第0話 召集される紡ぎ手達 その1
第0話 召集される紡ぎ手達 その1
すべての力を込めて放った一撃は、止めを刺すには十分な威力だった。
手応えと言ってもいいだろう、お互いに死闘を尽くした相手だからこそ判る、最後の一撃の感触。
その次に訪れたのは、勝利という達成感であった。
疲れ果てているはずなのに、気持ちは高ぶりを見せる。
それとは逆に、張り詰めていた緊張が解かれたように、安堵の溜息を吐いた。
〝俺達が勝ったんだ――″
そう喜びを噛み締めた直後、不意に心臓がトクンッと大きく脈打ち、同時に意識が朦朧として視界が狭まるような違和感をおぼえる。
眠気や脱力感に似た、力がスッと抜けていく感覚に、足にも力が正しく伝わらず体がフラフラと揺れ始めた。
更に、周囲の音もフィルターがかかったように籠ってくる。
「何か――聞こえる――。」
おそらくは仲間の歓喜の声だと思われる。
あれだけ身を粉にして、死に物狂いになって得た勝利だ。
皆思い思いに叫んでいるのだろう。
その内何人かは、フラフラと力なく立っている自分に、『大丈夫か!?』と声をかけてくれているようだった。
視界も定まらずぼやけている所為で仲間の顔もまともに認識できないが、こちらを気にかけるような視線は感じる。
「まずい――な――。」
そう漏らした瞬間、まともじゃない視界の中でも判るくらい、視線が空を仰ぐ方に向けられ、足にかかっていた負荷が解放される感覚が訪れる。
どうやら後ろに倒れこもうとしているようだ。
足にかかっていた重力からの解放感と、背中から伝わる何もないところへ倒れていく浮遊感。
ただ、不思議と実際に倒れる速度に反してゆっくりに感じている。
冷静でいられるのもその為か、またはその感覚だからこそ冷静でいられるのか、考えても仕方のないことだ。
それよりも、後ろに倒れこもうとしていて、自身が立っていた場所の後ろはどういう地形だったかを思い出す。
「本当に――マズ――。」
思い出した地形――、否、地形など存在しない。
なぜなら後方は海を背にして戦っていたのだ。
地を形成するものはそこには無い。
それを認識したときには、既に体が海面に埋もれようとしていた。
ザパーンッと音を立て、背中に軽い衝撃と冷たい感覚が襲い、その冷たい感覚は一瞬にして全身を包み込む。
〝――海に落ちたみたいだ――″
ボコボコボコッと、巻き込まれた空気が泡となり、沈んでゆく自分を避けて海面へ昇っていく音が聞こえた。
視界はぼやけ、すでに閉じつつあったが、海に差し込む明りが徐々に薄くなっていく。
次第に認識できる明りが減っていくことから、体がどんどん深くに沈んでいくのがのが判った。
〝――もう、ダメかな――″
そう思った次には、意識が完全に途絶えた――――。
初投稿作品です(^^)/
まだまだ未熟ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。