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第10話 旧友との再会

目的を得て、いよいよ彼は世界へと旅立つ。

第10話 旧友との再会


 俺の様子を遠くから見守るように、シンシアは小さく頷いてからディヴァインコアへと再度手を触れる。

 すると、コアからレーザーのような青い光が照射され、光は入ってきた扉とは反対側にあたる壁に集められた。

 集まった光は輝きを増し――、収束の後、そこに隠されていたかのように、地上へと続くであろう扉がゆっくりと出現する。


「その扉から地上へと出られるわ。」


 扉の出現と同時に発せられたシンシアの言葉を受けて、アルテミスとソアは扉へと向かって歩みを進めて行く。

 しかし、中央のコアから離れようとしないシンシアに気付き、ソアが言葉をかけた。


「貴方はついて来ないのね。」


 そう言われることは既に分かっていたと言わんばかりに、シンシアはすぐに言葉を返す。


「貴方が一緒にいるなら何も問題はないでしょう。それに、ウィンディーネの召喚で力を消耗しすぎたの。少し回復してから向かうわ。」


 シンシアの言葉を受け、『わかったわ』と素っ気ない態度をみせたソアは、たどり着いた扉に手をかけると、そのまま押し開けて扉の先へと消えていった。

 本当は、他にも理由があるのだろう。

 訊ねたい思いを押さえ、俺は感謝の意と一言だけ、彼女に伝えることにした。


「ここまでありがとうシンシア。先に行って待ってるからな。」


 そう言葉を残し、俺は扉へと振り返り、ゆっくりと足を進める。


「次に会う時には神域属性の一つや二つは扱えるように、精霊術の鍛錬は怠らないようにね。」

「わかった。それじゃあ行ってくるよ。」


 シンシアの言葉を背に受け、俺は手を振りながら言葉を返した――。




*** シンシアの視点 ***


 二人の出発を見届け終わり、私はは深い溜息を一つ吐いた。


「さてと……、もう既に私は役目を終えているのだけれど、まだまだやり足りないことが多く感じるわね。もう少しだけなら、手を貸しても文句は言われないかしら?」


 誰もいなくなった空間で、私は言葉を漏らす。

 誰かに向けたわけではないその言葉は、自分で気づく程にどこか楽し気に嬉々としていた。


「そろそろ向かわないと……。」


 再び言葉を零し、いよいよ世界の表舞台へと旅立つ二人を思いながら、シンシアはディヴァインコアへと向き直る。

 そして、彼女は目を静かに閉じると、躊躇いなくその身をディヴァインコアへと投じるのであった――――。




*** アルテミスの視点 ***


 扉から出ると、そこは洞窟のようなところであった。

 とは言え、少し先には日の光が差し込んでいるのが見える。

 洞窟と言うにはあまりにも奥行きがなく、洞穴の方が合っていそうだ。


 一先ず俺達は入り口の方を目指して歩き始める。

 ふと振り返った視線の先に、つい先程出てきたばかりの扉は見当たらなかった。

 元々戻る気も無ければ進む事を躊躇う気もない。

 その所為か、扉の消失に対して特に感情を抱くことは無かった。


「どうやら私の居た世界と、この場所はあまり変わってないみたいよ。」


 周囲を眺めつつ、歩きながらソアが話し出す。


「本当に別の世界か疑わしく思うほど、そっくりにできている。これなら別次元、別の可能性により分岐した世界と言われても理解できるわ。」


 そう語るソアは、周囲の環境の類似からか、シンシアの言っていた可能性世界の話を思い出していた。


「それじゃあ、道案内も任せてよさそうか?」


 ソアの言葉から、類似する世界であれば地理はほとんど変化はないはずだと仮定し、俺は案内を依頼してみる。


「そうね。大陸までの道案内はできるかもしれないわ。でも大陸内は期待しないでね。文化も違えば建造物も、その並びも違うでしょう。」


 大まかな場所までは大丈夫のようだが、やはり建物や分岐後の変動で多少違いはあるようだ。


