見知らぬ男がバリアのようなものを展開し、私をお姫様抱っこの形で抱きかかえていた――。

5000文字を超えてしまったので分割しました。

一応、1話4000文字以内で書いていくつもりです(^^)/

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