「確かにそうなるか。なら、誰か案内人になってくれそうな人物を探さないとな。」


 ならば、協力者を探すことが必要だろう。

 そう話を進めている内に、俺達は洞窟から外へと出た。

 久々の――、というか、何十年振り――くらいになるのだろう。

 記憶がない為初めてに近い、その日の光に俺は目を細めた。

 やや熱い気温を肌で感じる。

 周囲が海に囲まれているのだろう、四方八方から聞こえる波の音、風に混じる潮の匂い等、俺は五感をフル活用して感じ取った。


「お?……おおっ!」


 その最中――、心地よい波の音に混ざり、突如として聞こえてきた人の声――、


「おおおお、おまっ!」


 声なのか鳴き声なのか、と疑いたくなる程言葉になっていないその音を出す生き物――、否、人物を、やっと明るさに慣れてきた目で注意深く確認する。

 そこにいたのは――、筋肉質の大きな体格に、長めの金髪と髭が特徴的で、なぜか上半身裸の見た目40歳くらいの男であった。


「お前!アルテミスなのか!?」


 男の反応からして、どうやら記憶を無くす前の俺を知っているようである。

 協力者としては最適なのかもしれない。

 そう思っていると、ソアは男の質問を無視して質問を投げかける。


「貴方、アルテミスの知り合いなのかしら?」


 質問に対して質問で返され――、と言うよりも、一方的に男の方の質問を無視して投げられた質問に対し、意識してか、又は無意識なのか――、全く意に留める様子もなく、今度は男の方がソアの質問を無視して話し始めた。


「やっぱりそうなのか!死んだとばかり思っていたが……、と言うか85年前とあまり変わっていないな。あの頃からただの人間ではないと思ってはいたが、お前も妖魔だったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに。」


 一方的に進められる話しの圧に押され、俺は少したじろぐ。

 一方ソアは、無視された事に対して少し不機嫌な素振りを見せていた。


「そうだ!久々の再会を祝い、これからあの時のメンバーと共に酒でも酌み交わさないか?いや、そうしよう!とは言え、俺たち以外はもう死んでしまっているがな。皆の墓前で懐かしい話をしながら、二人で酒を飲むだけだ。よし、そうと決まれば俺の船に案内しよう。」


 男は俺の腕をつかみ、そのまま引っ張るように連れて行こうと歩き出す。

 その背に向けて――、無視された事への怒りを形にするように、ソアは片方の手を前にして構えた。


『ヴァニッシュスピア』


 手加減はしているだろうが、容赦なく白銀の矢が男の背に向けて撃ち込まれる。


「私の質問を無視するとはいい度胸ね。」


 かなりご立腹の様子だ。


「そもそも眼中にないといった感じで私を無視して、貴方死にたいのかしら?」


 言葉と共に2本目の槍が背中に打ち込まれる。

 さすがに背中に痛みを感じ――、否、違和感ぐらいにしか感じていない様子であるが、男がソアへと振り返った。


「おお!お前にもついに女ができたか!些か狂暴そうだが……、まあ何にせよおめでたいことだ!凶暴なねーちゃんも一緒に飲むか!」


 ソアの言葉、攻撃、威圧を一切気に留めず、男は笑いながら言葉をかける。

 その態度に怒りは吹き飛んだのだろう、ソアは唖然としていた。


「ちょっとまってくれ。」


 このまま男のペースで振り回されるわけにもいかず、俺は声を掛ける。

 そもそも、最初に明らかにしておかなくてはいけないことがあった。


「お前、だれなんだ?俺、記憶喪失になってるからお前の事全く分からないんだが。」

「何……だと……?」


 男は大きな衝撃を受けたかのように驚き、ようやく話しを聞ける状態になった――。

残念ながら、表舞台でのファーストコンタクトはおっさんでした。

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